2 迷子のおしらせ
広大な裏野ドリームランドの中には何カ所かお客、ビジターの相談を受ける施設があり、そこには迷子センターも併設している。
私はどうしてもここに来なければならなかった。
どうしても。
「妹とはぐれたんです!」
対応するコンパニオンの女性に私は訴える。
「小学校に上がる前の、女の子! 空色のワンピースにサンダルを履いて、肩掛けの黄色い小さなバッグを持ってます! 無くしてなければ……赤いリボンが付いた麦わら帽子も!」
一息で妹の特徴を吐き出した私は、おそるおそる女性の顔を見上げる。
「っ!」
息が吐けない。
……同じだった。
ここまで訪れた場所にいた人たちと、全く同じ。
私の妹なんて知らない、と言う顔。
面倒だとか、そういう感情ではなく。
迷子なんて全然存在しない、という表情。
「本当に、本当にはぐれたんです。……ちゃんと手を繋いでいたのに! いつのまにか……あの子……まだ小さいのに」
私は首から下げていたペンダントのチャームを握る。
この裏野ドリームランドの売店で買った小さな鍵の形をしたこれは、今や私のお守りだった。
妹とおそろいで買ったチャーム。
これを握る事で少しだけ勇気が湧いてきそうだった。実際、冷たい対応をされてもこれを握れば力が出た。
……でも。
ここがダメなら、もうどこに行けばいいかわからない。
何を話しても、迷子はいないと言われる。
もう何カ所も回った。十カ所か、それとも百カ所だろうか。その度に同じ事を言われた。
迷子なんていない。
私が言うような女の子はいない。
私の妹はいない。
いない、もう、いない。だって、私たちはもう。
強く、強く鍵を握る。染みのように広がる黒くて悪い考えを頑張って心の隅に追いやる。
けれど、それは神様に奇跡を懇願するような絶望の淵の行為に過ぎなかった。
もうどうしようもない。目の前にあるのは奈落に続く崖。
ただただそうしている事しかできない。
……ところが、だ。
はたして祈りが通じたのだろうか。
まるで私が行き止まりに突き当たるのを待っていたかのように、そこからの展開は今までと大きく異なるものになった。