トリップ少女がやってきた(侍女長編)
私はルナベルク王国の王宮で侍女長をしているものです。
私は、というより、私たち『リナーシャ様を慕う会』のメンバーが頭を悩ませていることは、あの異世界からやってきたという少女についてです。私共としてみれば、リナーシャ様に無礼な真似を行い、失礼にもほどがある彼の人たちをどうにかすることも問題はないと思っております。しかし、他でもないリナーシャ様がそれを望んでいないのです。私たちは、リナーシャ様のことが好きです。あのかたにずっと微笑んでいてほしいと、そんな風に望んでいるのです。
だから、私たちはリナーシャ様の願いを叶えるために行動をしています。まずはあのユイさんと彼女に惚れている殿方の引き離しを行いました。下手に権力を持ち合わせているのもあって、「俺たちにこんなことをしていいと思っているのか」などと煩いものでしたが、問題はなかったのでさっさと引き離しました。
そもそも彼らの国には好きにしていいといわれてますもの。リナーシャ様が望まれなければさっさと粛清して終わった話ですのに。
「どうして、皆と離されなければならないの!?」
さて、目の前にはユイ・カンザキさんがおります。
「必要であるから以外に理由はありません。それに貴方たちが揃っていると悪影響です」
「悪影響って、私がいるからって……」
「いえ、貴方がいるから彼らに悪影響なのではなく、彼らがいるから貴方に悪影響なのです」
面倒だけれども、私がユイさんと対峙しているのは私が結果を出せばリナーシャ様に褒めていただけるからだ。私はそもそも侍女長になれたのはリナーシャ様に褒められて嬉しくて仕方がなくて頑張った結果なのだ。この職場は『リナーシャ様を慕う会』の同志ばかりで働きもしやすくて、本当にとても良い環境だと思ってならない。
ユイさんは私の言葉に驚いた顔をした。
「え?」
「貴方は、彼らのせいでこの世界の常識を学べていません。貴方はリナーシャ様の言葉にひどいなどとおっしゃっておりましたが、こちらからしてみれば、貴方の態度は無礼としか言いようがない、本来なら罰せられてもおかしくない態度でした。それを自覚しておりますか?」
私は淡々という。
心優しいリナーシャ様だからこそ、ユイさんの無礼を聞いてもリナーシャ様の名において許された。あの言葉があったからこそ、私たちはおとなしくしている。しかし、本来ならあれほどの無礼が許されるというのはありえないのだ。
幾ら異世界から訪れて、この世界の常識を知らないとはいえ、あれは無礼すぎる。
「え、あれは、だって、私が皆といるからって気に食わなくてあんなひどいこといったんでしょう……」
「何を戯言を。そんなわけはありません。そもそも貴方の周りの殿方にリナーシャ様は興味を欠片もございません。あれは、貴方があまりにも無礼だったが故に心配して告げた言葉だと何故分からないのですか」
「心配……? 嘘、だってあんなにキツイ言葉……」
「貴方はちゃんとリナーシャ様の言葉を聞いていなかったのですか。そもそもですね、貴方もこの世界に落ちて、こうしてルナベルク王国に訪れることになったのならばリナーシャ様の噂ぐらいは聞いているでしょう。あのかたがそのような、ただ気に食わないからと暴言を吐くような方と思っていらっしゃるのですか」
本当に呆れる。リナーシャ様は、我が国の王妃殿下は世界的に有名だ。もちろん、ルナベルク王国という大国の王妃であるからという理由もあるが、それ以上にその人柄から有名なのだ。親しくする事が難しいとされているものたちと親しくしたり、驚くほどの交友関係を結んでいるのだ。それでいて心優しくて、他国の王宮なんて陰謀が溢れてドロドロしていたりするという話なのに、ルナベルク王国はリナーシャ様のおかげで平和な王宮を築いているし。
「誰にでも媚を売っているって聞いてたもの……。だから優遇されているみたいなことを」
「はぁ? 何をおっしゃっているのでしょうか。リナーシャ様は媚をうる必要はございません。あのかたは人と交友関係を結ぶ天才です。リナーシャ様とかかわった人の大半はリナーシャ様をすきになります。中には例外もおりますが。優遇されているというより、リナーシャ様のために皆何でもしたいと望んだ結果でしょうね」
私はキレたくなりました。確かにリナーシャ様と直接かかわりのない者たちの中には、リナーシャ様のことをそんな風に陰口たたく存在が居る事は知っていましたが、その言葉を実際に聞かされると怒りたくもなるものです。
私たちのリナーシャ様に対してなんてことを、と。
「それでですね、話を戻しますが。貴方は礼儀がなっておりません。少なくとも王侯貴族と接する礼法がきちんとされていないというのは、貴方が彼らと共に過ごしたいとなると問題になります。リナーシャ様が貴方を無礼といったのは、貴方が無礼だからです。それを直さないと彼らと一緒に生きる事は難しいとリナーシャ様は心配していったのですよ」
まったく、そのくらい理解してほしいと私が告げた言葉に、ユイさんは益々驚いた表情を浮かべるのであった。