第1章:ステージ1 ストリカ村(夜) 前編
「村を、焼くって……」
そんなの。
人殺しをしろって、ことか……?
「簡単メポよ! まずはこのマップを見るメポ!」
メッポルが空中に村の地図と思しき図形を描き出す。
中央に緑の光点が点滅しており、周りを赤の光点が囲んでいた。
「緑がショウとメッポルを表しているメポ! 赤の光点は邪教徒メポね。この邪教徒を、全員焼き払うメポ!」
「あのな、そんなこと、できるわけないだろ」
「ショウ……メッポルは、ショウに死んで欲しくないメポ」
メッポルは今までにない声色で、淡々とそう言ってのけた。
「ショウを守るために、メッポルはずっと準備してたメポ……」
「なんだよ、準備って」
「今の時間は、狩人たちは皆、夜警に出払っていていないメポ。昼に会った、あのアリュアスとかいう男もいないメポ」
そう言って、メッポルがマップをいじると、村が縮小され、さらに広範囲が宙に描き出された。
赤く、大きい点が村の北に向かってゆっくりと動いている。
「これがアリュアス……奴は邪教徒の中でも特殊な力を持った特別製メポ。まずはあいつのいない内に村を焼かなければ、勝機はないメポ」
「勝機ってな、メッポル。本当にこの村の人間は僕を殺そうとしてるのか?」
僕がそう答えると、メッポルはしばらくぼんやりと宙を見つめていた。
「メッポル?」
「……殺人への忌避? いや、あり得ない……殺すことに躊躇いなどないはずだ。そういう魂を選んだはず。ならば、なぜ……? 何がこいつを戸惑わせている」
「おい、メッポル?」
「ああ、そうか。『火種』が足りないか……」
そう言うと、メッポルは僕の胸をトンと叩いた。
「『炎上』、『焦燥』」
途端に。
熱が戻ってくる。
昼間克服したはずの、心臓を灼く熱が、再び僕の裡を這いまわる。
「ぐあ、あああああッ!」
「何事だ?」
テントの入口の布が上げられ、村人がこちらを覗きこんでくる。
その右手には、無骨な鉈が握られている。
「ショウ! 危ないメポ!」
刃に煌めく月光を見て、僕は。
昼にスレイグマに襲われた時の事を思い出した。
死にたくない。死にたくない。
死にたくない!
「『白の炎よ』!」
胸を掻き毟りたくなるような衝動に任せて、
叫び、村人に向けて手をかざす。
熱が、身体の外に向けて流れて行き、白い炎となって、顕在化する。
ぼっ、という間抜けな音と同時に、村人の首から上が炎に包まれ、一瞬で焼け消える。
「はっ」
口から空気が漏れる。
殺されるところだった。刃物。
「ははは」
それでも、平気だった。
僕には、『力』がある。
僕には力があるんだ!
「ははは、はははははは!」
いつの間にか、僕は笑い出していた。
抑えられぬ笑いを噛み殺しながら、僕はメッポルに尋ねる。
「メッポル! ぼくはどうすればいい!」
「ステージ1-1、夜のストリカ村、開始だメポ! まずは風の向きを可視化するメポ!」
メッポルがマップを弄る。ストリカ村の全景が映る。そして、水色の矢印が、マップに表示される。
「風上に火種を置くとより燃え広がりやすくなるメポ! 幸い、この村は燃える火種には事欠かない……風上に炎を置くメポ!」