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第七章:扉の向こう側(1)

静かな部屋にカチコチと時計の音だけが響く。広い応接室は年代モノの調度品や高そうな絵画が並んでいた。


三人がけのソファーの真ん中で勇希は身じろぎもせず、ただ緊張した面持ちでじっと座っている。その目の前を敬介が先ほどから何度となく往復していた。


勇希が光を連れて流真津子の自宅を訪れてからもう三時間。真津子がリーディングを行うために光を別室に案内してから既に二時間が経っていた。


勇希が光と共に訪れた時、真津子はちょうど遅い食事を済ませ、帰ってきたところだった。真津子と光が初対面だと思っていた勇希であったが、実は光が退院初日に自分の過去を求めて流インターナショナルを尋ねていたことがわかった。真津子は光がカミンに生き写しであることに驚いていた。以前は髪が長く、まだやつれていたために気が付かなかったのだ。


勇希が手短に事情を話すと、真津子は以外とあっさり事の次第を受け入れた。勇希にはまだ話していなかったが、先日の鍵の件もある。満も光の処方薬のことで、調査を依頼してきていたし、真津子の父と光との関係も依然不明のままだ。多くの謎を解き明かすためにもリーディングが必要なことを真津子はちゃんと理解していたのだ。


真津子が光を別室に連れて行くと、勇希はつくもや敬介、満に連絡を取った。もしこのリーディングで光がカミンの生まれ変わりだとしたら、やはりみんな一緒に迎えてやりたかった。けれど、連絡がついたのは敬介ただ一人だった。


敬介が真津子の家についたのは、それから30分後のことだった。待っている間、勇希は今日、あの灯台で起こったことを詳しく話して聞かせた。直情的な敬介は何度も怒ったり苛立ったりしながら勇希の話を聞いてくれた。


話しを聞き終えた敬介は深いため息をつく。前回と同じく、今回も謎が多すぎる。ただわかっていることは、ルシファーが生きていて、またなにかを企んで動き出しているということだけだった。


「とにかく、ここは真津子のリーディングが終わるのを待つしかないってわけか」


そう言ってしばらくはおとなしく座って待っていた敬介だったが、真津子と光が入っている部屋の扉は一向に開く気配がない。静かな部屋の中に、掛け時計の秒針の音だけが規則正しく響きわたっていた。


「あ〜!もう、まったくなんでこんなに時間かかってるんだよ!」


とうとうがまんできなくなってそう叫んだ時、居間のガラス戸が開くと、疲れた顔の真津子が現れた。あとから額に絆創膏を貼った光が続く。


「やっと終わったか…」


「君は、あの時の…」


待ちくたびれて文句を言う敬介に光は話しかけた。


「よっ!ひさしぶり!もう動き回って大丈夫なのか?」


「ああ。勇希ちゃんから聞いたよ。わざわざ病院に来てくれたんだって?会えなくて悪かったね」


「あ〜別にいいって。お前が元気ならそれで。な、勇希?」


そう言って、敬介は勇希と光の肩をばんばん叩いた。どうやらうれしい時に人を叩くのが敬介のくせらしい。本人はさもうれしそうに満面の笑みを浮かべている。


「えっ?う、うん。敬介、痛いって…」


勇希の文句など今の敬介の耳には入っていない。更に叩き続ける敬介に文句を言おうとした時、ふと敬介の顔から笑みが消えた。


「それで、なんかわかったのか?」


敬介は急に真面目な顔に戻ると光のほうに向き直った。


「あ、いやあ、それが…」


敬介の問いに光の顔が心なしか曇る。


「まさか、あんだけ時間かけといて、なんもわかんなかった、とか言うんじゃないよな?」


光の心もとない返事に敬介は今度は真津子のほうを向くとそう聞いた。


「そうよ」


「「ええ〜!」」


あっさり認める真津子に勇希も敬介も同時に声をあげた。二人の非難するような目が真津子をじっと見つめている。


「少なくとも、もう少し時間がいるわ。分析しなきゃいけないの」


真津子はかけていた眼鏡を外しながらそう言った。


「はあ?」


「とにかく、もう少し待ってちょうだい。分析がすんだら、きちんとみんなに話すから…ね」


まだ何か言いたそうな敬介を見た真津子の目はいつになく寂しそうで疲れていた。


「敬介」


勇希もそれに気付いたようで敬介に合図を送る。


「あ、ああ。ま、今日はもう遅いしな。じゃあ俺達はもう帰るか。ちゃんと分析すんだら、教えろよ」


「わかってる。ちゃんと説明するから」


三人を玄関まで見送ると、外にはたくさんの星が煌いていた。それは同じ暗闇でもさっき光の中に見えた闇とは対照的なものだった。その輝きを見つめながら真津子は大きく息を吐く。分析に時間がかかると言ったのは真っ赤な嘘だった。答えはもうすでに出ている。けれど、その答えを信じたくない自分がいた。でもきっといつかは答えを出さなければいけない。


「分析するものがあれば…ね」


そう一人ごちると、誰もいなくなった静かな家の中へと戻っていった。


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