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小話11 トリップ少女がやってくる直前の王太子と国王(ルシアside)

トリップ少女がルナベルク王国にやってくる前の二人。

 私は王太子として、優しくも麗しい母上を蔑ろにしていた父上に普段仕事を教わっている。あんな父上でも王としては優秀なのだ。

 今は母上の元に通っておられるらしいが、とはいっても私としてはやはり母上を悲しませた父上の事は完璧には許せない。そうメイアにいえば、思いっきり呆れた顔をされ、私は憤慨してしまった。母上を悲しませる存在は誰であっても許されるべきではないうのに、母上は何てお優しい方なのだろうか。慈愛の女神とも言えるべく優しさを持ち合わせていると私は断言できる。

 本日も、母上に「仲良くするのよ」と言われ、怒れる心を静めて父上とカインと執務室に居た。

 父上は外見だけは素晴らしく良い。母上と並ぶと外見だけならぴったりだ。でも、父上は中身があの素晴らしき母上には釣り合ってないと私は思う。

 私の金色の髪は母上譲りで、淡いグレーの瞳は父上譲りだ。目も母上譲りの方がよかった。

 「…ルシア」

 執務を教えてもらっている最中に、私は父上に名前を呼ばれた。

 「何でしょうか」

 「今度、異世界から来たという少女がこの王宮にやってくる」

 「そうなんですか。噂では多くの男達を魅了していると聞きますが。はっ、まさか、あの美しい母上が慈愛深くも父上の所業を許して下さっているというのに異世界からやってきた少女に興味をお持ちだとでもいうのですか! もし父上が麗しい母上を悲しませるような事をなさるというなら私は――」

 「待て待て待て! 俺は一言もそんな事言ってないだろ」

 男を魅了しているという少女に女好きである父上(この時点であの女神にも等しい母上には釣り合わない)が惚れない可能性はないとは言えないだろうと思って言った言葉は慌てて否定された。

 もし母上を悲しませるような真似をするようならどうとでもしようと思っていたのだが、残念だ。父上とよりを戻して母上が幸せなのはいいことだが、母上が父上と二人の時間を作っている間に私が母上に会えないのは嫌なのだ。

 「殿下、陛下はそのような思いは一切ないと思いますから、安心していいですよ」

 そういいながらカインは、ため息交じりに呆れた様子だ。何故、母上を悲しませたくないと思っている私が呆れられなければならないのか甚だ疑問である。

 「しかし父上は女好きであって、あの美しい母上を放置するような愚か者で――」

 「…ルシア。俺は惚れるつもりは全くない。ただ、歳が近い若者が特に落ちていると聞くから注意するようにと言っているんだ」

 「な、まさか私がそのような方に惚れるとでも? 私は母上のような方以外に惚れる予定はありません。聞けば、その娘の争奪戦で色々大変だといいます。私の敬愛する母上は周りに迷惑をかけるようにはしません。母上ならばもし殿方達に惚れられていたとしてもうまくやって周りに迷惑はかけないでしょう。よって母上のように出来ないような娘に私が惚れる理由はありません」

 父上には呆れるものである。幾ら男を魅了している娘とはいっても、私にとっての理想は母上であってそれ以外はどうでもいい。母上は至高の存在であり、母上以上に素晴らしい方などこの世にはいないのだ。私の理想である母上のような女がこの先現れるでもしない限り私は一生恋というものを知らずに生きるのだと思う。

 いつか母上のような女性が目の前に現れないかと私はいつも思う。

 「……そうか。まぁ、ルシアは安全だな。他の国では色々本当に大変らしい。その異世界から来た少女は女達にも狙われていると聞く」

 「ふん、所詮その程度でしょう。男達を魅了するだけです。私の母上は殿方はもちろん、夫人方からも人気があり、信頼を得ているのですよ! 幾らその娘が素晴らしかったとしても結局母上の素晴らしさには勝る事はできないのです。そもそもこの王宮で暗殺まがいの事をしようとしても出来ないでしょう。母上が望まない事ですから、全力を持って周りが決行される前に止める事でしょう」

 実際、母上に危害を加えようなどという愚かものは事前に周りに対処されている。国の暗部の人間達だって母上への敬愛を持っており、仕事ではなくても城内で何かが起こらないようにと全力を尽くしている。

 全ては母上が争い事を望まないからというその心があるからこそ、私も含めて周りがそういう事が起こらないようにしているのだ。母上は心優しく、きっとその異世界から来た娘の現状にも嘆いている事でしょう。ああ、何て母上は慈愛深い事か! 

 「その通りだが、何が起こるかはわからないだろう。気を抜くなという事だ」

 「わかっています。ところで」

 「何だ」

 「もちろん、その異世界の少女とそれに惚れている男達が来る際の母上に対する警備はきちんと配置するようにしているのでしょうね?」

 「ああ。皆がリナーシャの警備につきたいと申し出てきて、寧ろ困ったぐらいだ」

 「流石母上です!」

 母上の人望の厚さはとても真似出来ないものだ。寧ろ人望に関しては王である父上よりも母上は高いと言える。

 そうやって話していれば、

 「…殿下も陛下も、お話はそれぐらいにして仕事をしてください」

 カインにそう言われた。

 それから私は必死に執務を終わらせて、母上に会いに行くのであった。



 

ルナベルク王国は今日も平和です。

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