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第二十五章:希望の玖(いし)(4)


「その甘さ。ダコスの時もやはりその甘さのせいで命を落としたというのに…。お前はまたも同じ過ちを繰り返すのか」


痛みに顔をしかめる光に向かってセフュロスは憐れむような声で問い掛ける。


「愚かなものよな、光よ。その甘さこそがお前の最大の欠点。それをわかっていながら、本来の力を取り戻していながらも、なおもお前は同じ末路を辿る…。しかも今度は勇希まで道連れにしてだ。所詮、お前はそれだけの存在なのに、なぜ我に歯向かうというのだ?」


「それは、どう、かな?」


勝負は決まったと言わんばかりのセフュロスに光は不敵な笑みを浮かべてみせる。


「なに?」


どんどん色を失っていく光の顔を見ながらセフュロスはわけがわからずに眉をしかめた。


どうしてだ?自分の最愛の人が倒れ、自らも息をするのさえ苦しいほどの深手を負っている。もうこれ以上、攻撃する気力さえ残ってはいないはずだ。それなのに、なぜだ?なぜ、この男の心はくじけない?どうしてこの男の双瞳はこんなにも希望に満ち溢れた光に輝いている?


光の思考が分からずにその瞳をじっと覗き込んでいたセフュロスだったが、しばらくして何かに気が付いたのか、はっと勇希のいたほうを振り返る。だが、そこには誰もいなかった。


「まさか!」


はっとして光から離れようとしたセフュロスだったがもう遅い。老神の傍をすっと黒い影が音もなく通り過ぎたと思った刹那、セフュロスの胸に二つの刃−(エクス)(カリバー)(アトロ)(ポス)−が突き刺さっていた。


「なっ…なに…!?」


セフュロスがうろたえた声を出した。二本の剣に心臓を貫かれたセフュロスの体が、まるで空気を抜かれた風船のように小さくなっていく。その体が光よりも倍ぐらいの大きさまで萎んだ時、光がそっとセフュロスの体を抱きしめた。


「ぬぅ。一体何を…我にお前は何をした?!」


そう叫びながら、光の腕を振り払おうとするが、光の細い腕はまるでびくともしない。怯えた顔を見せ始めた大神に光は慈愛の瞳を向けた。


「怖がらないで…大丈夫。僕たちがあなたを護ってあげるから…。みんなを、護ってあげるから…」


寂しさに泣く幼子を諭すような優しい声で光がそう呟く。その藍色の瞳が一瞬だけセピア色に輝いたことをセフュロスは見逃さなかった。


「ばかな…(おまえ)が…(ナユル)を取り込んだというのか…」


「そうじゃないわ」


光の口から穏やかな別の声が流れた。それは敬介たちがよく知っている女性の声だった。


「光と闇は表裏一体。私たちは常に対極の位置にあり、同時に同じ場所にある。二つの力が戻った時、正しい世界が開かれる。ただ、それだけ。それだけのことなのよ」


光の身体から清らかな青い光が溢れていく。その光はどんどんその範囲と密度を広げていく。そうして光もセフュロスも、二人の周りの世界さえ、そこにある全てのものを、まるで母親が赤子を抱くように優しく包み込んでいく。


つくもたちはあまりの眩しさにその目を閉じた。それでも青い光は瞼を突き破る勢いでつくもたちの中に進入していく。そうして全てが光の海に飲み込まれた時、その光は爆ぜ、全てが静寂に包まれた。




***




瞼の裏に残る光の残像が消えるのを待ってから、レルムは恐る恐る目を開いた。

辺りにはまるでブラックホールにでも迷い込んだかのような深く暗い闇が広がっている。

はっと周りを見回すと、すぐ傍につくもと敬介、少し離れたところに真津子の姿が見えた。


「みんな…無事だったにゃん?」


ほっと息をついて問い掛けると呆然と立ち尽くしていた三人はまだ魂の抜けたような顔で、それでもしっかりと頷いた。


「な、何がおきたんだ?…ひ、光はどうした?勇希は?」


敬介の言葉に皆はっとする。四人の他に闇の中に見えるものはなにもなかった。


「ま、まさか…」


つくもが震える声を出す。脳裏に浮かんできた言葉を必死で否定した。震える肩を抱き、溢れ出ようとする涙を必死で押さえこむ。


「つくも…」


「待って。あれは?」


敬介が傍の恋人の肩に手をかけようとした時、真津子が緊張した声をあげた。真津子の声に振り返ると、白い指が指すその先に金色に輝く小さなものが見える。そっと近づいてみると、御伽噺に出てくるような古い宝箱が闇の中に浮かんでいた。蓋には自ら発する炎に身を焼かれながらその翼を羽ばたかせる鳳凰と、血に飢えた獣の姿には似つかわしくない荘厳な翼を広げた獅子の文様が彫られている。レルムが手を伸ばしたが、小さな指先がその表面に触れる前に、箱はまるで蒸発するかのように消え、それと共に辺りの闇が晴れていく。見渡せば、空には目の覚めるような青空が広がって、その下にはいつもと変わらない街並みが見えた。レルムのオッドアイの前を小さな小さな光の粒が通りすぎる。それは別れを惜しむかのように、四人の周りをゆっくりと漂うと、空へ向かって消えていった。


「またね…」


レルムはその小さな掌を眩しい太陽の輝く空に掲げると、ぽつりと呟いた。


次でエピローグになります。最後までお付き合いいただけるとうれしいです☆

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