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問題編

 その日は雨だった。

 Mは傘をさしていない。小雨だからだ。

 天気予報にはずっと晴だと書いてあったのだが、それは間違いだったようだ。彼女は傘を持っていない。これから大雨になる可能性もあるので、彼女は自宅まで速足で歩きながら友人にメッセージを送った。

 その時。

 彼女はふいに視線を感じた。間違いない、元カレだ―。

 最近、元カレに付きまとわれている気がする。メールも日に日に件数が増えている。外見は優しいのだが、その中身は陰湿だ。彼女は恐怖しながらも、平静を装って次の角を左に曲がった。

 襲われるかもしれない、けれど、電話をかけていては背後の気配に気づけない。彼女は友人に電話してもらうべく、新たにメッセージを打ち、送信した。

 直後、彼女は脳天に衝撃を感じた。



 「だからさぁ、刑事さん。俺は違いますって。」

 「お前しかいないんだよ、犯人は。早く自首しなさい。」

 「いやですって。」

 「…お前、何か隠しているだろう。」

 「…その質問、今ので六回目ですよ。」

 刑事と容疑者のバトル。ドラマでは頭脳戦であったり、ドンパチであったり、時には殴り合いだったりする。しかし、実際には取調室での口げんかが一番盛り上がる戦闘(?)だ。

 私は、昔憧れた警部補になったにも関わらず、ため息をついた。

 私の部下の部下の部下たるDが取り調べを切り上げた。疲れた顔をして部屋から出ていく。私もDの後を追って、隣の監視室から出た。

 「ああ、E警部補。お疲れさまです。」

 「どうだ、容疑者は口を割ったか?」

 「いいえ。犯人は90パーセントあいつなのに、犯人ではないような雰囲気持っているんですよ。」

 「ふ~む。」

 私は軽く顎をつまんで、事件の整理を始めた。


 事件は、東京都D市で起こった。古風なマンションやビルが立ち並ぶこの一帯は、「外見がモダンなのに賃貸料金が安い」という事で、物件として結構な人気があった。

 その一角、細い道で女性が何者かに殺害された。女性の名前はM。脳天を鈍器で殴られていた。遺体から鑑みるに、女性はほぼ即死だったという。女性は薄くできた水たまりに、うつ伏せになって倒れていた。

 女性は死亡する直前、友人に「元カレらしき人につけられてる。直接電話したら気づかれるから、通報頼むわ」とメールしている。また、元カレらしき人物が逃走している所も目撃されていた。そのため、警察はその元カレUを容疑者として手配していた。

 そのUはすぐに捕まったのだが、彼は無実を主張している。状況証拠から見て、彼しか犯人たる者がいないのだが。

 「…現場百篇。」

 「え?」

 「現場百篇。現場を何回も見ていれば、何かわかるかもしれない。」

 「でも、警部補。昨日は三回も見に行きましたよね?」

 「…。」

 「それで、仕事がほとんどできなくて警部に怒られたとか…。」

 「D。」

 「はい。」

 「お前、タバコを吸うなら現場でしろ。」

 「はい?」

 Dは驚いてタバコを落としてしまい、慌てている。

 私は、嫌がるDを引っ張って現場へ向かった。


 ついてみると、事件当初と同じく小雨が降っていた。

 「D、聞き込みしよう。」

 「またかい…。」

 「ん?なんか言ったか?」

 「いえいえ、何でもありませんよ。警部補殿。」

 私とDは足早に近くのビルに入った。

 この界隈には、大体同じ高さのビルが乱立している。現場が正面にあるビルは二つある。一つは「ソース荘」で、もう一つは「エイジビル」だ。この二つのビルは、色こそ違えど作りはほぼ一緒。一階分の高さが約2.2メートル。横幅が11メートルほどで、高さは十階建てだから、大体22メートル。間隔が1、2メートル程開いている。

 「警部補。」

 「ん?」

 「今、ビルのデータを心の中で」

 言い終わる前に頭を優しく空手チョップ。

 うずくまるDを放っておいて、私は聞き込みを開始した。


 聞き込みを終えて、私はDにタバコを吸う許可を与えた。Dは私に狭い雨宿り場所を追い出され、悲しげに雨に濡れながらタバコに火を付けた。前かがみになり、タバコを雨から守るように…。

 私はそれをぼんやり眺めながら、心の中で聞き込み内容をおさらいした。

 事件を目撃していたのは、向かって左のアパート「ソース荘」八階角部屋に住んでいるWさん。大学生。今の天気を確かめようとベランダから身を乗り出したとき、丁度女性が倒れたところを見たという。日が沈み初め、あたりが暗くなっていたので目を凝らすと、走り去る男が見えたという。

 念のため、事件を目撃した所を再現してもらった。白いベランダから身を乗り出した所から、事件現場はほぼ真下にはっきり見える。こうはっきり見えるのは、Wさんの部屋だけにこのベランダが付いているからだろう。不自然なところは何もない。唯一、ベランダの左隅にこすれたような跡が残り、壊れかけたコンセントが目立っていたが、Wさんによると、つい最近まで盗電被害にあっていたからだという。

 「まったく、ひどいですよね。盗電って。詳しい被害額とかは調べていないんですが、警察の方は丁度、電灯やドライヤーを一カ月使ったぐらいとか言っていました。」

 「盗電に気づいたのはいつですか?」

 「あの殺人事件が起こった直後です。でも、救急車を呼んで倒れている人の様子を見に行くのが先だと思ったので、電話していて気が付いたらコードが抜けていてコンセントも壊れていました。盗電犯が感づかれたと思って無理やり引っこ抜いたのでしょう。」

 「犯人は捕まっていない?」

 「はい、階下はほとんど空き部屋だから、ココの住人ではないと思うのですが…。それにしても、警部さん。」

 「警部補です。」

 「これで聞き込みに来たのは、三回目では」

 次の瞬間、Wはまるで正面にいる女性から凄まじい眼光を浴びたかのように押し黙った。


 現場にいる必要がもうなくなったので、私はDとパトカーに乗り込んだ。私は、パトカーが出される直前にもう一度二つのビルを見上げた。けだるげに立つそっくりなビル。道路から見上げてみると、丁度一番右側にあるWさんのベランダが、緩やかに伸びた電線の束に隠されているように―。

 「D。待った。」

 Dは泡を食って車を急停止させた。

 私は、ビルのデータをもとに暗算をする。

 「D。分かったぞ。」

 「何がですか?事件の真相?それとも、盗電の犯人?管轄外ですけど。」

 冗談めかして言うDをひと睨みして、私は

 「両方、エイジビルの八階、右隅の部屋に行けば分かる。」

 と言った。驚くDをしり目に、私はエイジビル八階で唯一明かりがついている部屋へと直行した。

 


 「あらすじ」では失礼な事を書いてしまい、申し訳ありません。今までに書いた推理小説としては自信があるのですが、辻褄が合わないところがあれば、私のミスです。

 もしも、事件の真相がつかめた場合。また、作品に対するご指摘などありましたら、感想にてお願いいたします。

 また、二話完結ですので、頃合いを見計らって「解答編」を投稿します。

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