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第十六章:風の知将(7)

「だから、オレたちがあいつを討ってやらなければいけない」


そう、満が話をつないだ。


「あいつはつらい怨念の輪から抜け出せないでいるんだ。オレ達のように生まれ変わることができずにいるあいつを解き放ってやらないと」


驚く光に満はしっかりとうなずいてみせた。満の灰色の瞳はそれが最善の方法だと語っている。けれども光の心はまだ揺れ動いていた。本当にそれでいいのか?本当に、リオンの命を奪うことしか、道は残っていないのか?今ここで終わらせれば、リオンの魂は本当に救われるのだろうか。答えがわからないまま受け入れてしまうことは光には出来なかった。納得のいかないことを受け入れてしまえば、希望の光は完全に消えてなくなってしまうのだから。


だが、光に考えている余裕はもう残されてはいなかった。少し前に光の気によって弾き飛ばされた松明が、リオンの合図と共にまた一斉に二人に襲い掛かってきたのだ。満が素早く自分と光の周りに風の壁を張り巡らせると、二人に向かって飛んできた松明はことごとく風の壁にあたって地面や壁にたたきつけられた。


「ふん。知将チドルの風の力か…。だがそんなもの、こうしてしまえば…」


どこから出してきたのか、リオンが琵琶に似たビュートの弦を弾く。すると、満たちの周りに吹いていた風は一瞬にして掻き消されてしまった。


「うっ、どうなっているんだ!」


満は突然のことに驚いた声を出す。また風を巻き起こそうとした満だが、突然がっくりとその膝を折った。


「満さん?!」


「大丈夫だ、ちょっと目眩がしただけで…」


駆け寄ろうとした光を片手で制して立ち上がろうとするが、すぐにまた膝をついてしまった。


「な、なんだ。急に力が抜けて…」


体力に自信のある満は立ち上がることさえままならない自分に驚きを隠せなかった。動揺した満をリオンは面白そうに眺めている。


「はは。力が抜けたのは当たり前さ。ボクが君の力を吸い取ってしまったんだから」


「なんだって?」


光と満は同時にそう叫ぶ。リオンは更に満足そうな笑い声をたてた。


「そうさ。ボクのビュートには二つの相反する力が宿っている。一つは、人の力を増幅して病や傷を治癒する力。そしてもう一つは、人の力を自分のものにしてしまう力さ。今あんたの力は全てボクの中にある。だから、あんたは力を使えないってわけだ」


「ちくしょう!」


リオンの説明に満は歯噛みした。真津子の力の上に満の力までこちらに使われては、いくら光が多少の気を使えるようになったとは言っても対等に渡り合える可能性はないに等しいのと同じだった。


なんとか真津子を正気に戻せばと思案するも、今のままでは真津子の側に行くことさえ叶わない。真津子が自分の力で正気を取り戻すしか他に今の状況を打開できる術はなかった。すがるような目で真津子を見つめるが、彼女の暗い紫色の瞳には何も映ってはいない。


「くそっ!真津子は完全にリオンに操られてしまっているのか」


悔しがる満を嘲笑うかのように、リオンと真津子は次の攻撃を繰り出した。


「満さん!」


戦う術を失い歯噛みする満の前に光が飛び出す。燃え盛る炎と吹き荒れる風が二人の直前に迫ったその時、眩しい青い光が二人を包み込んだ。


「光!」


光の気が炎と風に激突して激しい落雷のような音をたてる。光は両手を前に突き出して、全ての攻撃を一手に受け止めていた。戦いなれていない光に二人の攻撃を受け止めることなど普通なら到底無理なはずなのに、光は一歩も押されることなく対峙している。満は驚いて目を見開いた。光の気がこれほどまで強いとは思ってもみなかったのだ。それがカミンの遺伝子のおかげなのか、本当のところは満にはわからない。だが、この強さはカミンのものではなく、光自信の強さのような気がしていた。


「ぼっ、僕は大丈夫。僕が二人をここで食い止めます。だから満さんは今のうちに逃げてください!」


「何を馬鹿な!」


「力を失った状態で、今二人に近づくことは危険です!もしも満さんが犠牲になるようなことがあれば、哀しむのは真津子さんなんですよ。もう、二度と、彼女に同じ思いをさせてはいけないんです。だから、ここは…」


光の言葉に満ははっと息を呑んだ。



モウニドト、カノジョニオナジオモイヲサセテハイケナイ。



かつてのリオンのように、満を真津子に殺させるわけにはいかない。もしそんなことになってしまえば、真津子はまた同じ苦しみを味わわなければいけないのだから。


満は今、光の力の源に気がついた。


光の優しさ、真津子への思いやりが光を強くしているのだ。


「光…」


「そうはさせない」


光の言葉を聞いたリオンはまた攻撃の手を強める。光の即席の力が対抗できるのもここまでのようで、それを証拠にじりじりと、光が押され始めた。


「満さん!早く!」


「それはできない。お前を置いてなど…」


「何を言ってるんです!僕のことなど気にしている場合じゃないでしょう!僕のことなら平気です!だって僕は…」


「オレたちの仲間だ」


「え…、うわあっ!!」


「光!!」


満の言葉に一瞬気が緩んだ光はリオンの放つ風に吹き飛ばされて、堅く湿った岩壁に叩きつけられた。


「だっ、だいじょうぶ…うっ!」


駆け寄る満を心配させないよう、急いで立ち上がろうとするが全身に走る痛みに光は思わず顔をしかめる。


「無理するな。少しはオレを信頼しろよ」

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