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第四章:厄日(2)

この日、街角で偶然、敬介はカミンにそっくりな青年を見かけた。他人の空似にしてはよく似た青年に、敬介は声をかけずにはいられなかった。人ごみの中、掻き分けるようにして近づいていく。なんとか人の波を掻き分けて今まさに声をかけようとしたその時、複数のいかにも怪しげな男達が、どこからともなく現れたかと思うと青年をとり囲んでしまった。そうしてなにやら二言三言話した後、一行は人通りの少ない裏路地へと消えていったのだった。


何か嫌な予感がする。そう思って後をつけてきたのだが、まさか本当にあの能力を、また真の当りにするとは思ってもいなかった。今その光景を見せ付けられても、とうてい信じられそうもない。


この世では精神体として勇希の中でのみ存在していたカミンは、数年前の事件の末、黒幕であると思われるダコスと共に黄泉(よみ)の国へと消えていった。そのカミンが今、目の前にいる。そして以前と同じようにその危機に居合わせた自分がいた。


夢でも見ているのか?


ふと思う。そうでなければ辻褄(つじつま)が合わない。だが、過去にも辻褄が合わない不可思議なことはいくつも経験済みだった。理論ではどうにも説明できないこと、それは、こんな文明の進んだ世の中でも未だ確かに存在しているのだ。


「素晴らしい。思った通り、彼の潜在能力はちゃんと引き継がれているようですね」


そう言って長髪の男はうれしそうに目を細める。もともと細い目が一本の線へと消えていった。


「だが、こんな微弱な力では困るんですよ」


突然、その声音が冷ややかなものへと変わる。その瞬間、カミンの周りの空気が一瞬にして凍りついた。急激な温度の低下とそれに伴う圧力に息ができない。次第に、彼の体の周りを覆っていた青白い光が除々に消えていく。青年の口からは苦しそうな音が漏れた。


「さあ、どうしました。能力を開放なさい。でなければ、君は死んでしまいますよ」


緑の瞳が暗闇の中で異様に光った。だが、カミンは苦しそうに喘ぐばかりでそれ以外になにも変化は見られない。


「君も強情ですね。そんなことでは大切なものすら守れな…っつ!」


長髪の男は、何かの気配を感じて咄嗟にその場から飛退いた。瞬間、黄色く輝く電気の球が炸裂する。はっとして振り向くと、まるで炎のように鮮やかなオレンジ色の髪が見えた。


「お前は…!」


男の涼しげな顔に初めて動揺の色がよぎる。電気のおかげで凍り付いていた空気が少しずつやわらいでいった。それと同時に圧迫から逃れたカミンの体がぐらりと大きく揺れたかと思うと、意識を失った体がその場に崩折れた。


「よう、久しぶりだな。ルシファー」


オレンジ色の髪の男が、左手で野球のボール大の電球を玩びながら不敵な笑みを浮かべ、ビルの陰から現れた。すると、ルシファーと呼ばれた男もまた、まるで旧友との再開を喜ぶかのように、やわらかな笑みを浮かべた。一瞬だけ見せた動揺は、今やきれいさっぱりかき消えていた。


「やあ、君でしたか。お久しぶりです。君がまだ彼の御守りをしているとは、思ってもいませんでしたが…」


「こっちだって、また手前に会うとは思ってもみなかったぜ。確かあの時、お前はカミンに倒されたはず。どうやって復活しやがった?」


仲のいい友達に話し掛けるような口調とは裏腹に、敬介の瞳はルシファーへの憎悪で煮え滾っていた。それに気付いているはずのルシファーだったが、敢えて無視しているのか、相変わらず涼しい口調で答えている。


「それは簡単なことです。不老不死の私を倒すなど、能力の一部をなくした彼にできるはずがない。かといって、あの状況は私にとってあまり有効なものではありませんでしたからね。次の機会を狙うためにしばらく身を隠していた、というわけですよ」


「次の機会?一体今度は何を企んでるって言うんだ?」


敬介の問いにルシファーは、ただ不敵な笑みを浮かべるとくるりと踵を返した。


「どうやら今日は分が悪いようだ。ここはおとなしく退散しましょう。ああ、そうだ」


敬介に背を向けたまま、ルシファーは何かを思い出したようで立ち止まる。


「御守りついで、と言ってはなんですが、彼の能力も引き出しておいてくださいませんか。私としても、彼にはできるだけ手荒な真似はしたくありませんからね」


「どういう意味だよ、それは」


元々、勉強が苦手な敬介は、子馬鹿にでもされていると思った様子で、ルシファーの謎解きのような言葉にふてくされたような表情をして訊ねた。


「さあ、ね」


ルシファーは敬介のほうをちらっと振り向いて意味有り気に微笑むと、忽然と闇の中に消えていった。



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