プロローグ
学校はクソだ。
誰も彼もが他人を蹴落とすことしか考えていない。成績成績成績。テストの点を取ることが、そんなに偉いのか?
それでいて普段の素行は最悪。
いじめを行うクラスメイトに、それを見ないふりする先生たち。
世間もクソだ。
代わり映えしないTVに、面白くもないSNSに。
大人は皆、自分の利益と金のことしか考えていない。
ウチの親もそうだ。
だから、横断歩道を渡る僕に、トラックが突っ込んできた時。
その瞬間、期待していなかったと言ったら嘘になる。
異世界転生……
ここではないどこか、もっと違う世界で。
僕の力を活かせるんじゃないかって。
気がついたらそこは森の中だった。
「は?」
混乱する自分を、冷静に見下ろす自分がいる。
見たこともない植物。およそ日本ではありえない光景。
もしかして、これは……
「異世界、転生……? いや、異世界転移か」
自分の身体を眺めてみる。帰り道で着ていた学生服に、履き潰したスニーカー。
かばんの中から鏡を取り出して見れば、昨日と変わらぬ僕の顔が映っていた。
「神様に会うイベントはこなしてないと思うんだけどな……記憶を操作されちゃったのかな」
そう、こういうシチュエーションは、インターネットの小説サイトをよく見ていた僕には慣れっこ。
おおかた、この世界を変えるための力なんかを渡されて、新しい世界に飛ばされたのだ。
「ま、どうせチュートリアル戦闘が起こるでしょ……まずは冷静に状況を分析しますか」
僕は改めて周囲を注意深く観察してみる。
足元は石畳。どうやら森に飲まれた遺跡の上に飛ばされたようだった。
床に描かれた複雑な模様は、魔法陣か何かなのだろうか。
「これが転移の力を秘めているのかな? とりあえず記録しておこう」
ポケットからスマホを取り出して写真を撮る。電池の残量が切れないうちに、充電手段を確保したいところだ。
雷の精霊とか……そういうのを仲間にすれば余裕だろう。
「まずはこの遺跡を探索しろってことだな。王道王道。よーし、探索だ!」
しばらく遺跡を歩いて行くと、一目見ただけで邪神とわかるような、禍々しい巨大な石像が安置されていた。
転移の際に魔法の力を得たからだろうか、黒いオーラのようなものが漏れだしているのがわかる。
「すっげえ……いきなり魔王と戦わされるの? それはないだろ……」
しかし目の前の邪神像から伝わってくるオーラは半端なものではない。
恐らくは魔王……この世界を蝕む悪の根源、とかそういう存在だろう。
「とりあえず写メとっとこ」
黒いオーラは写メに映るのか。
そんな軽い興味でシャッターボタンを押したその時。
世界が。
白く灼けた。