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第十五章:戸惑い(1)

「…というわけ」


真津子たちと再会した勇希は、満の診療所兼自宅に集まったつくもたちに事の次第を説明した。ここにくる途中、自分をかばって怪我を負った光が菖蒲のあやつる龍の毒の泡に侵されたことを聞かされた勇希は気が狂いそうに心配したが、満の迅速かつ適切な手当てのお陰で光はすっかり元気を取り戻していた。もちろん、傷が癒えるまでにはしばらく時間がかかるだろうが、解毒剤のおかげで毒素の後遺症も残らずに済みそうだという。


「それで、真津子は?」


「うん。リオンと今、外で話をしているわ」


勇希の答えに満はむっとしたように眉間に皺を寄せた。


「二人きりにしてきたのか?」


「え?うん。なんだか個人的な話があるとか…。あ、それになんだか長い間会っていなかったらしいから…」


めずらしく不機嫌な声の満にとまどいながら勇希が答えると、満は益々不機嫌になって黙り込んだ。


長い間会っていなかった、か。それはそうだろう、あいつはとうに死んでいるのだから。


真津子からリオンのことを聞いていた満はそう思ったが、口には出さなかった。


自分達も前世で命を落とし、また現世で生まれ変わってこうして仲間に巡り合った。だから、一度死んだリオンが現世に転生していないとは言いきれない。けれど、勇希によれば、その青年は自分のことをリオンだと名乗ったという。そして、エルフだということは、その風貌もおそらく昔のままなのだろう。とすると、前世から何も変わらないままこの世に生を受けたことになる。


そんなことがあるのだろうか?


あの争いの時、リオンを含むイリュウ族は全滅したと聞いている。移住を嫌う民族だったから、あの村以外にイリュウ族の血をひくものがいたとも考え難い。仮に、どこかに生き残りがいたとしても、そこにリオンが、昔のままのリオンが生まれ、偶然にも真津子の前に姿を現すなんて話しが良過ぎはしないか?


百歩譲ってそんな偶然が起こったとしても、なぜ今なんだ?


なぜ今、この時期にリオンが現れたのか、そして、どうして勇希が連れて行かれた地下室に現れ、見ず知らずの勇希を助けてくれたのか、その理由がわからなかった。


勇希が尋ねても、理由は語らなかったというし、偶然出くわして助けた人の友人が昔の知り合いだったなんて話を素直に真に受けるほど、満は子供ではない。これには何か裏があるに違いない、満はそう考えていた。


「なんだ、不機嫌な顔して。妬いてんのか?」


黙り込んだ満を敬介が茶化した。


「な、誰がだ」


憮然とした満は部屋を出て行こうと席を立った。


「あ、おい、どこ行くんだよ!せっかく久しぶりに会ってるんだから、邪魔すんなよ」


何も知らない敬介は暢気にそんなことを言う。満はうるさい、と聞こえるか聞こえないかの小声で呟くと、さっさと部屋を出て行った。


「なんだ、あいつ」


敬介はばつが悪そうに唇を尖らせる。


「もう、あんたが余計なこと言うから」


今まで黙っていたつくもが敬介の耳をひっぱった。


「いてて…。なんだよ、冗談じゃないか。満が真津子のことで妬くなんて、ありえないのはわかってるのに」


「え?」


ひっぱられて赤くなった耳をさすりながらむくれる敬介に勇希が驚いた声をあげた。


「もしかして、敬介気付いてなかったの?」


「は?気付くって、何を?」


勇希に聞き返す敬介につくもが深いため息をついた。


「こいつには無理だよ。こーいうことにはメチャ疎いんだから」


つくものあきれた声に敬介はぷっとむくれた。


「あんだよ、こーいうことって。はっきり言えよ、感じ悪いな」


同意を求めるために光を見ると、光もさっぱりわからないという風に肩をすくめた。


「つまり、満は真津子のことが好きだってこと」


やれやれ、といった感じで言ったつくもの言葉に敬介と光は思わず顔を見合わせた。


「はあ?それってちょっとヤバくね?」


「なんでよ?」


怪訝な顔をするつくもに今度は敬介がはあ、と大げさにため息をついてみせる。


「なんでって、年が犯罪的に離れてるじゃねえか?確かにお前なんかより真津子はず〜っと美人だから、満が気になるのもわからないわけじゃないけどさ。俺だってあいつが年上じゃなけりゃきっとくどいて…うげっ!」


調子に乗ってしたり顔で話し続ける敬介の頭をつくもは近くに置いてあった雑誌でおもいっきりはたいた。


「何バカなこと言ってんの。満が聞いたら怒るよ、まったく…」


と声は冷静を装っているものの、その顔は怒りで真っ赤になっている。口では満のせいにしているが、つくも自身が顔のことを言われたことに憤慨しているのは明らかだった。まだ素手で殴られなかっただけマシというものだろうが、それでもかなりの音がしたから、はたかれた当人は相当痛かったに違いない。案の定、敬介ははたかれた頭を押さえてうずくまっていた。


「え、でも加瀬さんって、僕達よりずっと上だよね?」


目尻に涙を浮かべる敬介を気の毒そうに眺めながら光が尋ねる。


「ん?ああ、満のこと?まあ、結構老けて見えるから、あんたがそう思っちゃうのは仕方ないんだろうけどさ。ま、実際あたしらよりはだいぶ上だし。でも満って三十代、それもまだ前半みたいだよ」


「ええー!!」


つくもの答えに光と敬介はまるで示し合わせたかのように、一斉に大声をあげた。


「あの顔で三十代?!見えねー」


「あんたね…」


「それに、真津子って、私よりも年下だよ?」


大騒ぎしている敬介と光に勇希は追い討ちをかけるようにそう言った。


「へ?」


「ああ、なんか真津子って、途中から飛び級したらしいよね。十七で博士号とったって話じゃん。満と出会った頃から急に頭がよくなったとか…。なんかの改造手術でも受けたんじゃないかってバカなことを言う人もいたらしいよ。ま、おおよそ元々頭が良かったところに満のお陰で自身がついたってのが、ホントのとこなんだろうけど」


この二年で勇希たち三人は同性同士、急激に仲が良くなっていたらしい。三人ともお互いのことをよく知っているようだった。

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