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第二十五章:希望の玖(いし)(2)


「なんだよ…最後に美味しいところ、一人で持っていきやがって…」


敬介が鼻をすすりながらも憎まれ口を叩く。その横でレルムは勇希にしがみついたまま、大きなオッドアイに涙をいっぱい溜めながら泣くのを必死に我慢していた。


「勝ち逃げなんて…勝ち逃げなんて、許さないからな…!」


爪が両掌に食い込むほど強く拳を握りしめたつくもが叫ぶ声が辺りにこだました。


「ルシファー…ルナって一体…」


子供ほどの体重しかないルシファーの体を抱いてぼんやりとつぶやく光に真津子はルナがルシファーを愛したためにセフュロスに殺された水の精霊だと説明した。


「それじゃあ、ルナのもとへ…帰して…やらなきゃな」


光は硬い表情のまま、そっと左掌をルシファーの胸元にあてて目を閉じるとまだ背中に生えたままの白い翼を広げた。掌と翼から生じた暖かい光に反応するようにルシファーの体が透けて透明になっていく。やがてルシファーの体は一粒の光の粒になるとセフュロスの立つほうとは反対の明るい空のほうへと消えていった。


「とんだ茶番だな」


それまでしばらく黙って見ていたセフュロスが吐き捨てるように言った。


「なんだと?」


敬介がじっと空を睨み返すが、そんなことでこの老神がうろたえるはずもない。この老神は自分の挑発に乗ってきた愚かな人間たちの無様な様子を楽しむような、そんな神だ。案の定、セフュロスは馬鹿にしたような笑みをその顔に貼り付けてこちらを面白そうに見下ろしていて、それが一層敬介たちの怒りを煽り立てた。


「敬介、よすんだ」


今にも一人で飛び出しそうな敬介の肩を光がそっとひきとめた。


「何を言ってる!あいつは俺たちをかばって死んだんだぞ!それなのに黙っていろとでも言うのか!?」


「そうにゃ!今度ばかりはレルムも許せないにゃよ!」


「当たり前だ!」


レルムとつくもも怒りたって反論する。けれども光は一層穏やかな表情で首を横に振った。


「違う。そうじゃない」


「光くん…?」


光の様子がおかしいことに気付いた勇希が不安そうに覗き込んでくる。また光がどこかに行ってしまうような、そんな気がしたのだ。そんな勇希の不安を察したのか、光は優しく微笑んで、いつものように大丈夫と囁くときっと真顔になって他の仲間を見回した。


「今から敵を倒す。みんなにも力を貸して欲しい」


全く逆のことを言われると思っていた敬介たちは互いに驚いたように顔を見合わせたあと、まじまじと光の顔を覗き込んだ。


「なっ…なんだ?」


「いや、マジで?お前が自分からそんなこと言い出すなんて…」


「俺だってどんなことでも許せるほど人間ができているわけじゃない。それに…」


敬介の問いに照れたように答えた光は途中で言葉を切ると上空に浮かぶセフュロスに視線を向けた。


「それに、あいつはもはや神じゃない。この世界の脅威だ。俺はみんなを…みんなに出会えたこの世界を救いたい。だから…」


「よぉし、ならあたしたちも一肌脱ぎますか!」


光の決意につくもが気を良くしていつものおどけた調子で答えると、どこに持っていたのか例のトンファーを出して勇希に手渡した。他のみんなも一様にうなずくと、事前に打合せをしたわけでもないのにさっと三つのグループに分かれた。つくもと敬介、真津子とレルム、そして勇希が光の隣に並ぶ。どんな言葉がなくてもお互いに通じあえる。そんな連帯感のようなものが生まれていた。


トンファーを手に傍らに立つ勇希に光が何かそっと耳打ちした。勇希は少し驚いたように光を見つめ、けれど何も言わずにただしっかりとうなずいた。


「ふん。やはり最後まで歯向かうか。ならばよい。相手をしてやろう」


きっと一様に見上げる六人をセフュロスは面白そうに見下ろすとゆっくりと地上へと降り立った。その肢体はまるで樹齢何百年もの大木のように太く、セフュロスの顔は近くに立っていた四階立てのビルとほぼ同じ高さにあった。


「空中にいたのではあまりにもお前達に不利だからな。お前たち人間がどれほど無力か…思い知るがいい」


セフュロスの余裕の表情に真津子は全身の毛穴という毛穴から嫌な冷や汗が吹き出るのを感じていた。それは他の皆も同じだったようで隣にいるレルムのマインドスターを持つ小さな手が小刻みに震えているのが見えた。


「みんな、やつの言葉に惑わされるな」


その時、光の声がした。


相手に惑わされるな。大丈夫−。互いを信じていれば、俺たちは必ず勝つ。


それはカミン(リーダー)が開戦前に必ず言ういつもの言葉だった。どんなつらい戦いでも、その一言を糧に乗り越えてきた。そうしてこれが最後。みんなが幸せになる最後の戦いである。相手が誰だろうと負けるわけにはいかない。自分達が信じてきた、築き上げてきたものを守るためにも−。


セフュロスが攻撃のためにふいにその掌をあげた。それが開戦の合図とばかりに敬介とつくもは右に、真津子とレルムは左へと走り抜ける。そのすぐ傍をセフュロスの掌から出た気弾が次々と掠めては背後にある建物を壊していった。


「みんな、大技だけで攻めるのにゃ!あいつに小技は通じないにゃ!」


「真津子は防御に専念して!勇希、あたしたちで時間を稼ぐよ!」


「わかった!」


レルムの言葉につくもがきびきびと指示を出す。勇希とつくもが飛び出した瞬間、レルムと敬介は攻撃呪文を、そして真津子は防御呪文を唱え始める。ただ一人、魔法と物理攻撃の両方に長けた光は呪文を唱えながらエクスカリバーを手に切りかかって行った。


「てやぁっ!」


「コメット!」


「シャイニングセイバー!」


矢継ぎ早に四方から掛け声と呪文詠唱の声が飛ぶ。武器が振り下ろされる度に火花が飛び、術が放たれるたびに爆発が起こった。


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