第0章:敗北イベントと新たな出会い
力を手にした僕。
その興味は専ら……
「おなか空いたんだけど」
「どうぶつを焼くメポ!」
食料の確保に向いていた。
成長期真っ盛りの僕の身体は、真剣に栄養素を求めていたのだ。
「動物を焼くって……この『力』でか?」
「そのための力メポ! 試してみるのが早いメポ!」
「おいお前、さっきもそう言ってロクなことにならなかっ」
「メポーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
僕の言葉を遮るようにして、突然馬鹿でかい声で叫ぶメッポル。
くらくらする頭を抑えながら、僕はメッポルの首を掴む。
「く……くるしいメポ……」
「またロクでもないことしやがって……叫ぶなら叫ぶって言えよ! でけえよ声が!」
「だって、試してみるのが、早い、メポ」
「この駄メッポルが!」
「あっ!? それなんかすごーくいやな響きメポ!? なんかすごい馬鹿にされたメポ!?」
「うるせえんだよ、お前なんて駄メッポルで十分なんだよ!」
「グルルルルル」
「へっ、なーにがグルルルルルだ……って」
気がつけば。
僕らの近くに大きな獣が現れていた。
見たこともない獣。巨大な体躯。鋭い爪。こちらを睨む眼は捕食者のそれ。
「おい駄メッポル……お前、さっき何をしたんだ……?」
「『この森で一番強い奴、このメッポル様に挨拶しに来いやクソボケ』って言ったメポ♪」
「そうか。お前ってホント最悪だな! 『白の炎よ』!」
手を翳し、叫ぶ。
巨大な獣の鼻先に、炎が発生する。
「グォオオオアアア!!!」
結果は毛を僅か焼いただけ。獣は後ろに飛び退る。
巨大さからは信じられないくらいに俊敏なその動きに、僕は全身が震え出すのを自覚する。
「だめメポ! なんでそんなとこ狙ってるメポか! 脳を! 脳を焼くメポ!」
「黙ってろ!」
メッポルと漫才をしている場合ではない。
この『力』だけでは目の前の化け物を倒すことは難しいだろう……!
ここは一つ、僕のもう一つの力。
現代知識を駆使しなけれ
「グァオ!」
「ばッ!?」
飛びかかってきた獣。振り下ろされた腕を、かろうじて鞄で受けられたのは、奇跡に等しい。
鞄が切り裂かれ、中の荷物が飛び散る。受けた僕は、その衝撃で背中から地面に叩きつけられ、がは、と息を吐き切ってしまう。
叩きつけられた身体はバウンドし、一瞬ふわりと宙を浮く。
死。
眼前に迫るそれを、どうすることもできない。
メッポルが何か言っているような気がするが、聞こえない。
『力』……『力』を使おうにも、声が口から出てこない。
死にたく、ない。
けれどその意志はどこにも届かない。
驚くほどゆっくりと流れる目の前の光景。
落下する自分の身体が、蝸牛のように遅い。
緩やかに流れる時間の中、獣の一撃はあまりにも速い。
振り上げられた爪が、振り下ろされるその瞬間。
横から何かが飛んできて、獣の頭に突き刺さる。
腕を振り上げたその姿勢のまま、獣はゆっくりと横に倒れてゆく。
「ガハッ」
再び背中から地面に着地した僕は、獣の頭を射抜いた矢……
それが放たれた方向を見やる。
「危なかったなあ、少年! スレイグマに襲われるなんて!」
そこにいたのは弓を背中に背負い直し、かかかと笑いながら近づいてくる男。
僕は死を逃れたのだ。
それが僕の命を救った男。
アリュアスとの出会いだった。