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第六章:出会い(3)

直接会うのはこれで三度目だろうか。まさかまたこの男と出会うとは思ってもみなかった。


「そんな、どうして…」


「ルシファー!!」


勇希が何か言おうとする前に、光の怒声が響き渡った。勇希は驚いて、光のほうを見る。


この男が何者か知っているの?一体どうして…?


言葉にならない疑問が、心の中で次々と沸き起こっていた。

そんな二人を見て、ルシファーはさもおかしそうにくっくっと喉の奥で笑った。


「おや懐かしい。二人が実際に揃っているところを見るとは…。こうしていると、まるでホンモノのようだ」


「何を言っている?」


光の問いに、ルシファーは大声で笑い出す。


「何が可笑しい?一体どうして僕を狙うんだ?」


光はさっきとはうって変わった厳しい口調でルシファーに聞き返した。だが、ルシファーは相変わらずのんびりした様子でその問いに答えようともしない。代わりに、ルシファーの糸のように細い目がゆっくりと勇希のほうへ移っていくのに光は気が付いた。


「お前、一体なに考えて…」


相変わらず、光を無視したまま、ルシファーはその骸骨のような右手を差し出した。勇希がはっとした次の瞬間、何かに視界を塞がれる。気が付くと、光が自分をかばうように覆いかぶさっているのが見えた。ルシファーの攻撃を避け切れなかったのか、光のこめかみから一筋の血が流れ落ちる。


「玖澄君、あなた怪我して…」


傷口を触れようと延ばした勇希の白い手を避けるように、光はさっと立ち上がった。


「心配ない、ただのかすり傷だ。それより、俺から離れるな」


それだけ言うと、光は勇希を自分の背にかばうようにして立つと、空中に漂うルシファーの細い影を睨みつけた。その瞳には、はっきりとした闘志と憎悪がみなぎっている。その体の周りにはうっすらと青いオーラがたちこめているのが見えた。


「ほう?どうやら前よりは気が強くなったようですね」


ルシファーもその青い気に気が付いたようで細い目を益々細めた。


「だが、後ろのお嬢さんに気をとられて怪我をしているようじゃ、まだまだですね」


ルシファーはそう言うと、意地悪そうに笑った。


「一体なんなんだ?お前はなぜ俺を狙う?」


光の問いにルシファーは片方の眉を不思議そうに吊り上げた。


「おや…まさか…」


そう言ったまま、なにかしばらく考え込んでいる。そんなルシファーを光の背後から見つめていた勇希にルシファーの細い目が止まった。


「ははん。なるほど、そういうことですか…」


なにやら一人で納得したように頷く。


「危ない!」


ルシファーの意図に気付いた光は、無意識のうちに右手を掲げて叫んだ。

同時にルシファーから放たれた気弾が光の掌からほとばしる光に弾かれる。勇希は驚いて目を見開いた。


「え、な、なんだ、今の…」


光も自分がしたことに驚いているようで、戸惑いの声をあげている。ただ、ルシファーだけが、満足そうに薄い唇の端をあげて微笑んだ。


「やはり…お前もカミンの子と言うわけか」


「え?」


勇希はルシファーの言わんとするところが掴めずに思わず聞き返したが、ルシファーは相変わらず少し唇の端をつりあげると、何も答えず、そのまま夜の闇に溶けていった。



***


「なんなんだよ、一体…」


忽然と消えたルシファーに、光は拍子抜けしたように呟くと、そのままぐったりと地面に座り込んだ。辺りはすっかり暗くなって少しはなれた公園の街灯が灯り始めている。勇希は光が落ち着くのを待つと、一番近くにある公園のベンチまで光をつれていった。


「大丈夫か?」


公園のベンチに座ってすぐ、口を開いたのは光だった。青白い蛍光灯に照らされた藍色の瞳が、勇希を心配そうに見つめている。こうやって見ていると、目の前にいるのがカミンではないというのが嘘のようだ。光の問いに、勇希は黙って頷いた。


「すまない。僕のせいで君にまで怖い思いをさせてしまって…」


光は勇希から顔をそらすと項垂れた。初夏のやさしい風にその紺碧の髪が静かに揺れている。


「さっきの、あの人を知っているの?」


「ああ…。ルシファーというらしい。僕の過去を知っているとか…。君の友達に助けられたのも、実はあいつがからんできたせいなんだ」


「じゃ、さっきの気弾は…」


「僕は、一体なんなんだろう…さっきのあれは…あの光は…僕は人間じゃないんだろうか?」


勇希が言いにくそうに切り出したとき、光がぼそりと呟いた。その横顔は苦悩に歪んでいる。記憶をなくしてもなお執拗に自分を狙ってくるルシファー、そして自分の持つ不思議な能力。光の混乱は最もだった。


勇希は、ポケットからハンカチを取り出すと、光の額にこびりついていたままになっていた血をそっと拭った。


「ね、記憶、取り戻したい?」


「え?」


唐突な勇希の問いに光は思わず聞き返した。


「あなたの過去、そして記憶。取り戻したいと思う?」


「ああ…。それはもちろん。けど…」


「どんな過去でも、後悔しない?」


光の問いを遮って、勇希は念を押した。


「ああ、しない。そりゃ、不安がないと言えば嘘になる。だけど、今のままじゃ、いつか周りの人まで巻き込んでしまうかもしれない。それだけは、嫌なんだ。もし、僕の記憶が戻るなら、どんな方法でも試してみたい」


「じゃ、決まりね。ちょっと一緒に来てくれる?」


光の堅い意志を聞いた勇希はさっとベンチから立ち上がると光の腕を引っ張って立ち上がらせた。


「え?一緒にって、どこへ?」


何のことか理解できない光に勇希は軽くウインクする。


「あなたの記憶を取り戻せるところ。それが出来る人のところまで、連れて行ってあげる」


遠く深い闇の中、今、一つの小さな星が生を受けた。まだ、誰も知らないその星は、他のどの星よりも小さく、けれど、どの星よりも明るく賢明に輝いていた。まるで、これから見えない未来へと立ち向かう、二人を優しく見守るかのように。暗く深い闇の海で、自分という星を見失わないように…。

やっと勇希も光と直接会うことができました(*^-^*)。勇希には光の記憶を取り戻す方法に心当たりがあるようですが…。

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