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第十六章:風の知将(6)

今から五千年ほど前、ある国が建国された。


二千年という長い間、争いもなく豊かなユートピアと信じられた国。それが紅劉国だった。けれど、ここにもかつて、小さな悲劇が舞い降りた。住民が突然自分と異なる種族に激しい憎悪を抱き、無差別の殺戮が行われた村があったのだ。それは人口数百人のとても小さな村だったので、村中の者が死に逝くまでにたったの一晩しかかからなかったという。それが、一部のものにのみ知られる民族戦争である。


そんな村にマホーニーとリオンは住んでいた。他の星から移民してきたマホーニーと、この星に昔から棲んでいるエルフのイリュウ族に生まれたリオンはもちろん別の種族であったのだが、どういうわけか二人には他の村人のような憎悪の感情は沸き起こってこなかった。


けれども、二人の周りにいた者はそうではない。当然二人もその哀しい運命の渦に巻き込まれてしまった。たくさんの種族があちこちで殺し合い、そしてまだ幼い二人をもその手にかけようとした。数日前まで互いに助け合い、笑いあっていた者たちに追われる中、マホーニーは初めて後に五大戦士として高く評価されることになるその力を覚醒した。


初めは側にいるリオンを守るためだった。襲い掛かる大人を覚醒したばかりの力で退ける。ある人は空に吹き上げられ、ある人は土の壁に打ちつけられた。それでも、二人の命を奪おうと迫ってくる、狂った人の数は一向に減る様子がなかった。


どれぐらいたっただろうか。数え切れないほどの人を退けているうちに、マホーニーは知らず知らず、自分の力に溺れていた。マホーニーの心を力だけが支配していったのだ。もう自分の隣にいるリオンさえ誰なのかわからなくなっていた。力が彼女の意思とは関係なく暴走を始めたのである。


マホーニーの身体の周りに大きな気の渦がものすごい速さで巻きおこる。周りの人も草花も動物も、世界の全てを巻きこんで大きな脅威の固まりに成り果てたそれは、その渦の中心にいるマホーニーの命さえも奪おうとしていることにリオンは気がついた。


このままではいけない。このまま放っておけば、マホーニーは自分の力で死んでしまう。そんなこと、絶対にさせはしない。


そう心に誓ったリオンはマホーニーの暴走を止めるため、無我夢中でビュートを奏で続けた。人を癒す力のあるビュートだけがリオンの頼みの綱だった。マホーニーの凄まじい力がリオンの身体を切り裂いていく。それでもリオンは逃げなかった。リオンの白い肌に血が滲めば滲むほど、リオンは激しくビュートを奏で続ける。リオンは必死だった。愛する人を失いたくない、ただ、それだけだった。


ボクはどうなってもいい。ただ、マホーニーだけは、彼女だけは、死なせはしない!


その想いが届いたのか、ついにマホーニーの力が暴走を止めた時、リオンの時も同じく止まっていた。最後の意識が途切れる前、リオンは涙に濡れたマホーニーの顔を見たような気がした。


よかった。無事だったんだね。


そう呟いたつもりだが、それが彼女に聞こえていたのかどうか、リオンにはもうわからなかった。そして、すべてが闇につつまれた―。




リオンの話が終わった時、光の藍色の瞳から、一筋の涙が零れた。リオンの哀しすぎる運命に胸が締め付けられるようだった。どうして、運命とはこうもつらいものなのだろう。人形として生まれてしまった光。愛する人を守って逝ったカミン。愛する人を救うため、その愛する人の力で命を落としたリオン。そして、なによりも愛する人を不本意にも自分の力でこの世から消してしまったマホーニー。つらい運命は輪廻を超えてもなお、続いていくものなのか。

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