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第十二章:一途な想い(2)

とんだ火災騒ぎで菖蒲を逃してしまった敬介はご機嫌斜めだった。


スプリンクラーに視界を妨げられながら、やっとのことで上にあがってみると、あれだけ閑散としていたはずの病院は驚くほどたくさんの人でごった返していて、菖蒲の姿はもうどこにも見当たらなかった。


仕方がないので一度外に出た四人は、光が行きそうな場所を探すことにした。未だに状況がよく掴めていない自分達が行っても仕方のないような気もしたが、かといって放っておけるはずもなかった。


どこを探していいのか、普通なら検討もつかないのだが、幸いにして真津子のリーディング能力は人探しにも役にたつ。しばらく目を閉じていた真津子が光の気配を感じ取ったのは例の灯台の方角だった。


満の運転する4WDで灯台に向かっていると、なにやら急に雲行きが怪しくなってきた。


「嵐にでもなるのかな?」


つくもがつぶやく。低く垂れ込めた雲は暗く、いかにも一雨きそうな気配だった。


「なんだ、あれは」


灯台近くに車をつけた時、運転していた満が不安な声をあげた。その声に一同が窓の外を見ると、空中になにやら巨大な白いものが浮かんでいる。じっと目を凝らすと、細長いそれはまるで蛇か龍のような、この世のものとは思えない姿に見えた。そのすぐ下で弱い青白い光が飛散するのが見える。


「今の光って、まさか!」


真津子がはっと息を呑む。


「みんな、急げ!」


満の声に一同は走り出した。


***


空に浮かんでいた白いものが見えなくなった時、あれだけ深く垂れ込めていた雲も嘘のようにきれいさっぱりなくなっていた。すっかり暗くなった空にはいくつかの星さえ瞬いている。一番に走り出した敬介の目に飛び込んできたのは地面に力なく座り込んだ光の姿だった。


「おい!どうした?大丈夫か?」


まるで魂の抜けたような瞳をしている。駆け寄ると、呆然としている光の肩を掴んで強く揺さぶった。その瞳に光が戻ってきたかと思うと、光はうっ、と声にならない悲鳴をあげた。


「どうした?」


苦しそうに眉をしかめた光の体をよく見ると、脇腹のあたりが血に染まっているのが月明かりの下でも見えた。


「お前、怪我してるじゃないか!一体誰にやられたんだ?まさか、さっきのあの…」


「僕のことはいい、それより、勇希ちゃんを助けないと…」


心配する敬介の手を払いのけて立ち上がろうとした光の体はすぐにその場にくず折れた。


「おい!大丈夫か?」


そうしている間につくも達も追いついてきた。


「どうしたんだ?」


敬介の声に異常を感じた満がその場に立ち尽くすつくもを押し退けて近づいてくる。


「満、こいつ、ひどい怪我を…」


満は医者らしくさっと光の怪我をみたり、熱を測ったり脈を取ったりしていたが、光はその手を尚も払いのけようとする。


「ほら、暴れるなって、満はお前を助けようとしているだけなんだから」


「早く助けにいかないと、勇希が…」


心配する敬介の声を無視して起き上がろうとする。こんなところでぐずぐずしている場合ではない。菖蒲を乗せた白龍は勇希を連れてどこかへ消えてしまった。早くなんとかしないと、二人が安全でいるという保証はどこにもない。もちろん、二人の居場所など検討もつかないのだが、それでも何もせずにいることはできなかった。


そんな焦る心とは裏腹に光の体は一向に言うことを聞いてくれず、光はまた眩暈を感じて敬介の腕の中に倒れ掛かった。


「いかんな、何か毒があるものにやられたらしい。早く処置しないと…」


そう言うと満は唇を噛んだ。


「一体どうしてこんなことに…」


真津子が青ざめた顔で呟いた。その横ではつくもが、まだショックを隠しきれない顔で立ち尽くしている。


「真津子、すまないが、俺たちをテレポートしてくれないか。光を診療所まで連れて行く。毒が全身に回る前に早く処置しないと…」


満の声に光がつらそうに目を開けながらまた抗議しようとするが、敬介がそれを止めた。


「心配するな。俺が勇希を探し出してやるから」


「けど…」


「光君に勇希の居所がわかるの?」


まだ何か反論しようとする光に真津子が聞いた。


「それは…」


そう聞かれてしまっては、答えることはできない。光はくやしそうに唇を噛んだ。


「幸い、私の能力は人探しにも役にたつの。私も、あの子の気を探ってみるから、ここはおとなしく、満の指示にしたがってちょうだい」


「それなら…篠山さんも、助けてやってくれないか?」


光は少し申し訳なさそうに尋ねた。


「篠山さんって、彼女がどうかしたの?」


と真津子は聞き返した時、光の体力はもう限界に来ていたようだ。さっきよりも苦しそうに息を吸って何か言おうと開きかけた口からは何も出てこなかった。


「真津子、早くテレポートを」


光の様子を見ていた満がいい加減に焦れて真津子を促した。


「つくも、お前も光についていてやれ」


敬介が呆然とみんなのやりとりを聞いていたつくもに声をかける。つくもははっと敬介を見ると無言でうなずいた。

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