第二十章:愛情の裏側にあるもの(3)
「光くん?」
急に黙りこくってしまった光を勇希が心配そうな顔で覗き込む。光はあわてて首を振ると抜き身だったエクスカリバーを元の鞘に納めた。
「いや、なんでもない。…それにしても、僕にちょうどいいって…」
「うん。あとで返そうとしたら、『これはこの先敵と戦っていくうえで光に必要なものだ』とか言って…」
「そっか」
未だルシファーの思惑は知れないが、とりあえずみんなを助けてくれたのだ。それにこの剣に何か悪い罠が張ってあるとも思えない。今度会ったら礼を言わなくちゃならないな…。光はぼんやりとそんなことを考えた。
「それから光君の背中に翼みたいなのが見えて、そのお陰でその夢魔は消えちゃったんだけど、光君そのまま倒れちゃうし。ここまで運んできたのはいいけれど、2日も眠りっぱなしだったんだから」
勇希の言葉に光は理解する。灯台で誰かと話したような気がしたのは、夢じゃなく、きっとその何者かに操られていた時だったんだと。
「また、勇希たちに迷惑をかけちゃったね」
「そんな、迷惑だなんて!」
光の言葉に勇希は思わず椅子をひっくり返す勢いで立ち上がる。床に倒れた椅子がひどく大きな音をたてた。
「あ…ごっ、ごめん」
また顔を赤らめると勇希はいそいそと倒れた椅子をおこした。
「でも、そんなこと、言わないで。私は…私は本当にあなたのこと、光くんのことを大切に思っているんだから」
うつむいたまま、そうぽつりと呟く勇希に光は思わず手を伸ばしていた。
「光…くん…」
また椅子が大きな音をたてたが今度は勇希もそれに構わない。ただ、黙って暖かい光の胸に抱かれていた。静かな部屋に二人の心臓の音だけが混ざり合い、溶けていく。
「勇希…僕は…」
「どうした?なんだ今の音は!」
光がなにか言おうとしたその時、敬介が大声をあげて急ぎ部屋の中に駆け込んできた。
「あん?」
「うっ…うわぁ!!!敬介!!!」
敬介の存在に気付いた光はぱっと勇希から手を離す。勇希もさらに真っ赤になりながら光から身体を離すと床に倒れた椅子をそそくさとおこし始めた。
「なんだ、お前ら…。いつの間にそんな仲に…」
「うわ〜。なっ、なんでもないよ。そっ、それより、どっ、どうした?敬介?なんかあったのか?」
にやにやしてそう問い詰める敬介に光があたふたと両手を振って弁明する。
「ん?ああ、いや、何かすげえ音がしたからさ…。お、そういやお前、目が覚めたんだな〜!こいつ、みんなに心配かけやがって。あれだけ勝手に一人で行動するなって、言ったのにお前ってヤツは…」
敬介は光の頭を腕の中にからめとると拳でぐりぐりし始める。口調は光を責めているが、その顔には満面の笑みを浮かべている。
「いていて。わ、悪かったよ。ごめん、もうしないから…」
「本当か?降参するか?」
「すっ…するする、降参〜〜」
両手を合わせ降参のポーズを取る光に敬介はいつになく神妙な顔をしてじっと何か考えている。
「けっ…敬介?」
勇希がおそるおそる声をかけると敬介はにやりと冷笑を浮かべた。
「いや、こいつはまだ反省の色が足りないな」
敬介の低い声に光はただならぬ危険を感じて身を硬くする。
な、なんとか逃げなければ…。
必死に抜け道を探す光の気持ちを察したのか、敬介は突然光の両肩を掴むと強引に自分のほうへ引き寄せた。
「おしおきだ〜。チュウしてやる!」
そういうと敬介はにやけた顔で唇を突き出してくる。
「へっ…?ひっ、ひえええ〜〜〜。やめろぉぉ」
軽いジョークにしてはひどく強い力で抱きとめられて頭の中が真っ白になった。体格としてはたいして変わらない二人なのに敬介の腕はまったくびくともしない。勇希もあっけにとられたままその場に立ち尽くしていた。
しっ…真剣なんじゃないだろうな?
さっきから本気で逃れようと力を入れているにもかかわらず、光は敬介の腕の中から逃れられないでいる。まさかとは思うが、この状況はヤバイのではないか。なかなか放してくれないどころかさらにせまってくる敬介に光もさすがに焦り始めた。
「まったく、いい加減にしなよ、敬介!」
光が敬介の腕の中でじたばたもがいていると、ドアのほうからあきれた声が聞こえてきた。はたとそちらを見ると開け放たれたドアにもたれかかったつくもが白い目で二人を睨んでいる。
「つ、つくも…」
さすがにバツが悪かったのか、つくもの姿を見た途端、敬介はぱっと光から離れた。
「いや〜、さすがに冗談が過ぎたかな…」
「まっ、マジかと思ったゾ」
けたけたと爽やかに笑う敬介をぜーぜー息を切らした光が恨めしそうに睨んだ。
「ほら、バカやってないで。真津子が呼んでるの。みんなに見せたいものがあるってね。光、あんたも目が覚めたんなら一緒に来て」
「おー、わかった。いこうぜ、光♪」
「ぐわっ。よっ、寄るな…」
人懐こく肩を組もうとする敬介に光は条件反射で飛び退る。
「な〜んだ、つれないなぁ。ちょっとしたジョークじゃないか。気にするな」
「きっ…気にするなってお前…」
そんなやりとりをしながら先に出て行ったつくもの後を勇希と三人で追いかけると、こざっぱりとした家具でまとめられた広いリビングに真津子とレルムが待っていた。つくもたちと一緒に部屋に入ってきた光の姿を認めると、レルムがぱっと顔を輝かせ光のもとに走り寄ってきた。
「光!気がついたのにゃ!」
初めて出会った時のように光の首根っこにしがみつくとレルムは本当のネコのようにごろごろと喉を鳴らした。
今回はほんのちょっとだけ恋愛要素を入れてみました。なんだかあま〜い雰囲気って書きなれないのでこそばゆいような(汗)。結局敬介に茶々を入れさせてしまいましたがいかがだったでしょうか?こんなのなまぬる〜い!とお怒りのあなた、ごめんなさい(^^;