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トリップ少女がやってきた(ルシア編)

 私は怒っていた。

 あの異世界からやってきたという少女。

 数多くの貴族や王族を惑わした少女。

 ――――あの少女へのいら立ちが止まらない。

 母上に、あの至上にして、最高の王妃であり、私の自慢で仕方のない母上にあいつは「ひどい」などといった。 

 母上以上に優しい人など存在しない。母上以上に慈愛深い人間など存在しない。だというのに―――…そんな母上に「ひどい」などと。母上が優しいからこそ、あんな風に言ったことがわからないなどと!

 それにあの女に惚れてるとかいう馬鹿共もそうだ。母上に向かって偉そうに…! 母上にあのような態度をとるなど、許される事ではない。

 母上、母上、母上―――…ああ、心優しい母上は「ひどい」などと言われて傷ついてはいないだろうか。それを思うだけで私はどうしようもなく憤りを感じてしまう。

 「………ルシア、怖い顔しすぎ」

 「何を言うか。当たり前でしょう。あの慈愛の女神といってもおかしくはないような心優しい母上をあの娘は侮辱したのです。あぁああ、優しい母上のお言葉にあのような反応をするなど…! 母上がどのように悲しまれる事か!!」

 「…いやー、本当相変わらずすぎるな、ルシアは。まぁ、確かにリナーシャ様に対するあの態度はどうかと思うが」

 当たり前です、と私は隣に立つ友人ディルダン・シューペストを見た。

 まったく、ディルダンは母上の良さをこの私の五十分の一程度しか理解していないのでしょう。母上の素晴らしさを私を同じほどに理解しているのならば、あれほど母上に無礼を働いた存在に対し、憤りを感じないわけがなのです。

 「そもそも何でしょう、あのようなふざけた態度をする娘に一国の王とも言える存在が惚れこむなど……、王族としての自覚がないの一言に尽きる」

 母上をおろそかにしていた父上でさえもそのような愚かな行いはしない事だろう。父上の女にだらしない点や母上を一時期蔑ろにしていた事実は尊敬出来ないし、正直父上には怒りを感じる。

 だけれどもそれ以外の点においては私は父上のことを尊敬している。

 父上も母上も王族としての自覚をきっちり持っている。自分の行動がどのように周りに影響するか考えている。父上は少し考え足らずな部分もあるだろうが、最悪の事態になる前には気付く人だ。そもそも父上がもし仮に愚王と呼ばれるような行いをしようとすれば母上が全力を持って止めるだろうから、そのような心配はない。

 そもそも父上は王としての能力は高い。女にだらしないのが欠点だが、後はほぼ完璧と言えるのが父上だ。国を纏めあげるだけの能力を父上は持っている。

 私もそういう面に関しては父上のようになりたいとは思っている。正直父上よりそういうことが出来ないのが悔しい。いつか母上に父上よりも王として有能だと言われたい! というのが私の夢だ。

 「まぁ、他国の重役の前であの態度はないよな」

 「そうです。無礼にもほどがあります。まだ身内だけの集まりならともかく、正式な他国との交流の中であのような態度をとる者を寵愛するなど…、馬鹿げているにもほどがあります」

 「そうだな。しかしお前がまともな事言うと何か不思議だ」

 ディルダンが何だか失礼な事を言っているが、とりあえずそれは無視だ。

 それにしても本当にあの少女は無礼だ。そしてあの少女に惚れこむ者は愚かだ。考えなしだ。自分の立場を理解できていないからこそ、ああなのだと思う。

 権力者が一人の人間にいれ込むのは色々な意味で危険が伴うのだ。何れ国王になる身として教育された私はそのことを理解している。

 権力者の特別な人というだけで利用価値がある。本人にその気がなくても利用される可能性があるのだ。暗殺される可能性もあるからそれに対する対処もしなければならない。

 そして王族貴族に嫁ぐというならば、それなりの上級社会の常識も必要となる。貴族達にとって当たり前のことを出来なかったり、知らないという事はその家を貶めることにもなる。

 平民がそういう存在に嫁ぐのは大変なことだ。苦労することを理解して嫁ぐ事は悪いこととは思わない。平民でありながら貴族と結婚し、努力をした結果貴族の一員としてしっかり認められ、味方を作っている人を私は知っているから。とはいってもそういう階級の結婚は同じ階級のものである方がいい。

 上級社会の危険性を貴族の女は知っている。生まれながらの貴族はそういう教育を受けているからこそ、暗殺などにも対処できる。釣り合う階級の人間同士がくっつくのならば文句を言う周りも少ない。

 母上は王妃になるのに相応しい家柄と教養を持ち、人にあれだけ好かれる方だったからこそ母上が王妃になった時文句を言う輩は数えられるだけしかいなかったという。最もそれは当たり前である。あれだけ素晴らしい母上に文句を言う奴など私は信じられない。母上は素晴らしい方なのだから!!

 と、それはともかくあの異世界から来たという少女は明らかに「足りてない」。異世界から来たというのもあって、この世界の常識がない。それでいて学ぶ気がない。人を疑うといった様子を知らないようであったし、身分社会を理解していないのではないかと思うほどに大国の王妃である母上に対し無礼だった。正直、あの少女を『王妃』なんてものにしたら国が傾く。そういう少女を愛している時点で、論外だ。

 そもそも身分や人柄的に考えて彼女は『王妃』にはなれない。貴族の養子になって教育を受けるならば別だが、まともな貴族ならあんな少女を養子に迎えようとは思わないだろうし、王妃になんてなってほしいなどと願わない。

 そんな少女を一夫一妻の決まりのある国の王まで愛していて、婚約者がいるのにも関わらずそれを破棄しそうな勢いだというのは…、正直何とも言えない。

 「ルシアはあいつらどうしたいんだ?」

 「私としては放っておいて、勝手に滅んでくれても構わないんですが、優しい母上はそうなれば悲しむでしょう」

 そう、優しい母上はきっと悲しむ。

 正直私はあの連中に対して怒りしか感じないため、勝手に自滅しろと思って仕方ない。でも母上が悲しむのは嫌なのだ。

 母上の笑顔は見ていて安心する。

 優しい笑みを向けられているだけで幸せな気持ちになる。

 そんな母上の顔をくもらせたくない。

 「ま、陛下と相談しながら対処するのが一番だろう」

 「…そうですね。とりあえず父上の元へ行きましょう」

 私はそういって頷くと、ディルダンを連れて父上の元へ向かうのだった。



 出来うる限りのことはするけれども、どうしても無理そうなら私は愚かなあの少女達に容赦する気はない。




ディルダンはメイアの後の結婚相手です。


マザコンもたまには真面目に考えます。

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