舞い上がる阿呆
長い黒髪が美しい謎の女子高生は自分の名前を「レイナ・ニシウチ」と語った。苗字と名前を逆にするって、どういうこと。帰国女子なんだろうか?
「だから私のスカウトはドッキリとか、そういうものじゃないんです」
「そう言われても俺がアイドルって……。冗談でしょ?」
俺はその場を立ち去ろうとしたのだが、彼女は俺の後をしっかりとついてくる。公園を出てもまだ俺から離れようとしない。まさか家までついてくる気だろうか。
「お願いです東山さん。私の話を聞いてください」
彼女は、家路につく俺の傍から離れようとしない。これはとても困るなぁ。ごめん、全世界に嘘をついた。本当言うと内心でむちゃくちゃ嬉しい。なんだかガールフレンドと一緒に下校してる気分になってきたぞぉぉ。ああ舞い上がっちゃう馬鹿な俺。
「っていうかアイドルならもっと他に適当なヤツがいるでしょう。いくらなんでも俺をスカウトなんて変ですよ」
「違うんです。貴方は自分の事を分かっていないんです。貴方の可能性は、この世界じゃ発揮できないんです」
「どういこと……?」
彼女の難解な話はまるで理解できないが、なんだろう彼女と話してると生まれるこのワクワク感は。
もちろん俺は女子というものと一緒に帰った経験などないので、隣に美少女がいるこの状況に非常にテンパっている。彼女は色々と話かけてくるのだけれど、正直あまり頭に入ってこない。ただ彼女の美しい黒髪から発せられるとてつもなく甘い香りの心地よさに、クラクラしちゃう!ああ素敵。だが警戒を解くんじゃないぞ東山恭司。危険な罠な予感がするぜ……。
「……というわけで、東山さん以上の美少年はこの世に存在していないんです」
どういうワケなんだろうか。友人からも「目が死んでる男」と言われる俺が何故に美少年なんだ。
「仰る意味がサッパリなんですが……」
「この時代の女子達は本当に見る目がないんですね。東山さんのような空前絶後の美少年が埋もれてしまうなんて。勿体ない話です」
素晴らしい……。素晴らしい人格者だなこの子は。警戒していたが考えを改めよう。彼女の発言は実に的を射たものだと思うな。まさか机上の空論だと思っていた、仮定の女子が本当に出現してくれるとは。できるなら男前な表情のままでいたいのだけれど、彼女から歯の浮くようなお世辞を言われる度に隠しきれなくなるニヤケ面。
「いやぁ〜でも俺、誰にも美少年だなんて言われたことないんだけどなぁ〜」
「そんな!私だって隣にいるだけでドキドキして仕方ないのに……。東山さんは、よほどこの時代で理不尽な扱いを受けてるんですね」
ああ、なんて心地よい言葉を投げかけてくれるんだろう。外面だけじゃなくて内面も超絶美少女だねこの子は。
しかし……さっきから彼女は微妙に変な事を言ってるよな。なんか引っかかるぞ。なんだろう。
「どうかしましたか東山さん?」
「レイナさん。『この時代』って、どういう意味ですか?」
すると彼女は俺の目をじっと見つめて答えた。
「私、未来から来たんです」
こ……これは困ったぞ。完全にドッキリってヤツだな。やはり美少女は、俺をカラかって楽しんでいたようだ。
ちくしょおおお!どうせこんなこったろうとは覚悟していたさ!でも良かった〜警戒しておいて。
すると疑いだした俺の様子に勘づいた彼女は、ニコリと笑うと意外な言葉を発した。
「疑うなら証拠を見せましょうか?」
「え。見せてくれんの」
ほうほう面白い。ならばお手並み拝見といこうかな。そう思った次の瞬間、彼女の体が消えてしまった。シュッと。彼女のいたはずの空間が、何もなくなってる。そこには透明な空気!空気しかないぜ!
「えええええ!消えた。マジかこれ」
周りを必死に見回すがやはり彼女はいない。自販機の裏にもいないし、電柱の後ろにもいない。近くのゴミ箱の蓋を開けたが中に彼女はいなかった。つまりどこにも隠れちゃいない。消えた。これ消えたよ!
すると今度は透明な空気しか存在しなかったはずの空間に彼女の体がシュッと現れた。消えた場所と寸分違わぬ場所にだ。その奇っ怪な現象を前にして、凡人の俺は唖然とするばかりだ。
「どうですか。驚きました?」
「出たぁぁ!なにこれぇぇっ!どういうこと?」
「これはですね。実は20秒前の過去からタイムスリップしたんです。これで私が未来人だって信じてくれますよね東山さん?」
彼女は首をかしげながらニコっと微笑んだ。
つまり彼女の体が突然に消えてしまったのは、20秒後の未来に飛躍したからというわけだ。ディスイズ未来人!オイオイオイ。話が急展開したぞオイ!
「使用制限があるので、私が東山さんにタイムスリップを見せられるのはこの1回が限度なんです。お願いですからこれで信じてください」
色んな事がありすぎて頭が混乱するぜ。美少女がタダで俺に近づいてくるはずないと思ったが、未来人だったのかよ。やだやだぁ〜過去人類のサンプルとして人体実験されるのはヤダァ〜!という心の声を押し殺して、動じない男を演じる俺。
「そ、そ、そそそそそ、そういうことだったのか。み、み、未来から。そんなことじゃないかと思ったんだよな」
「やだっ!動揺してる東山さんの可愛さって殺人的です!」




