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トリップ少女がやってきた(リナーシャ編)


遊び心で、色々な人目線からトリップ少女を見てもらおうと思ったので最初はリナーシャ目線で行きます。

 今日はこの国に異世界から来たという少女がやってくる。一週間城に滞在する予定なのはいいのだけれども、その子に惚れた殿方達もこぞってこの国にやってくるそうらしいのですわ。

 王族も居ると聞いていたのだけれども、政務は大丈夫なのかしらと少し心配になったわ。

 私も王妃っていう地位にあるからわかるけれど、王や王妃はただ象徴としてそこにあるだけが仕事ではないわ。側妃は王の妃の一人ってだけで仕事はないわけだけど、国のためにやらなきゃいけない事が王や王妃にはあるの。

 私も社交界や国の行事にも顔を出しているし、孤児院を訪問したり、政務をしたり色々しているわ。

 大丈夫なのかしらね、少し心配になる。

 異世界からいらした方は多くの方に好意を寄せられているわけであって、色々大変な思いもしているでしょう。ならば、その少女を笑顔で迎えようかしら。それに女の友人がその方には現状出来ていないと聞きました。嫉妬されてしまって中々、友好関係を築けないのだと。ならば、お友達になってあげたい。

 きっと知り合いの誰も居ない世界にやってきたのだから、不安でしょうから。まだ15,6歳の幼い少女がいきなり知らない場所に放り出されるなんて恐怖以外の何でもありませんし。

 私も公爵家の娘として後宮入りした時、ドキドキしていたものですわ。すぐにヒナサ様達と仲良くなる事ができて安心した事ですが。

 情報では彼女が一般市民の出だと聞きました。

 それなら尚更大変な思いをしていると思うのです。この国でも平民出で、貴族に見初められて夫人となった方は大変な苦労をしているものだもの。異世界からやってきて、貴族や王族と暮らすというのは想像も出来ないほど大変だと思うの。

 「皆さん、異世界の方を歓迎しましょう」

 到着する前に、陛下やカインやヒナサ様達に告げれば皆笑ってくれました。

 私が後宮に上がった頃は、陰謀めいたものも少なからずあったものですわ。今もないわけではありませんが、皆さんが優しい方ですから、後宮は平和ですもの。

 










 「はじめまして。神崎結カンザキユイ、この世界ではユイ・カンザキです!」

 異世界からやってきた少女は可愛らしい方でした。黒髪に黒眼というあまり見ない色を持っていて、愛らしいと言える顔立ちをしている。身につけているのは桃色のドレスで、16歳という年齢よりも少し幼く見える彼女には凄く似合っている。

 「ええ。はじめましてですわね。私はこの国の王妃であるリナーシャ・ルナベルクといいますわ。よろしくしてくださいませ。ユイ様」

 彼女は仮にも色んな国に賓客として扱われていますし、此処は公の場でありますから私は礼儀正しくそう告げました。最も身分でいったら王妃である私の方が上ですから少しぐらい態度が酷くても誰もとがめないでしょうが、ユイ様はお客様ですもの。

 でもルシアは何だか表情を硬くしてます。多分『母上になんと無礼な』とでも思っているのでしょう。異世界人でこの世界の常識を知らないんだから大目に見てあげなさい。というより、本当に母親離れしてほしいものだわ。

 全く仕方のない子ね、そう思いながらルシアに視線を向ければルシアは私の視線に気付いたようで、私を見て先ほどまでの不機嫌な顔は何なのだろうと思うほどの笑みを浮かべました。

 …それを同年代の女の子に向けなさい。

 何度も何度もそう思ったものの、ルシアは正直この子一生恋愛できないんじゃないかと思うほど女に興味がないのだ。

 女に惑わされないというのは、王としてはいいかもしれないが…、正直母親としては大切な人ぐらい作ってほしいものね。

 「リナーシャさんですね! 私の事はユイでいいですよ」

 無邪気に微笑み、私に答えたユイ様は貴族社会を知らない無垢な子なのでしょうと思いました。身分が上の方への対応を知らないのかもしれません。

 此処は公的な場であり、国同士の交流の場でもあります。親しいものだけが居るならそれでもいいかもしれませんが、ユイ様の話し方は問題でした。それを相手の国の方々が咎める気がないのを見る限り、ユイ様はこの世界の礼儀を教えられてはいないのでしょう。

 これは周りのユイ様への接し方が悪いのかもしれません。

 「ユイ様、私的な場ではともかく此処は公的な場なのです。ですから、申し訳ないのですけれども呼び捨てにはできませんわ」

 私は微笑んだままそういってユイ様に続けました。

 「ユイ様はこの世界に来て王族貴族との付き合い方を教えられていないんでしょう? でもそれでは言い訳として通じない時もありますの。この場ではユイ様の境遇に免じて私がユイ様の非礼を許しますわ。でもユイ様の態度を無礼と感じる方も王族貴族にはおそらく居るでしょう。

 ユイ様が一般市民として生きるならそれでいいのですけれども、貴方の周りに居る殿方と共に居たいと望むのでしたらこの世界の事をもう少し学ぶべきだと思うのです」 

 王族貴族にはプライドの高い方も多くいらっしゃいます。そんな方々は、もし平民に無礼な口を聞かれれば激怒する事でしょう。幾らこの世界を知らないとはいっても、それでは通じない時があるのです。

 私の言葉にユイ様はきょとんとした顔をしなさいました。

 その後、言葉の意味を理解したのか、彼女は泣きそうに顔をゆがめます。私は何か泣かせるような事をいったのでしょうか…? 公式の場で感情をそんな風に露わにすることにも、何故泣きそうになっているかもわからなくて私は戸惑いました。

 だって公式の場ではどれだけ怒りや悲しみがあろうともそれを隠すべきなのです。それさえもユイ様は教えられていないのかもしれません。

 「何で、そんな酷い事言うんですか…っ。リナーシャさんも…っ、私は皆と一緒に居たいだけなのにっ」

 瞳に涙をためて私を見上げる彼女に私は困りました。ユイ様の後ろで取り繕う事もせずにこちらを睨みつけてくる方々も王族貴族としての自覚がないのでしょうか…。

 恋は人を変えるとも言いますが、このような態度をし、ユイ様を必要以上に甘やかす事はいけません。

 王族たるもの、恋の一つや二つで国を傾けてはならないのです。

 ユイ様がいきなり公的な場で泣きだした事に、ルナベルク王国の重役や侍女たちは怪訝な顔をしています。

 ユイ様に惚れた方々についてきた護衛の騎士や侍女たちは顔を青ざめさせてこちらをちらちらと見ています。何故でしょう?

 そう思ってちらりと後ろに控えていたルシアを見れば、それはもう恐ろしいものでした。笑顔なのですが、笑ってないのですわ。…困ったわ。ルシアが本気で怒っているわ。

 「ユイにそのような事を言うなど…っ、許さない」

 「あら、私が何か間違った事を言ったでしょうか? 私は王族貴族の殿方と一緒に居たいのならば最低限の礼儀作法を学ぶべきだという当たり前の事を言っただけですのに」

 王族貴族の方と付きあっていきたいなら、礼儀作法がなければ駄目なのだ。非礼な少女を傍に置いているというだけでその人物の周りからの評価は下がるだろう。

 ユイ様は「皆と一緒に居たい」と言ったが、一緒に居たいなら尚更礼儀作法を学ぶべきである。

 もしかしたらユイ様の世界ではユイ様ぐらいの年齢は子供なのかもしれない。

 この世界にきて甘やかされ、自分らしくいる事が当たり前だとユイ様は思っていたのかもしれません。それは決して王族貴族と関わるなら『当たり前』にしてはいけない事だというのに。

 「…いくらルナベルク王国の王妃だろうと」

 「何だと言うのですか。母上は何も間違ったことを言ってはいません。母上はその女のためを思っていっているのですよ? それをそんな風に言うならそちらこそ、我が国に、いえ、母上にそのような事を言ってただで済むと思っているのですか?」

 あら…、ルシアが本気で怒ってそんな事を言い出してしまったわ。困ったわ。いざこざなんて起こってほしくないのに。

 「そんな…っ」

 「ルシア、そんなにキツイいい方をするのはやめなさい。ユイ様。何も私もルシアも貴方を嫌ってこんな事を言っているわけではないですわ」

 また泣きだしそうな顔をするユイ様に私は諭すように言う。

 「この世界は貴方様のいた世界とは違いますの。公的な場できちんとした対応をしなければ貴方と一緒に居る方も貶められる事になるのですわ」

 「……」

 ユイ様は私の言葉に無言ですの。

 「貶められても貴方が構わないと言うならばそのままでも構いませんわ。それでも貴方のためにも、周りに居る方々のために礼儀作法を学ぶべきですわ」

 私はそれだけいって、こちらに注目している方々に向かって笑って言う。

 「ユイ様はまだこの世界について知らないのですわ。ですから、皆様、この私の名においてこの場ではユイ様の非礼を許してくださいませ」

 私のそんな言葉にユイ様は戸惑った顔を浮かべていましたわ。

 これから礼儀作法を学ぶか学ばないかはユイ様次第ですわ。



 どうかユイ様がきちんとした王族貴族との付き合い方を学んでくださればいいのですけれども。





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