プロローグ3
3話です。
まだプロローグです。
【 Welcome to "BSVR" world ! 】
【 只今、脳波と身体のスキャンを実行しています………】
薄暗い青い空間に、白い文字がそう浮かんでいた。
しばらくして、漸く自分の体が動かせるようになった。
「ここがフルダイブした空間なのか……手も、足もちゃんと感覚あるな。俺の手、ちゃんと再現されてるわ。それに目線も同じ気がするから、身長も読み取ったのか。すげぇ……」
更に自分の体を見ると、亜麻色の長袖シャツと茶色のズボンを履いていた。靴は茶色い革靴のようだが、履きやすく足に馴染んでいる。
言ってみれば、地味なモブの様な恰好だった。
【 起動するソフトを選んでください 】
【 ・Next Fantasy Life 】
【 ・動作テスト用ミニゲーム 】
【 ・設定 】
そうやって自分の感姿と覚を確かめていたら、
新たな文字がすぐ目の前に浮かんだ。
「へぇ、テスト用ミニゲームなんてあったのか。でも今はそれどころじゃないからな、設定も含めて後回しだ。触ればいいのかな?」
そっと"Next Fantasy Life"の文字に触れる。
すると、更に手前に"Yes / No"と浮かんだのでYesを選んだ。
選んだ途端にただの青い空間が歪み、渦巻き、やがて穏やかな日差しの平原に降り立っていた。少しの間呆然としたが、すぐに立ち直った俺を刺激するものがあった。
「……すげぇ!なんだこれ!?風も、草の匂いも感じるぞ!」
近くにあった草や花の匂い、逃げるバッタ、土や小石、全ての物が触れるしこれは本物だという感覚が返ってくる。
「これがフルダイブの力か……圧倒的じゃないかッ!」
「……あのー。そろそろ進めてよろしいでしょうか?」
あっはっはと高笑いをしようと手を広げた時、不意に後ろから声を掛けられた。そこには、白いワンピースに銀髪を後ろに結わえた女性が立っていた。
「えっ?」
「はい?」
「えっと、いつからそちらに?」
「貴方がこの世界に降り立ってすぐですよ?」
首をこてんと傾けて答える女性の仕草はどこか幼さが残っていた。
それよりも、さっきのを見られていたと思うと恥ずかしさが!!!
「そ、それは気付きませんで。私はクロイと申します」
「あら、ご丁寧に。私はこの世界を見守る者として創造主によって創られた存在の"導ぎの女神"ポラリス。転生者の方々の案内を務めさせて頂きます。
早速ですが、創造主より伺っております。クロイ様、急ぎ設定を行って頂き、迷える子猫の待つ地へと降り立って欲しいとのこと。早速ですが名前や姿の設定をお願いいたします」
「あ、ポラリスさんにも伝わっているんですね。分かりました、すぐに済ませますのでお待ちください」
目の前に浮かんだ半透明のウィンドウには、髪型や髪色、顔、体系のスライダーが見える。映っている姿は、ヘッドギアの設定の時にスキャンした俺の姿そのままだ。服装だけはダイブした今の物に変わっている。
色々試してみたいが、今は時間がないので髪色を少し明るくした程度でやめておいた。所謂黒橡色ってやつらしい。種族は人族、性別は男、年齢はそのまま20歳でいいや。初期ボーナスでSkPが10P貰えているけど、後で振り分けてもいいとの事でここは保留だ。
「本当は変えてみたかったんだけどなぁ。まぁしゃーないか。で、名前は"クロ"にして……ポラリスさん、これでお願いします」
「分かりました。ではクロ様、本来でしたら5つの拠点からお選び頂くのですが、今回は申し訳ございませんがこちらで指定させて頂きます」
「はい。シロのいる場所へお願いします!」
「ふふっ。余程心配なのですね。では、この世界が貴方にとって第2の世界となり、多くの出会いが訪れる事を願います」
そして再び目の前の景色が歪み、渦巻き、今回は薄く光に包まれていく。目の前にいたはずのポラリスさんは徐々に透明になっていく中、にこやかにこちらに手を振っていた。
消える寸前に口が動いている。
(またね)
そう言っているように見えた。
(ああ、ポラリスさんにまた会えたらいいなぁ。本当ならゆっくりキャラメイクに時間かけて、チュートリアルも受けてNFLのシステムを理解して、そこで初めて見送られるんだろうなぁ。チュートリアルだけでも後でどこかで受けられないかな?)
なんて考えているうちに、クロの視界は真っ白に染まった。
「うっ……まぶ、し、くない?」
ゆっくりと目を開けると、そこは街の中だった。
見上げれば太陽が真上から照らしている。
俺の立っている大通りには様々な人が行き交い、近くの噴水でおしゃべりしたり、店先で買い物をする人もいる。
その中には頭上に緑色の逆三角形のマーカーと名前が表示されている人がいる。これはきっとプレイヤーだろう。名前がなく青いマーカーが見えるのはNPCでいいのかな?でも露店をしている人にも名前が見えるが、もう露店が出来るほど進めたのか?
あれこれと考えながらぐるりと1周見渡すと、
ふと目の前の噴水横にいた女の子に目が止まった。
その女の子は、襟と袖に黒をあしらった白のワンピース、スカート部分から覗く足には黒のニーソ、白く長い髪の頭には2つの黒い猫耳がぴんと立っている。前からはよく見えないが、たまに黒い尻尾が揺れているのが見えた。
そんなつり目の美少女も、俺の視線に気づいて顔を上げてこちらを見た。
いかにも機嫌が悪そうな表情と舌打ちしそうな口元。
「……チッ」
ほんとに舌打ちしたよ!やっぱりだよ!
でも、話しかけるしかないよなぁ。だって、彼女の頭上には緑のマーカーと"シロ"って名前が見えるんだもんなぁ。
でもこのまま突っ立ってても始まらないし、間違ってたら謝って逃げればいいんだ!よし、勇気を出して聞いてみるしかねぇ!
「……なにジロジロ見てるの?」
「あー……その、お前、いや、あなたはうちのシロ、なのかな?違ってたらすまん。俺はクロだ。クロイショウヘイだ」
威嚇されながらも、何とか自己紹介出来た。と、思う。
本来はネットゲームで本名を言うのはマナー違反だが、今回は仕方ない。ただのクロで伝わるとも思えないから言うしかないだろう。
「ク、ロ……しょーへ…………ふーん。で?」
「でって言われてもなぁ。シロじゃないならすまなかった。人違いだった」
「ッ!」
謝った途端、彼女の尻尾が立ってぶわっと膨らんだ。
あれ?これかなり怒ってるんじゃないか!?
「ああほんとにすまん!ちょっと猫……いや、人?を探してたんだ!決してナンパとかじゃない。それは誓えるぞ!」
「そうじゃ、ない!ワタシだって、分からないの!?」
「え?分からないって……じゃあ、やっぱりシロでいいのか?」
「だから!なんで!すぐ分からないのッ!?ワタシは、すぐにクロだって分かったのに!!!」
「うわちょっとまて!引っ?くな!悪かったって!でも人の姿だと全然見た目違うんだからそこは勘弁してくれよ」
「わ・か・れ!」
「あーもー、悪かったよ。後で好きな物食わせるから機嫌直してくれ、な?」
シロの身長が140?くらいしかないため、175cmの俺の顔に爪が届かないと分かると、ガリガリと俺の腹を掻きむしった。これが現実世界なら流血沙汰だぞおい……
目の前のシロの頭を撫でて謝り続けてようやく引っ掻くのをやめてくれた。
ふう、と一息ついて、漸く周りを見る余裕が出来た時、それに気付いた。
生温かい住民と女性プレイヤーの目線。殺すぞと目に異常が出そうなほど力を込めてくる男性プレイヤーの目線。特に後者は危険だ!
「よ、よしシロ!ちょっと喉乾いたし座りたいから移動しようか!」
「……ふんっ」
答えてはくれなかったが、ちゃんと付いて来た。よかった。
2人仲良く…とまではいかないが、辺りを見回したらちょうど近くにオープンテラスのカフェっぽい店が見えたので、そそくさと周りの視線から逃げるように移動を開始した。
※12/17 主人公の髪色表現をプラスしました。黒を少し明るくした、黒橡色をご想像下さい。ほぼ黒ですが!