プロローグ6
プロローグ最後の話です。
ログアウトした俺は、さっそくタカキさんの携帯へコールした。
『やぁ、待っていたよクロイ君。どうだったかな?』
2コール目が鳴った辺りですぐに繋がり、しかもすぐに結果を求める反応からして、もしかしてこの人ずっと待ってたのか?
「お待たせしました。えーっと、シロは遊んでみたいそうです」
『そうかい!それは良かった!じゃあすぐに追加器材を送るからね。なぁに、簡単な物ばかりだしシロ君に負担のかかる物じゃないから安心していいよ!』
「あ!それでですね、シロはヘッドギアの電源押す時に爪で引っ掻くようにしてたんですよ。出来たらそれでも壊れないようにカバーがあれば助かります」
『なるほど。人の手と違ってそういった事が起こるんだね。分かった、すぐに作って同梱しよう。明後日には届くように手配しておくからよろしくね!』
それから送られてくる器材がどういったものか一つ一つ説明を受けて、その器材の画像も見せてもらって設置方法を聞いておいた。特に難しいものはなかったが、俺だけにやらせるのも問題だろうということになった。
『後は報酬の確認もしておこうか。1台を1か月後に送る事になっているけど、正直それでは報酬としては足りないと上から判断されてね。口止めも含めてどうしようかって話になったんだよ』
「報酬が口止め料って、隠しもしないんですね」
『そりゃぁそう思って貰った方がちゃんと秘密にしてくれるでしょ?』
「それもそうですね。あ、口止めと言えば、うちの家族には当然だけど話してますからね。シロはうちの家族ですからそこは勘弁してください」
『後で僕も挨拶に行くつもりだったからそれは大丈夫だよ。あ、もしかして報酬の話からって事は、そこが関係あるのかな?』
「はい、分かっちゃいましたか。実はうちの家族もBSVRが欲しいと言い出しまして……ゲームをしたいだけの妹はいいとして、母もシロと話してみたいって」
『いいんじゃないかな?シロ君も見知った人と話せるのは気が楽になるはずだ。そういったデータも欲しいからこちらからもお願いしたいくらいだね!』
「じゃあ、追加でお願いできますか?」
『はいはい、じゃあ全部で3台だね』
「あー、一応父の分もいいですか?1人だけ除け者にすると本気でいじけてめんどくさいんで。特に妹を可愛がってるからうるさいんですよ」
『どこの父親も娘がいると可哀想な扱いになるよねぇ。わかった、じゃあ4台を1か月後の第2陣の発売と同時に送るよう手配しておくよ』
おお、120万円以上を即決ですか。言ってみるもんだなぁ。
「無理言ってすみません」
『あっはっは!いや、無理を言ってるのはこっちの方なんだからいいんだよ。でも口外しない約束は頼むよ!もし誰かに話す時は事前に僕達の所に確認してよね?偶然バレてしまった時もだけど、うちでも対応しなきゃいけなくなるからさ』
「はい、分かりました。妹が一番心配なので、漏らしたらすぐにBSVRを取り上げられると言えばきっと大丈夫と……信じたいです」
『それはほんとに大丈夫なのかい?』
携帯越しにも怪訝そうな感情を乗せた声が聞こえてきた。
ゲームを取り上げられると分かったら流石に大丈夫だと思ってるけどさ。
その後、タカキさんが折を見て家に挨拶と器材設置に来ると言い出して、その日程をある程度を話し合って、結局明日来ると決めてから通話を終わらせた。そしてすぐに母さんが寝る前に報告しておく。サクラは部屋に戻ったみたいだし丁度良かった。
「そんなわけで、1か月後の第2期出荷の時に俺の分も含めて4台送ってくれるってさ。でも今言うとうるさいから、サクラと父さんには後で言ってもらっていい?」
「そのタカキさんが後で家に挨拶に来るのよね?そんな高価な物を頂けるならきちんとお礼を言わなくちゃね。翔平もちゃんと言うのよ?」
「分かってるって。あと俺の部屋にもシロのトイレと餌用意しとくよ」
「ふうん。構わないけど、片付けはちゃんとしないと臭うから気を付けなさい」
「消臭剤も買っておくかぁ」
「じゃあ、母さんもう寝るけど、あまりゲームで夜更かししすぎないでね。シロに無理させないように……あら?シロは?」
「まだゲームにダイブしてる」
「ならさっさと行きなさい!これだけは約束してもらうけど、翔平のいない時は電源を抜いてシロが遊べないようにしなさい。今は翔平がシロの保護者なんだから、次からは絶対に守る事!いいわね?」
「了解。次から気を付けるよ」
「よろしい。じゃあすぐ行ってらっしゃい。母さんは寝ます」
「おやすみ。明日の昼間は買い物行くからついでに何かあるならメールでよろしく」
一応またトイレを済ませて、電気ポットにお湯とインスタントコーヒーも用意しておいた。これでゲームから戻ってもすぐにコーヒー飲めるぜ。
「さて、今度こそNFLで遊ぶか!まだ説明どころかチュートリアルもすっとばしたからなぁ……って、あいつらにメールするの忘れてた!」
俺のゲーム仲間の5人に連絡取るのすっかり忘れてたわ!
一応事前のゲームID取得の後にID教えあってるからゲーム内でもすぐに個別チャット送れるけど、さっきはシロの事で慌ててたからなぁ。接続も短かったからあいつらも気付いてないかもしれんな。
「えーっと、あいつらがNFLにダイブしてたら音声チャットは無理か。SNSのグループチャットに打ち込んでおけばいいだろ」
NFLのゲーム内は現実世界の3倍速で時間が経過するので、音声チャットはゲーム内専用のものしか繋がらない。但し、NFLに連動したSNSの通常チャットなら現実世界とゲーム世界でのやりとりは出来る。
とはいえ、ゲームの中だと3倍速だから返事が遅く感じてイライラするらしい。会話の流れにも乗れないからメールの方がいい、と後で知るわけだが。
「お。もう返事来てた。何々……あ、そうか!俺、シロにすぐ会いに行ったから拠点よく見てなかった!そっか、シェンナが気を利かして違う所にしてくれてるのか。助かったぜ」
NFLで初期に選べる拠点、最初の街は5ヶ所から選べる。それぞれの街も同じ大陸内にあるのだが、拠点からスタートして次の街へ辿り着くと別の拠点への転送(ゲーム内通貨での有料)が解放され、他の4ヶ所の拠点にもすぐに行けるようになる。
拠点に指定した場所にはそのキャラにちょっとした特典というか融通が利くらしく、それぞれの特徴にあったアイテムやNPCの好感度にも関わるらしい。地元愛なのかね?
なので、俺達5人は事前に全員が別の街を拠点に選ぶ約束をしていた。ただ、BSVRに落選した1人だけは好きな拠点を選んでくれと言ってある。本人は俺達の様子を見た上でじっくり決めると言っていた。
そしてシェンナも俺と同じくらいにNFLを始めようとしたら、ギルマスからBSVRに連動させた俺のSNSからの位置情報を聞かされ、急遽拠点をセルペントに決めたらしい。
シロのBSVRに新規登録したSNSを連動させ、自分のには今までのSNSを連動し直したついでに、PCで今のBSVRの状態を再確認してみた。
3m以内ならPCにBSVRの個別登録をすれば無線で情報接続出来るので、まずは自分がどの街を拠点に選んだかのデータをみてみた。
「丘と草原が特徴のアリエルか。シロのやつ、適当に一番上を選んだな」
ゲームの舞台となるのは"エイクリプ大陸"という。
最初に選べる拠点は下の5つだ。
アリエル:丘と草原の地
クラテル:砂漠と平原の地
ヴィナキス:山岳と高原の地
セルペント:川と樹海の地
アーラ:海と火山の地
で、シロは一番上のアリエルを選んだわけだ。
何もわからない状態での事だからしょうがないか。
「ホントは俺がセルペントのはずだったけど、何とか全員ばらけたのは助かったな。シェンナとギルマスGJ…っと」
チャットにはすぐにシェンナとギルマスから「NP/無問題」と返って来た。
よし、それなら俺も早く次の街を目指して転送を解放しておくか!
予定では5つそれぞれの拠点でアイテムを集めて、必要な物をお互いに交換しようって事になっている。同じ拠点で始めるよりはばらけた方がいいし、そういう仲間がいるのは非常に助かる。
「さぁて。俺もダイブして、今度こそちゃんと遊ぶか!」
そう言って本日3度目のフルダイブも、
シロの隣に寝転がって起動スイッチを押した。
はー……何とかここまで書き終わりました。
と言うか、この後からが本編なんですよね。
6話使ってまだ始まってないとか自分あほですか!
こんなドタバタな話ですが、ゲーム内はもっとまったりとしたゲームライフになる……予定です。続きを考えてもし広がりそうな世界が感じられたら続きも頑張ってみようかなーと。あくまで自分にとってのメインの物語の合間に書く事になりますが。
もし楽しんで頂けているようでしたら、続きが投稿された時も拙作をお読み頂けたら幸いです!
※12/18 一部修正していますが、大筋には変更はありません。