ヒナの日常1
「ん~……そろそろ起きないと……」
いつも朝は苦手。けど仕事の準備をしないといけない。
今日は管理者達からの報告書があがってくるし、先日の品評会後の進捗確認書類も……。
あぁ……あと昨日の書類がちゃんと出来ているか確認しないと……。
「ん、んー! よし起きた!」
ベッドの中で、今日の仕事の内容を確認している内に起きる気力が湧いてくる。
というより起きないとそろそろ準備の時間が危ない。
「アークは良いわね、ずっと寝ていられて……」
アークと名付けた、今私がベッドから蹴り落とした犬のぬいぐるみ。
抱き応えのある超大型サイズだ。
この子が来てからよく眠れるようになった。
愛嬌のある顔がまた可愛いのだ。
ただ、私が仕事に行ってる間もずっと寝ていられるこの子が羨ましい。
なのでとりあえず起きる際に、ベッドから蹴り出すのが日課になっている。
「さて、準備しないと……」
頭を徐々に目覚めさせながら身支度を整える。
アーク以外の子達の様子も確認しながらだ。
多数のぬいぐるみで飾られたこの部屋だけは誰にも見せられない。
たとえ魔王様でも絶対に……。
私にもイメージというものがあるのだから。
「今日は……これかな」
髪を整えながら、今日つけていく髪飾りを選ぶ。
昔もらったお気に入りの花の髪飾りにした。
「それじゃあ……行ってきます」
床に転がったままのアークをベッドの上に戻してあげてから部屋を出た。
食堂で朝食を簡単に済ませながら、今日の予定を再確認する。
魔王様はあまり事務仕事が得意でないから、私が仕事の優先順位をつけないといけない。
そうしないと承認や確認作業が滞って他の仕事までに影響がでる。
「あ、フィーナおはようー」
予定を確認していると私の名を呼ぶ声がする。
「おはよう。マリルはこれから朝食?」
声の主はここでよく会う友人、猫の亜人であるマリルだった。
「ううん。もう食べ終わったよー。食器戻そうとしたらフィーナがいたから声かけにきたの」
私の前の席に向かい合うように座った。
彼女の猫耳と尻尾がぴょこぴょこ動いている。
市場で人気のある看板娘の一人だけあって私からみても可愛らしい。
いつも元気で明るくて……私には無理ね。
「そうだ。フィーナに伝えたい事があったんだー」
「何かしら? 『格好良いお客さんが来たのー』とかなら長くなるからまたにしてね」
以前うっかり聞いた時は危うく仕事に遅れる所だった。
しかもこの子の場合毎回相手が違うが、共通して説明が長い。
「違う違う。この前品評会でさ、フィーナが連れてきた子がいたじゃない?」
「あぁ、ネーファね。あの子がどうかしたの?」
少し前、魔王様の思いつきで開催された品評会。
私はそこでネーファという子と知り合った。
そして突然魔王様から可愛い服を選んでやってくれと頼まれた。
その時マリルの働いてる店で、彼女に選ぶのを手伝ってもらったのだ。
「あの子今市場でお店出してるんだよー」
それは知ってる。だって申請書見てるもの。
「本当に小さいお店だけどね。そこで、この前二人で選んだ服着てくれてたよ」
「へぇー。あの服良く似合ってたわよねぇ」
あまり時間が無いとは言われていたが、マリルと二人で着せ替え人形の如く色々試したのは記憶に新しい。
あの子は……着せ替えのし甲斐があった。
「うんうん。それでね、また服選んで持ってこうーと思って」
「あら、また着せ替え人形にするつもり?」
そういう事なら私も参加したい。とすぐに言い出すのは自重した。
「うん! 磨き甲斐あるものっ。 それにあの子ならいずれ『看板娘十傑』に入れるかも」
「何よその『看板娘十傑』って……」
マリルも入ってるの? 他の看板娘って? 入るための条件は? と色々聞きたいが、時間があまりない。
「今時間無いから、今度詳しく聞かせてね」
仕事に遅れるわけにはいかないし、ここで話を切り上げた。
「あっ、私も行かないと。それじゃあ今日も一日お仕事がんばろー」
マリルが花のような笑顔を私に向けてくる。
「えぇ、今日も頑張りましょう」
その笑顔につられて私もつい笑顔になる。
私とマリルは食堂からでて、それぞれの職場に向かった。
執務室に行く前に魔王様に処理して頂く書類を纏め、中身を簡単に確認する。
急ぎの書類かどうか、をここで見極めるのも私の仕事だ。
他の職員にも指示を出してから、執務室へ向かう。
「さぁ、魔王様。今日も頑張っていただきますよ」
この書類の山をみたらあの人は嫌そうな顔をするだろう。
でも貴方の代わりはいないのですから諦めてくださいね。
そして今日も私の仕事が始まる。