プロローグ5
時刻は22時。
丁度ドラマが終わって居間でお茶を飲んでいた両親の所へ突撃したサクラと、
それを追いかけて来た俺に拳骨を落とした母親に状況を説明した所だ。
「それは桜が悪いわね」
「そんなー!?おとーさんはそう思わないよね?」
潤んだ目でじっと見つめられた父親が一発で陥落したのが見て取れる。
ほんと毎回サクラには甘いんだよなぁ。めんどくせー。
「翔平、ゲームの1つくらいいいじゃないか」
「それが30万以上する上に物凄い争奪戦を勝ち取ったものでも言うか?」
「30万がなんだ!2つあるんだろう?桜が泣いてるんだぞ!兄としてお前は―――」
「あらー。30万ってあなたには大した事ないの?じゃあ、あなたが隠してるへそくりから30万使っても文句はないわねぇ」
「はぁ!?そ、そんなものないぞ!」
明らかに狼狽した父親がちらっととある方向を見る。
そこにあるのね、とにっこりと笑う母親の顔が。
父さん、もうバレてるから諦めてくれ。
「それよりも翔平、シロがフルダイブをしちゃったっていうのは本当に大丈夫なの?お母さん、シロの事が心配よ」
「今のところは大丈夫だったよ。ゲームの中では猫人族っていう猫耳付いた人の姿だったけど、ちゃんと会話できたし」
「シロと話せるの!?何それお兄ずるいーーー!」
「はい、桜ちゃんはお父さんと話しててね。今はお母さんが翔平と話してるから、ね?」
「はーい。おとうさぁん、あのね?サクラね、欲しいのがあってぇ」
てててーっと父親に集りに行く。
お前の将来が悪女にならんか兄は心配だよ。
「それで、メーカーの人はシロにゲームさせたいから協力してって言ってるのね?」
「うん。でもシロの調子がおかしかったらすぐにやめてよくて、その前にシロがゲームで遊びたいかの返事待ちなんだ」
「シロの返事ねぇ。お母さんもシロとお話ししてみたいわねぇ」
「家族でゲームって……」
「はいはい、恥ずかしいんでしょう?もしゲームをするとしてもシロとお話ししたいだけよ?一緒に遊ぶなんて言わないわ」
うーん、干渉されないなら別にいいか。
うちの家族は全員シロを可愛がり過ぎてるのを見てるから、
そんなシロと話せると知ったら……まぁわからんでもない。
「あ、そうだ。それならさ、もしシロがゲームしたいって言ったらメーカーからヘッドギア1台都合付けて貰える事になってるからさ、その人に母さんが話してみたら貰えるかもよ?データ収集する事になったら報酬がどうとか言ってたし」
「お兄それホント!?なら、サクラの分も!!!」
「聞いてたのかよ!?まだ決まってないんだから分かんねぇよ」
あっさりと父親の隣を捨てて俺の横にくるサクラ。
お前ホント将来男に貢がせる女になってないだろうな?怖いわ!
「お兄がシロを説得してよー。うちじゃお母さんかお兄にばっかり懐いてるんだもん」
「そりゃお前と父さんがうざいほど追いかけるからだろうが。少しは相手の都合を考えてやれよ。母さんはその加減が上手いからだろ」
「可愛かったら触りたくなるよね?」
「お前、最近じゃ女だってセクハラで捕まるからな?」
「そんな事は今はいいの!お兄だってシロとゲームで遊べたら嬉しいでしょ?」
「嬉しいかと言われると……うん、面白そうだな。でも絶対に強制はしないからな。あくまでもシロが遊びたいと言ったらだ」
「うんうん、分かってる。がんばってね!」
こいつ絶対分かってないな!
「はいはい。翔平、シロが待ってるみたいだから行ってあげたら?」
「そうなのか?ま、いいや。ちょっとまた潜ってくるよ」
そう言って居間を出ると、シロが慣れた足取りで階段を上がっていく。
俺が2階に上がると、俺を見てから部屋に入って行った。
「……なんか、ほんとに言葉が分かってるみたいだな」
部屋に入れば、シロがすでにベッドに横たわってヘッドギアに頭を入れて、
器用に電源ボタンをカリカリと押している所だった。
「はぁ〜……こうやって起動させてたのか。これ、ホントに始めるならボタンにカバーして壊さずに押せるようにしてやんないとだなぁ。壊れたらシャレにならんぞ」
これもあとでタカキさんに相談してみよう。
もしもの話だからまだ分からないけど。
「おっと。俺もすぐ追いかけないと!」
ゲーム内じゃ3倍速で時間経過してるから、こっちじゃちょっとの時間でも向こうじゃシロを待たせるってことだもんな。
素早くヘッドギアを被ってシロの横に寝て、
すぐにログインしてシロのいるNFLの世界に飛び込んだ。
「遅い!」
カフェの前で腕組して黒い尻尾を立ててるシロがいた。
背が低いから俺を見上げてるけど、俗にいう仁王立ちってやつだ。
「そういうならせめて俺と同時にダイブしてくれよ」
「クロが遅いのが悪いわ」
一切譲る気はないらしいし面倒だからいいけどさ。
「はいはい、悪かったよ。それで、このままゲームをするのか、やめて元の世界に戻るのか、決まったのか?」
「ええ、決めたわ」
仁王立ちをやめないシロが、宣言する。
「ワタシもこの世界で遊んでみるわ!」
「そうか。なら親に話してタカキさんに連絡しないとだな」
「ちょっと!もう少し何かないの!?ワタシと一緒で嬉しいでしょ?」
「あー、そうだな。シロが楽しんでくれるなら嬉しいかな?」
「……チッ」
あれぇ?なんでそこで舌打ちするんだよ?
「じゃ、じゃあ今から報告に行くけど、シロも来るか?」
「ワタシはもう少しここを歩いてみるわ」
「そっか。でも何かアラートが出たらすぐにログアウトしてこいよ。約束だからな!それと、変な事言う奴には絶対ついてくなよ!あと、」
「いちいちうるさいわね。分かってるわよ」
「ほんとかぁ?とにかく、俺は親達に説明してくるからな。あ、街の外はまだ出るなよ!それと、」
「早くいけッ!」
蹴られそうになって慌てて避けた隙に行ってしまった。
「近くにいなくても、フレチャットも出来るし大丈夫だろ。あとでメアドも設定して使えるようにしておかないとマズイかもだな。文字読めないから操作も含めて音声入力にしとけばなんとかなるかねぇ」
フンと鼻を鳴らして歩き去るシロを見送って、
俺もログアウトの操作をして浮上していった。
プロローグはあと1話となります。
そこまでは何とか走り抜けたい、と!