トリップ少女がやってきた(チカ編)
トリップ少女は、周りに侍っていた男たちと離したら案外おとなしくなったようです。それは良いことですわ。侍女長の話をきちんと聞き、礼儀作法を真面目に学ぼうとしていらっしゃっているようなので、リナーシャ様の望みはかなえられることでしょう。
それよりも問題なのは、彼女の周りに侍っている男たちですわ。息子のドルガが対応をしているのだが、どうも聞き分けが悪いそうだ。トリップ少女のことばかり口にして、こちらの話は聞かず、「俺たちにそのような口をきいていいと思っているのか!」とはやし立てている。何処までも馬鹿なのだろうか。
そもそもリナーシャ様は、我が国の至宝、いいえ、この世界でもっとも大切にしなければならない方ですわ。私たちはリナーシャ様が大好きで、大切ですし、他国の方だってリナーシャ様に心酔しているものは多くいますもの。そんなリナーシャ様を敵に回すことを躊躇わない時点で馬鹿ですわ。私だったら例え本心でリナーシャ様を好いていないということが万が一あったとしても(そんなことはありえませんが)、リナーシャ様と敵対する真似はしないでしょう。その考えにいたらない時点で彼らは阿呆なのよ。
「本当に、あのような愚かものをリナーシャ様の前に出すなどと……彼らの国にはそれ相応の対応をしなければなりませんわ」
お父様と私は会話を交わしている。私はルナベルク王国の側妃という立場だけれども、それなりに政治にかかわっている。
そもそも陛下の妻という立場に私はいるけれど、重臣という立場の方が強い。妻ではあるし、子供もいるけど、陛下の妻という立場が強いのはリナーシャ様だけだろう。
「それは当然だろう。自分たちの国で対応しなければならないことを、他国に押し付け、なおかつリナーシャ様の手を煩わせるものにはそれ相応の対応はする。もう既に動いている」
「あら、流石お父様。ところで、陛下とルシア様は?」
「陛下とルシア様が今、結託して団結しているが……まぁ、ちゃんと暴走しないようにしているから問題はないだろう。あの二人はリナーシャ様のことでは一致団結するからの」
「わかりやすくていいではないですか。でも最後ぐらいは陛下にきっちりしめてほしいですわね」
「それはそうだな。他国にリナーシャ様だけが印象付けられるのも、リナーシャ様の望むところではないだろう。陛下にきちんとしめてもらうとして、ルシア様はどうするべきかの」
「ルシア様はリナーシャ様のために動けなくてもやもやしておられるようなので、ルシア様にも動いてもらいましょう」
ルシア様はリナーシャ様が関わらなければ完璧な王太子であるが、リナーシャ様が関わると本当に残念なのだ。今だってリナーシャ様のために動きたいと暴走しそうなのだから、リナーシャ様のために何も出来ないとなると別の意味で暴走しそうだもの。
「どういう場面にしようか。あの異世界から来た正気に戻った少女と対面させてからにすべきだろうか」
「ええ。そうですわね。少女にも、あの連中は処罰されても仕方がないと見せつけるべきですわよ。リナーシャ様は、彼女が傷つくことも望んでいないでしょう。リナーシャ様は本当にやさしい方ですから。彼らを処罰することを選択するにしても、彼女が納得してか処罰された方が気分を害されることがないでしょう」
正直私としてみれば、トリップ少女が何を考えていようがどうでもいいと思っている。だけれどもリナーシャ様はトリップ少女の心を気にするだろう。リナーシャ様はトリップ少女が納得しないまま彼らが処罰されれば良い気分はしないだろう。リナーシャ様には心から笑って欲しいのだ。
それは、お父様だって同じ気持ちなのだろう。お父様は私の言葉に笑った。
「それはそうだろう。ではあの少女と彼らを対面させたのちに、彼らを処罰させるか」
「ええ。まぁ、少しだけ彼らが彼女が納得する失態を起こすかどうかはわからないけれども。多分大丈夫でしょうね」
「ああ。ドルガから来浮く限りはそういう失態するだろうから、大丈夫だろう」
そもそも、ここで思いとどまれるような存在ならば、これほどの失態をおかすはずもない。それだけの頭が回るというのならば、彼らはリナーシャ様には突っかからないだろう。
そんなわけで、最後は陛下とルシア様にしめてもらうことが決まった。