第0章:契約と力(名前は後から変更できません)
メッポルと名乗った毛玉は、メポメポ言いながら僕の周りを飛んでいた。
あざとい系の可愛さを露骨にアピールしてくるこの毛玉は、端的にいうと邪魔である。
「君がメポの封印を解いてくれたメポ! お礼がしたいメポ!」
「だから……封印なんて知らないって言ってるだろ! あっちいけよ鬱陶しい!」
「そんな~」
消沈したような声を出して、墜落するメッポル。
地面にべったりと伏してヨヨヨと泣いてみせる姿が、罪悪感を煽る。
もっと、美少女精霊とか、美少女エルフとか、美少女吸血鬼とか。
そういうのに懐かれたかったのにな……
まあ、そういうイベントはいくらでも起こるだろう。
「……わかったよ。で? お礼ってなんだよ」
「メッポルの力を使えるようにしてあげるメポ!」
僕の言葉に反応して、急浮上したメッポルは、そう言うと胸を前足で叩いてみせた。
「『してあげる』って、偉そうだな、メッポルの分際で」
「そ、そんなつもりはないメポ……ごめんメポ……」
「まあいいよ。僕はそんなこといちいち気にしないし。それで、『力』って?」
きっとこの時の僕の瞳は、期待に輝いていただろう。
力。力。『力』。
空を飛ぶ白い毛玉が、僕に力を与えてくれる。
ビバ! ファンタジー! いったいどんな凄いチート能力なんだろう。
「メッポルの力は、炎の力メポ!」
「炎か……王道だけど、なんか普通だな……」
「あっ、馬鹿にしたメポね! 今馬鹿にしたメポね!」
羽虫のように僕の周りを飛び回って抗議するメッポル。
ぼくはひらひらと手を振って応じた。
「それで? どうやれば使えるんだよ」
「力を与えるには、『契約』が必要メポ。まずは君の名前を教えてメポ!」
まるでゲームのチュートリアルのような台詞を言うメッポル。
「松村ショウ。それが僕の名前だ」
「『松村ショウ』。確かに聞き届けたぞ」
メッポルに名前を告げた瞬間。
僕の心臓に何かとてつもなく熱いものが流れ込んできた。
「ぐッ!? ああ、なんだこれ……ッ」
「受け入れるメポ、ショウ! それがメッポルの力……『白の炎』だメポ!」
熱い熱い熱い!
僕はその場に膝をついた。汗が、額を首を、流れていくのを感じる。
「大丈夫メポ? ショウ……顔色が悪いメポ」
「お前……僕に何を、した……!」
「力を与えたメポが……その熱が自分のものだと把握する必要があるメポね」
メッポルはそう言うと、僕の肩に止まり、頭にそっと手を置いた。
「『白の炎よ』。そう口に出してみるメポ! こういうのは慣れメポ!」
「お前……覚えてろよ……『白の』、『炎よ』!」
メッポルが促すままに呪文を口にすると。
胸の内に渦巻いていた熱が僅か身体の外に流れ出て、炎となって目の前に現れた。
同時に、悟る。
これが、『僕の力』だと。
すると、胸の内を灼くような熱は嘘のように引いていった。
「同調確認……すごいメポ! ショウは才能があるメポね!」
「これが……僕の『力』……」
目の前に浮いた白い毛玉と、白い炎。
それが、僕の『力』を肯定していた。




