第十五章:戸惑い(2)
「…ってことは、真津子さんは?」
「二十一」
「えええ!!」
光に答えるつくもに敬介がまた素っ頓狂な叫び声をあげる。
「そんな…。あいつまで老け顔だったなんて…。ショック…」
敬介ががっくりと肩を落としていると、ふいにどこかへ行ったはずの満が顔を出した。
「誰が老けてるって?」
「ぐぇ、おっさん…」
満の太い腕に首を絞められて敬介は情けない声をあげた。
「か、加瀬さん、敬介だって悪気があったわけじゃないんだし…」
止めに入ろうとした光を満はギロリと睨んだ。
「お前も、同罪だったな…」
「う”…」
妙に静かな声が逆に怖くて光の額から冷や汗が流れる。満の診療室は一瞬にして修羅場と化していた−。
***
勇希たちが診療所に入っていった後、真津子はリオンを診療所の裏庭に連れて行った。猫の額ほどしかない庭だが、満がまめに手入れをしているらしく、ちょっとした癒しの空間になっている。大きな銀杏の木が、広い大空に向けその幹を伸ばしていた。
「この銀杏、結構古いんだな。どのぐらい生きているんだろう?」
銀杏の太い幹を触りながら、無邪気に声をかけるリオンの様子に真津子の胸は重くなる。何事もなかったかのように自分の目の前に現れ、まるで毎日会っている友人にするように振舞うリオンに戸惑っていた。
「あなた、一体何者なの?」
真津子は硬い表情のまま、リオンに尋ねた。
「え?」
振り向いたリオンはきょとんとした顔をして真津子を見つめている。
「とぼけないで。あなたが本当のリオンのはずがない。あなたは、リオンはもう、死んでいるのだから」
「マホーニー…」
真津子はそっとその体を抱きしめようとするリオンの手からすっと逃れた。前世で自分を守って死んでいったリオン。真津子は一日だってリオンのことを忘れた日はなかった。
何度あれが夢であってほしい、元気な姿を見たいと願ったかしれない。そして今、そのリオンは以前と変わらない姿で真津子の目の前にいる。けれど、これが現実のはずがない。今にも傾きそうな心を真津子の理性が賢明に説き伏せていた。
そんな真津子の姿に、リオンはふっとため息をついた。
「君がボクのことを疑うのも当然か…。確かに、ボクはあの時命を落とした。君を助けたかったからね」