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ハジマリ

【Mrs.Blood~Code of Battle~】


 白い霧が立ち込める、深い森の中。ひっそりと佇む洋館で、俺たちはただ時計の針が時を刻むのを聞いていた。古めかしくも美しい装飾が施された客室にいるのは俺を含めて6人。中学生くらいの男、三十路くらいの女、大学生の友人同士と思われる男二人と、黒いフードを目深に被った男か女かわからない人。

全員左の手首に蒼いリストバンドをしている。


 細長い秒針が真上を過ぎた時、どこからか振り子時計の音がした。それが、試合開始の合図。


「それじゃあ、また2時間後に。今度は3階の舞鶴の間で落ち合いましょう」


 三十路くらいの女――白崎とか言ったか――が腕時計を見ながら言う。俺たちが頷いたのを見て、フードの人が扉へと歩み寄った。背は俺より低く、話しているところは見たことがない。


 フードの人が静かに扉を開け、一度だけこちらを振り返って部屋から出て行った。そいつを筆頭に次々と部屋から出ていく同じリストバンドのメンバー。残ったのは俺と、中学生くらいの男。確か〝真咲〟ってハンドルネームだったはず。


「えーと……〝白狐さん〟でした、よね? オレ、先に行きますね」


「ああ。じゃあな」


 どこか気まずそうに部屋を出て行った真咲に片手をあげて応える。これでこの部屋にはオレ一人だけ。そもそもこうなったのは、2日前家に届いた奇妙な招待状のせいだ。あんなものが届かなければ今頃家でいつも通りネットゲームに入り浸っていたと言うのに。――いや、ゲームと言う点については今もプレイしているようなものか。


 2日前に届いた招待状は、とあるネットゲームのプレイヤーにランダムで届く代物らしく、オフ会の案内とも取れる内容だった。普段ならオフ会なんて誘わないし行かない。いくらネットで仲がいいとはいえ、実際に会って話をしてみたいなんて思ったことも無いからだ。


 2日前の俺も、その招待状は真っ直ぐにゴミ箱へ投げ捨てるはずだった。最期の1行がなければ。


「『参加者全員に、次週のアップデートで追加される〝射撃手(シューター)〟専用の最高レベル装備をプレゼント』……見事に釣られちまったわけだ、俺らは」


 確かにそのプレゼントは受け取った。が、まさかゲーム内ではなく、実物を渡されるとは思ってもみなかった。ずっしりと重い銃身。鈍く光る銃口。最高にかっこいいシャープで綺麗なライン。扱いやすそうな型。


 もちろん、弾もある。実弾ではないのが唯一の救いか。今俺たちが参加させられているのは、サバイバルゲームのようなもの。ただしかなりシビアなゲームだ。


 装填された弾数を確認して、だいぶ手に馴染んだそれを担ぐ。頭を過るのは、2日前の夕方、この屋敷に着いてすぐに知らされたこのゲームのこと。そして、このゲームを仕切る可笑しなゲームマスターのこと。




「初めまして、『グリモア・ハーツ』プレイヤーの皆様。今回の『射撃手限定イベント特別クラス』にご参加いただき、誠にありがとうございます。こうして皆様にお会いできましたことを大変うれしく思います。わたくしはこのイベントのゲームマスター……そうですね、グリーツとでもお呼びください」


 電子的なノイズ雑じりの声でそう切り出したのは、このゲームのゲームマスター。そして招待状の送り主だ。けれど、その場にいたのは本人ではなかった。ノイズの雑じった声――それは、一台のノートパソコンからのもの。画面には受信メールが開かれていて、どうやらその声はメールに添付されていた音声データのようだ。


 自動で再生するように仕組まれていたのか。もしそうだったとしても、メールを送るタイミングを見るために、本人も近くにいるはず。そんな俺の思考は、いたるところに設置されたカメラを見つけて霧散した。


「皆様には、これからゲームをしていただきます。内容は、皆様ならもうご存知でしょう。何せこれは『射撃手限定イベント特別クラス』ですからね。毎度の如く、ランキングもので御座います。もしこのゲームを棄権したい方がいらっしゃいましたら、この館の庭にあります赤いノートパソコンでわたくしにメールを送ってくださいませ――どのようにして対処するかは、お教えできませんが」


 クツクツと喉の奥で笑う声がする。低く単調に告げられた次の言葉に、誰もが息を呑んだのが分かった。


「まぁ、わたくしの招待状に従ってここまでいらした時点で、皆様に拒否権など御座いませんが」


 ぞくりと背筋が凍った。直観的に、ヤバいことに巻き込まれたのだと悟った。だが、もう回避する術はない。ここは山奥の森の中。ここまではゲームマスターが用意したと言うバスで来たし、俺は一人暮らしだから誰かが気付くことも無い。しかも、お決まりの、と言うべきか、携帯は見事に圏外。


<to be continue...>

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