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第二十四章:光と闇(2)

「だぁっ!もう、いい加減しつっこいぞ!」


上空の勇希までとの距離は半分を少し切った頃、つくもが迫ってくる悪霊を大剣でなぎ倒しながら大きな叫び声をあげた。


四人が地面を蹴ってからここまで、休む間もなく黒い敵があちこちから湧き上がっては四人の行く手を阻んでくる。いくらやっつけても切りのない戦いにいい加減他の三人もうんざりしていた。


ルシファーの言ったとおり、蝙蝠の羽はある時は防御壁に、またある時は鋭い刃物の代わりに使えるのでそれなりに役に立っていた。けれども衰えることなく湧いてくる敵の相手をしながら長距離を飛ぶことにさすがの四人の顔にも疲労が浮かんでいた。


こんなところで弱音を吐くわけにはいかないと、それでもなんとか進んでいった四人の前で突然黒い気弾が炸裂した。咄嗟にそれぞれの方向へと散らばる。気弾が放たれた上空を見上げると明らかに今まで湧いていたのとは違う禍々しい邪気を纏った影がこちらへ向かって下降していた。


「ちぃっ。新手かよ」


敬介が小さく舌打ちする。


「どうしてもレルムたちを勇希のもとに行かせないつもりなのにゃ」


まるで煙か何かで出来ているかのように常に変化する体の一部からさっきと同じ気弾が今度はつくものいる方へ向かって飛んできた。


「でやぁぁぁ!」


さっと身をかわしたつくもは急接近すると気合と共に大剣を影の頭上(?)から一直線に振り下ろす。冷たく光る刃によって影はぱっくりと二つに分断された。


「やったぜ!」


「ふふん。このつくも様にかかればこれぐらいどーってこと…」


敬介の歓声に得意気な顔をしたのもつかの間、つくもの表情が凍りつく。今二つに切り裂かれたことで一つの個体だった影は、今二つの別々の影として攻撃をしかけてきたのである。


「お、おいおいおいおい!!」


「増えてるにゃ〜〜!!」


繰り出される気弾に飛び退りながら敬介とレルムが情けない声をあげた。


「どうやら剣が効かないのはあの影だけのようだな」


避け切れなかった気弾をエクスカリバーで切り落とした光がそうつぶやいた。


「でもあいつをなんとかしなきゃ進めないよ!」


「ちっくしょう。それじゃ、こいつはどうだ!パワーボール!」


敬介が橙色に輝く電気の球を近くに迫った影の一つにぶちこむ。技は影の中央で炸裂してその対象物を二つに引き裂いた。


「ふぇ?二つ…?」


敬介が間の抜けた声をあげる。その視線の先にはまた分裂した影−合計3体−が全くダメージを負った様子もなく、次の気弾を放ちだした。


「増やしてどうする」


光がやれやれと首を振りながら呆れた声を出した。


「うわっ。だって、そんな、こいつ魔法も効かねぇってのかよ!」


剣も魔法も効かない相手。攻撃を避けるしか術のない四人を顔すら持たない三つの影がまるで嘲るかのように激しく揺れた。


どうすればいい?レルムは自問自答する。


試した攻撃はつくもの剣と敬介の電撃魔法だけ。他の魔法なら何か効果があるかもしれないが、既に前の攻撃によって相手の数は一体から三体にまで増えている。闇雲に違う攻撃を当ててこれ以上敵の数を増やすことはこちらにとって決して有利ではない。ならばどうする?この危機を母さまならどう切り抜ける?相手は三体…三…?


「うん…それしかないにゃ」


行き着いた答えにレルムは一人満足したようにうなずいた。


「レルム!」


突然自分の名前を呼んだ声がしたかと思うとレルムは誰かに抱きかかえられている自分に気がついた。


「ふえ?」


見上げると、自分の上に光の顔が見える。


「まったく、戦闘中に物思いにふける奴があるか」


そう言って自分を見下ろす光はいつになく怒ったような顔をしている。その表情に、レルムは自分が考えることに集中しすぎてすぐそばまで迫っていた影に気付いていなかったことに気がついた。


「にゃ。ごめん…」


素直に謝ると光は苦笑してそっとレルムの頭をなでる。


「放すぞ。いいか?」


「あ、うん。大丈夫にゃ。助けてくれてサンキュなのにゃ」


少し顔を赤らめながらそう言うとレルムはぱっと自分の羽を広げる。また一人で上空に浮かんだレルムは敬介とつくもに集まるように声をかけた。


「なんだ?もうばてたのか?」


執拗に繰り出される気弾を避けながら近づいてきた敬介が軽口をかける。だがその言葉とは裏腹に表情にはさっきよりも濃い疲れが浮かんでいた。


「そうじゃないにゃ。それより、今の状況を打開する方法を考え付いたのにゃ」


「ホントに?」


レルムの言葉につくもがぱっと顔を輝かせる。つくももかなり体力が限界にきているようで細い肩を上下させていた。


「相手は三体。下手に攻撃して、これ以上数を増やすのは徹底的に不利にゃ」


「けど、攻撃しないでどうあいつらを撃退するんだ?」


「撃退は…たぶん勇希の暴走を止めるしかないと思うのにゃ」


「…」


レルムの言葉に皆いっせいに頭上を見上げる。勇希の周りに集まった黒い邪気はさっきよりもさらに大きくなっていた。


「どうしても、勇希のもとまで行かなきゃいけない。だから、光、ここからは一人で行くのにゃ」


「え?」


驚く光にレルムは大丈夫、と言うようにしっかりとうなずいてみせた。


「相手は三体。そしてこっちは四人。そっか。俺たちがあいつらを足止めすれば…」


「そういえば、ルシファーも途中まで送り届けてくれって言ってたっけ…。あいつ、こうなることもお見通しだったのかな?」


「あり得るにゃ」


「ということなので、ここは俺たちに任せなさい」


話がまとまったところで敬介がぽんと胸をたたく。


「おい、ちょっと待ってくれよ…」


「あたしたちのことなら心配ないって。光が勇希のところにたどり着くまで鬼ごっこしてりゃいいだけなんだから」


心配そうな光を安心させるようにつくもは軽くウィンクしながらそう言った。


「光。ここはレルムたちに任せるにゃ。どっちみち、勇希を止められなければ世界は終わってしまうんだから」


レルムの言葉に光はもう一度、頭上を仰ぎ見る。そこに浮かんだ邪気の塊。その中央で苦しんでいる勇希の姿がほんの一瞬光の脳裏を掠めて、光はエクスカリバーの柄をきつく握り締めた。


「わかった。みんな、ここは頼んだぞ」


妖しく光る獲物を鞘に収めると、さっと背に生える黒翼を広げる。頭上に広がる黒い渦の中心を目指しさらなる高みへと向かった。


「なるべく早くね〜。そんなに長く遊んでいられるほどの体力は残ってそうもないからさ〜!!」


背後に叫ぶつくもの声がかすかに聞こえたような気がしたが、光は後ろを振り向くこともなく、ただ一点を目指して進んでいった。

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