第九章:悪夢の始まり(3)
ここからは光の秘密の話です。みなさんの予想と同じだったでしょうか。。。
ある夕方、勇希たちは真津子の父の書斎に集まっていた。真津子から、とうとう光の過去に関するリーディングの結果を話すと連絡があったのだ。
勇希が指定された時間に行ってみると、他の仲間−敬介、つくも、そして満−はもうすでに集まっていた。どことなく普段と違う印象を受けたのは皆一様に珍しく神妙な顔をして座っていたからである。
おそらく、それだけ皆今回のことを慎重に受け止めているということだろう。特に敬介とつくもが言い争いもせずに静かに座っていることは今までになかったことであり、そのことが勇希を必要以上に不安にさせた。
手伝いの女性が皆に飲み物を配り終わり、奥の部屋に下がったのを見届けると、真津子はさっとドアのところまで行って、それから鍵をかけた。そのまま壁の傍まで移動すると、作りつけの小さなダイヤルを回す。ウィーンという小さな機械音とともに大きな窓から差し込んでいた外の光が消えて、代わりに天井からぶら下げられたオレンジ色の室内灯がぱっと輝いた。
「なんだ、ビデオ鑑賞会でもするのか?」
真津子の行動を訝しんだ敬介が口を開いた。その問いに真津子は聞こえるか聞こえないかのような小さな声でちがうわ、と呟くと、皆と面する場所に座って四人の顔をゆっくりと見回した。
「みんなに聞いて欲しいことがあるの」
「あれ、でも肝心の光って子がいないじゃん」
つくもがねえ、と同意を得るように勇希を見る。この中で光と直接会ったことのないのはつくもだけだった。過去にカミンにあこがれていたつくもはそっくりだという光に会いたがっていた。実際、あの日、あの灯台で光と偶然出会って以来、勇希は何度か時々光に会っていた。といってもわざわざ待ち合わせをして会っていたのではなく、いつも偶然同じような時刻にあの場所へ行くと、まるで示し合わせたかのように光がいたのだが。
別にわざとつくもを会わせないようにしていたわけではないのだが、いつの間にか今日までそのままになっていたのである。
ところが真津子は首を振った。
「彼は今日、みんながここに集まっていることは知らないわ。伝えてないから」
「え?なんで。そりゃ俺たちにも関わることだけど、結果を一番知りたがっているのはあいつじゃないか」
真津子の答えに敬介が怪訝そうに言った。
「まだ教えられないのよ」
「なんで?」
「私自身、結果を完全に納得できていないから」
「え?」
以外な言葉に絶句した。頭のいい真津子が納得できないことなんて、今までに一度だってありはしなかった。ましてや誰かの過去を読むことなど、本人はあまり気が進まないことのようだが、それでも真津子にかかれば容易いことである。
はじめはたちの悪い冗談かとも思ったが、真津子の顔はいつになく真剣だった。納得いかない結果を光にうかつに話すわけにはいかない。だから、先に仲間である皆に相談したかったのだ、と続けた。
「納得できない結果って…?」
つくもが先を促す。真津子はうなずくと、ゆっくりとその内容を話しはじめた。
真津子の話を全て聞き終わったとき、残りの四人の顔にも真津子が最初浮かべていたのと同様の苦悩の表情が浮かんでいた。真津子の話は主に二つに分かれていた。
一つは光に処方された薬の成分について。これは満が真津子に調査を依頼した、例の虹色に輝く液体のことである。この世界で最高技術を誇ると言われる研究所を通しての報告結果は『解析不可能』。どうやら毒物ではないらしい、ということだけは分かっているが、その成分は何かの病気や発作を抑えるものではなく、どちらかというと精神安定とか物質の破壊を抑えるものだという。けれども、それが一体なぜ光に処方されたのか、いや、その前にこの薬は誰が発明して調合したのか、それすらわからないという。
二つめは光の素性についてである。これも、真津子は四方に手をつくして調べてみたが、何一つ手がかりは見つからなかった。それは、まるで光自身がこの世に存在していなかったかのようだった。そしてそれを裏付けるのが真津子が先日行ったリーディングの結果だ。真津子はあれだけ時間をかけ、これ以上ないというほど慎重に調べてみたにもかかわらず、光の中に存在するはずの過去の欠片はどこにも見当たらなかった、とそう括った。