ローションぬるぬる相撲男
午後6時。俺は自分の部屋のベッドの上で色々と思案していた。彼女と別れてから、色々と考えていたのだが、どうにも彼女の話は奇抜すぎて受け入れられない。
彼女はこの時代から遥か遠い未来、西暦12398年からやってきたという。あの時空テレポテーションを見せつけられても、まだちょっと信じられないな……。
「私は、遠い未来でアイドルのスカウトの仕事をしてるんです。東山さんに是非ウチの事務所と契約して欲しいなって、お願いしにきたんです。貴方には世界で1番のアイドルになる素質があるんです!」
「それが良くわからないんだよ。それ逆でしょ。凡庸な俺なんかより、君がアイドルすべきじゃないかな。すごく可愛いんだから」
彼女は首を横に振った。
「東山さんは美人の基準が全ての時代で同じだと思ってますか?」
「どういうことですか?」
「平安時代の美女と、この時代の美女は同じだとお考えですか?」
「それは……確かに違いますよね」
彼女の言うように、美人の基準というものは時代によって変わるものなのだろう。その時代の価値観が強く反映されるのだ。この時代の美人が平安時代に行っても美人とは見なされないだろうし、逆もまたしかり。
「私の時代の価値観では、東山さんこそが絶世の美少年なのです。私なんて……東山さんに声をかけるのもおこがましい凡庸な女なんです」
そうだろうか?彼女はどうみたって美人で、俺は傍にいるだけでドキドキするんだけどなぁ……。
「若い頃の東山さんの動画を発掘できたのは偶然でした。たまたま眠っていたデータから、東山さんの動画が掘り出された時に、地球は騒然となったんです」
そう言うと、彼女は服のポケットから携帯を取り出した。彼女曰く、この時代の人物として疑われないように持っている携帯だという。そして彼女がその携帯の画面をタッチすると、ローションぬるぬる相撲の動画が流れだした。
「嘘だろっ!あの恥晒しな動画が1万年後まで残っちゃってるのかよ!恥ずかしっ」
「第80次世界大戦すら乗り越えて、この動画は存在し続けたんです。こんなカッコイイ東山さんの姿が失われていたら、世界の女性たちにとって損失だったでしょう」
マジか。このローション塗れになってる俺がカッコイイだと?どういう価値観してるんだ未来の人間達は。
「最後にタオルでローション拭き取る東山さんの姿に未来の女子たちはキュンとしちゃうんです。ちなみにこの動画は2000兆再生回数を突破してます」
しかし信じられないな。理論上はあり得たとしても実感が伴わない。現代では全く女子に必要とされない俺が、ぬるぬる相撲で未来の女達を熱狂させているなんて……。
「タイムスリップには強い制限があるので、この時代には誰でも来れるというわけじゃないんです。国家に申請して、受理されるのは1人だけ。それが許されたのが私なんです」
「そ、それはどうもわざわざ」
「何もずっと東山さんを未来に拘束しようというわけじゃないんです。1年でいいんです。ただ1年だけ、私の時代でアイドル活動してくだされば。当然それに見合う報奨も東山さんに差し上げた上でこの時代に戻っていただくつもりなんです」
「突然、そう言われても……困るな。俺はただの高校生だし」
そして俺は、家の前で彼女と別れた。明日、再びあの公園で彼女は待っているという。タイムスリップには色々な制限があるようで、このチャンスを逃すと1年はタイムスリップできないという。だから明日までに返事をして欲しいという。勝手な話だよ。
もちろん俺の中で答えは出てる。
未来なんて行けるわけがない。そんな荒唐無稽な話でホイホイとついてくほど俺は阿呆じゃないぞ。例え隣の県だろうと行かないもんね。行ったが最後「ホホホ騙されたわね」と態度を豹変させた彼女にタコ部屋に住まわされてコキ使われるかもしれんし。
でも……。
とてつもなく情けない話なんだが。
どうやら俺は彼女に惚れてしまったみたいなんだな。
参ったな。




