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やっと本編開始してみました!
改めて、NFLにログインしたわけで。
人通りが少し減ったカフェの前にはシロの姿はなかった。個別チャットで声を掛けたら迎えに来いと言われたので、仕方なくフレンド登録の情報から座標をマップに表示して歩き出した。
そんな俺の視界の端に連携アプリからのチャットアイコンが点滅する。
タップすれば、相手は案の定ログイン前に連絡を取ったゲーム仲間だ。
『ログインしたならフレ登録するからIDよこせ!オレのは――』
最初にチャットを送ってきたのは グンジョウ
こいつは高校時代の友人で、俺とよく格ゲーで競い合っていた仲だ。無事大学進学を果たして課題をきっちりこなしながらもゲームの時間を確保し続けているせいで、短時間のバイトはしててもサークルには入っていない。
だが、顔はいいし運動神経もいい上に社交性もあるから、今もサークルや合コンに誘われるらしい。主に女子から。高校の時も凄かったしなぁ。爆ぜればいいのに、とよく格ゲーで燃やしてやったのはいい思い出だ。
グンジョウの得意ゲームは俺と同じ格ゲーだが、素手キャラ好きの俺と違って剣等武器持ちの格ゲーを好んでやっている。そういやNFLでも剣を使うと騒いでいたな。
『わたくしもお願いしますわ』
お次は コーラル
彼女は某MMORPGで知り合ったお嬢様JK、らしい。ゲーム内で出会った頃はJCだと平然とオープンチャットで言われて、慌ててネットリテラシーの話をして、リアル情報の漏洩についてしっかりと注意したら懐かれた。
他の女性メンバーがこっそり聞いた話では恋愛感情は無く、兄の様に慕ってるだけだからと太鼓判を押された時は、残念だがほっとした。
恋愛程パーティ崩壊フラグの高いものはないからな!
プレイスタイルは、ど派手な魔法で一掃するのが興奮するらしい。
『僕も書いておきますね〜。あ、そうそう。クロってキャラ名シロにしたの?』
3人目は ギルマス
NFLの前にやっていたMMORPGではギルドマスターとして俺達パーティの代表をしてくれていた男なんだが、ギルマスに選んだ理由が簡単で……
こいつ、俺と同い年のニートだった。
時間が余りまくってるから僕がやると、と引き受けてた。
大学中退してフリーターをして、偶然どこかのくじでプチ当たりしてしばらく働かなくていいとなったら引き篭もったらしい。元々虐められていたが高校は何とか卒業して大学に入ったが、ちょっとした対人恐怖症に陥ってしまったリハビリでネットゲームを始めたらしい。
そこで俺達と出会ってリハビリの相手をしているうちに仲良くなって、このNFLも一緒に始めた。名前は冗談だったんだが、前のゲームでも皆がギルマスと呼んでたし分かりやすいと言ったらホントにギルマスにしたのか……
ちなみに、NFLではギルドと言うと冒険者などの援助施設の事で、仲間内の集団はクランとして登録出来るらしい。その方法はまったく分かってないけど。
時間が余っているだけあって、NFLでも鍛冶や木工といった生産系を頑張るって言ってたな。後でレベル上げに連れて行こう!
『クロ、私には何かお礼があるのよね?』
4人目は シェンナ
話によると俺よりは年上らしい社会人女性。グンジョウとネトゲ巡りをしている時にFPSのゲームで知り合った。丁度ストーカーの様な粘着男に辟易していた所で、俺達をダシにそいつを煽ってからそのゲームを引退した。てか、俺達少ししか遊んでなかったんだが、付き合いで引退したんだよなぁ。
NFLに銃はないので弓を主体にするらしい。リアルハンティングみたいで楽しいって言ってたし、本人が楽しめてるならよかったわ。
『く〜ろ〜〜〜!あたしのBSVRは手に入ったの!?』
最後にして最大の問題があった……メイズだ。
彼女はこの中では一番最後に知り合った自称女子大生で、4人でMMORPGで遊んでいたらシェンナが引っ掛けてきてしまった。正確には死亡寸前のメイズをシェンナが許可を貰って援護して助け出したらくっ付いてきた、と言っていた。
シェンナに憧れるだけあって弓を使っていたが、元は魔術師キャラだ。前衛は好きじゃないと後衛ばかりをやっているらしい。
さて、ちゃんとメイズに話さないとかぁ。
『メイズ、申し訳ないんだけどさ……1ヶ月待ってもらえるか?』
『えっ!?2台当選は間違いだったの!?やっぱりね〜おかしいと思った。クロにそんな運あると思わなかったもん。ホントは見栄張った?wおねーさん怒らないから正直に言っていいよ?w』
『おい、そんな事言うとホントに1ヶ月後の1台を渡さないぞ?残念だなぁ、ちょっと事情あって遅れた分代金いらないって言おうと思ったのになぁ』
『カッコいいクロ様、お許しください。実は今月コス衣装にお金掛け過ぎてヤバイんです。かなりマジヤバなんです!』
『クロ、何があったんだ?いくらなんでも30万をタダはモラル的にもヤバいだろ?』
それまで黙っていたグンジョウがすぐに待ったをかけるが、全員の時間が取れるか確認をしてからこれまでの状況を話した。ついでに今の俺の部屋のカメラで撮った写真を添付してやった。
開発のタカキさんからは家族とこの5人には事情を話していいと許可を貰っているので、5人にも他言無用を絶対厳守として約束してもらってある。
『ぶwwwホントにシロいるしwwwww』
『やだ、かわいいわね』
『クロ、美味しいネタありがとうw』
『猫いいなぁ。ウチは飼えないから羨ましい』
『添い寝萌えるwww』
微妙に観点が違うシェンナはおいといて、概ね喜んでいただけたようだ。部屋を晒した甲斐があったぜ!
『ってなわけで、俺はシロと一緒に行動しながらになるぞ。んで、メイズの分は確実にもらえるから1ヶ月待って欲しいんだ。いいかな?』
『1ヶ月待てば確実に手に入るんでしょ?全然おっけー!秘密守ればいいんでしょ?冬イベのコス代に回せるからほんっと助かるしWin-Winだよ〜』
『ただ、メイズだけ遅れるしパーティも6人制だから毎回1人あぶれちゃうのがどうしたもんかなーってね』
『あ、それならさ。クロの妹ちゃんも1ヶ月後に始めるんでしょ?だったらあたしを紹介しといてもらえないかな。JKと一緒なんてあたしにはご褒美です!』
『おー、そっちがあったか。メイズが変態めいた事しないなら言っておくぞ?』
『……ソンナコトシナイヨ?』
『大丈夫かおい』
『とにかくお願いしたからね!あ、皆はNFLにダイブ中なんでしょ?時間の流れが違うからチャット大変だよね!じゃああたしは衣装作りに戻るね〜ノシ』
直後、アプリのメイズのアイコンがオフラインに変わった。
『あ、おい待て!……逃げたか』
『何か起きそうなら私が止めるわよ』
『わたくしは近づきたくありませんわね』
『メイズの事は解決ってことでいいだろ。おいそれよりもクロ!シロちゃんは今隣にいるのか?スクショはよ!』
『あ、そうだよ!シロちゃんってチャット出来ないの?』
『言葉は喋れても読み書きは無理だ。それにパーティも組んでないのにゲーム内のグループボイスチャットは出来ないだろ?てか、なんでいきなりちゃん付けになってんだよキモイぞ』
『ならここの……って、このアプリはゲーム外だからボイスチャット対応してなかった!くっそぉ!それとキモイ言うな!』
『後はー、僕達が個人ごとにフレ登録してもらって、個別チャットで会話するしかないよね』
『ギルマスそれだッ!』
『盛り上がってる所悪いが、あまりシロに負担を掛けたくないから却下な。それならとっとと拠点からの脱出を狙ってくれ』
『く!卑怯なッ……だが燃えてきたぜぇ!』
『おー、がんばれー。俺はシロと合流するからこっち落とすわ』
『待て!せめてスクリーンショットを――』
最後にグンジョウがしつこく何か言ってたが無視してアプリを落とした。
まぁ後でSSくらいは皆に送ってやるかね。
グループチャットを終えた後はマップを頼りにシロの元へ急いだ。ただ、マップ機能は自分が実際に歩いた場所だけ表示され、未踏破部分はセピア色になっていて何も表示されない。シロのいる所にマーカーが表示されているが、そこがどんな所なのかは俺には分からない。位置はカフェから噴水のある大通りを挟んだ反対側だ。それだけは分かる。
「街にも踏破率なんてあるのか。くそー、地図埋めたくなるぜ」
なんてぼやきながら歩く。シロのマーカーに近づくにつれ、いい匂いが漂ってくる。どうやらこの辺りは食い物の屋台が並ぶ通りみたいだな。
そして、ようやくシロのいる場所に着いた時、
何故かシロは住民たちに囲まれていた。
主に、餌付けされている方向で。
……あいつ、なにやってんだ?
ばかな……
本編始まりました!って言ったくせに、チャットしててゲームらしい事何もしてないだと!?