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そのさん

 三人は再びお宝を目指して、山中の道なき道をまいしんしていた。

 足元は相も変わらず雑草だらけ。とはいうものの、この辺にあるのは足首の高さくらいまでだ。

 背の高い木々が日光を遮っているせいで、これ以上成長できないのだろう。

 いままでよりだいぶ辺りが暗くなったが、まだまだ問題はない範囲だ。

 もっとも、猫又のヒナノは夜目もきくのでその辺はまったく問題なかったりするのだが。

 とまあ、そんな前置きはどうでもいいとして、小豆洗いのタイゾウさんに道を教えてもらった三人であるのだが、再び問題が発生していた。



 ――――きゅるりぃ〰〰〰〰。



「お腹減ったのにゃ……」

 つまり、ヒナノのお腹が限界まで達してしまったのである。

 もともと今日はなにも食べていないのに、お団子は没収され、人間から地図をもらうのに力を使ってしまい、その上険しい山道をずっと水を飲んだだけで歩き続けているので、当然と言えば当然の結果である。

 しかも、問題はそれだけではない。

 ――――ぐるぅ〰〰〰〰。

 ヒナノの腹の虫に釣られて、シャオの腹の虫も鳴き始める始末。

 しかも、ちゃんと高音と低音に別れている。ヒナノが高音担当で、シャオが低音担当だ。

「タマー、茶菓子とかないのか?」

「シャオちゃん、私お茶しかだせないからねぇ。それも熱いのしかぁ」

 タマミドリはシャオからの無茶な要求を聞き流しつつ、はぁぁ、と重いため息をついた。

 相も変わらず、気苦労の絶えない付喪神である。

「お腹すいたお腹すいたなんか食わせろー!」

「ヒナノもお腹すいたにゃぁ……。タマァ、なんとかして欲しいにゃ」

 二人の駄々に合わせて、腹の虫もぐぅ〰っ空腹を訴える。

 なんとかしろと言われても、果物みたいな木の実やなんかも見えないし、野草なんかは苦くてとても食べられないだろうし、どうしたものか。

 タマミドリは再び、う〰んと考え始める。

 シャオはともかく、ヒナノの方はけっこう重症だ。いつも元気なヒナノに、元気の『げ』の字が欠片も見られないのだから。

 それにこのままだと、タマミドリ自身のお腹の虫も、二人に釣られて鳴き出しそうだ。それはちょっと、女の子として恥ずかしい。

 なにもいい案が浮かばないまま(浮かびようもないのだが)歩いていると、三人の視界に今までとは違う景色が飛び込んできた。

「家があるぜ」

「そんなの見ればわかるにゃ」

 シャオの率直な感想を、ヒナノがばっさり切り捨てる。

 三人の視界に飛び込んできたのは、こじんまりとした木造平屋建ての家だ。

 建てられてからけっこうな時間が経っているらしく、木材は渋い焦げ茶色の趣深い色合いになっている。

 まあそんなことは、今この時に限っては二の次だ。

「それよりも、ヒナノはあっちの方に興味があるにゃ」

 今大切なのは、その家の隣にある畑の方である。

 家と同じくこじんまりとした畑であるが、そこには食べられるものが植えられているはずだ。

 すでにヒナノの目は、畑に狙いを定めていた。正確には、畑に植えられた食べ物(推測)を。

「ヒナノちゃん、黙って取ったら泥棒になっちゃうよぉ」

 人間から盗みを働くことはカウントに入らないようだ。

 もっとも、ここの家の住人が妖怪である確証もないのだが。

「もう無理なのにゃ、これ以上我慢できないのにゃあ!」

 ヒナノはタマミドリの制止をふりきり、もとい聞き流して畑へと駆け出した。

 猫又だけあって、シャオやタマミドリではまったく追いつかない。

「待ってくれヒナノ、あたしも行くぜー!」

 ヒナノに続き、シャオも畑に向かって走り出す。

「シャ、シャオちゃんまでぇ」

 二人に遅れてタマミドリも走り出すのだが、シャオの半分以下の速度では追い付くはずもなく、完全に置いてけぼりをくらってしまった。

 そもそも、タマミドリはヒナノやシャオと違って運動全般が苦手なのだ。ようやく追い付いた時にはすでに、ヒナノとシャオは畑の中で食べられそうな物を探していた。

 それを止めようとするタマミドリなのだが、息が切れて思うように声が出せない。その間にもヒナノは緑色の細長い実を見つけると、それを一つとって眺めた。よほど空腹なのか、目がキラキラと輝いている。

 そういえば、猫又って野菜関係のもの食べでも大丈夫だっただろうか。

 とかタマミドリが考えている内に、

「いただきますなのにゃ!」「ごちになるぜ!」

 二人そろって緑色の細長い実をぱくり。

 幸せそうに頬を緩めながらもぐもぐと口を動かす。が、幸せそうだったのは最初だけだった。

「苦っ!」「おえっ!」

 字面の如く、苦虫を噛み潰したような顔になった二人は、更にげっそりとした表情になってタマミドリに振り返る。

 タマミドリは二人がかじった残りを手にとって、じっと見つめた。

「大豆みたいですねぇ」

 もっとも、まだ枝豆と呼ばれる状態であるが。

 枝豆の苦味は、まだまだ二人には早かったようである。

 今度は口の中の苦味を洗い流すために、再び水を探し始めた。

 と、畑からは見えなかった家の陰に、井戸を発見。脱兎ならぬ脱猫の姿そのままに駆けだした。

 すると、

「あの、あなた達、ここでいったいなにをしてるんでしょうか……?」

 枯れ草色の着物に身を包んだ少年が、顔の真ん中に一つだけある目で三人の方を見つめていた。



     ●



 三人は一つ目の少年に促されるままに、例の趣深い家の中へと招待された。

 家の外側同様、中もかなり年季が入っているのがわかる。

 その木の渋い色合いが、なぜか心を落ち着かせてくれるのだ。現に、さっきまで苦い苦いと言っていたヒナノも、ピタリと黙っているのを見れば、どれほど落ち着くかわかるだろう。

 まあ、あまり放置しておくとそのまま寝てしまいそうなので、適度に相手をしてやらねばならないのだが。

「えっと、ヒナノさんに、シャオさんに、タマミドリさんですね」

 三人は竹の杯に注がれた井戸水をちびちびと飲みながら、それぞれ自己紹介をした。

 タマミドリの目が光っているのもあったて、ヒナノもシャオも“好きなもの”を言い出すようなことはない。

「はぃ。それと遅くなってしまいましたが、畑のものに勝手に手を出しちゃって、すいませんでした」

「すいませんでした」

「ごめんなさいにゃ」

「そのことなら大丈夫ですよ。全然気にしてませんから」

 一つ目の少年は、突きだした両手ぷるぷる振って見せる。見た目な振る舞いから見てわかるように、非常に気の小さい少年のようだ。

 ヒナノたちより二回りほど体が大きいのもあって、ちょっと可愛い。

「僕は、豆腐小僧のヨサクです。よろしくです」

 一つ目の少年は、豆腐小僧のようである。つまり、外の大豆は豆腐の原料なのだろう。

 大豆は一年草なので、年中豆腐を作っているのかもしれない。

「ところで、ヒナノさんとシャオさんとタマミドリさんは、どうしてこんな場所に?」

 もちろんそこで、『お宝探しです』とは言えるはずもない。

 ヒナノはぬお〰と頭を悩ませ、シャオはほけ〰となにも考えず、タマミドリは済ました顔で水を飲んでいる。

 居心地よすぎて夢見心地なシャオを通り過ぎて、ヒナノの視線がタマミドリの側面に突き刺さった。

 だが、すでに答えを用意しているタマミドリには、まったくの余裕である。

 タマミドリは竹の杯を床に置くと、袖から再び例の古ぼけた地図を取り出した。

「実は私たち、宝探しごっこをしてるんですよ」

「『宝探しごっこ』……ですか?」

 いきなり『宝探し』という単語がでたことにびっくりするヒナノとシャオであるが、こういう難しいのは全部ヒナノの担当である。二人はもう少しヒナノを見守ることにした。

「はい。ヒナノちゃんのお父様が、ヒナノちゃんがこの前良いことをしたご褒美にって。それと、私たちの遊びにも付き合ってくれて。今は、そのご褒美を探している所なんです」

 と、口からでまかせをぽんぽんとはくタマミドリ。悪びれた様子が一切ないせいか、妙な説得力があった。

 断っておくが、最近のヒナノは連日悪戯ばかりで、いいことなんてこれっぽっちもしていない。

 ヒナノが良いこと? と夢見心地の世界から帰ってきたシャオは、隣のヒナノに目をやると……。案の定いたたまれなくなって目をそらした。

 一応、悪いことをしている自覚はあるだ。

「なんだか、面白そうな遊びですね。ぼくはここの畑を手入れしないといけないので、一緒にはいけませんが。見つかるといいですね、ご褒美」

 と、ヨサクは一つだけの目で素敵な笑顔を披露してくれた。

 なんだか普段ヒナノとシャオに振り回されてばかりで気を使ってもらえないタマミドリには、後光が見えるほど尊い存在に見えた。できることなら、そのままお友達になりたいくらいである。

「はい。それで、この×印の所に行きたいんですが、ここからどっちに向かって行ったらいいんでしょうか?」

 ヨサクはその場で地図を何度かくるくる回し、五周くらいした所でうんとうなずく。

「地図がこの向きになるはずですから、あっちですね」

 ヨサクは窓の方を指差した。どうやら、山の傾斜に沿って下っていくようである。

「それじゃあ、私たちはこれ……」

 ぐぐぐぅ〰〰〰〰。

「お、お腹減ったのにゃ」

 ゴロゴロゴロ…………。

「すっかり忘れてたぜ」

 タマミドリが席を立とうとした時、ヒナノとそれに釣られてシャオのお腹が空腹を訴えた。

「ひややっこでいなら、食べていきますか?」

 お言葉に甘えて、三人はヨサク特製の豆腐をいただくことにした。



     ●



 美味しい豆腐を頂いた三人は、ヨサクにお礼とお別れを言って趣深い家を後にした。

 来る時と違って下り坂になっているので、比較的楽な道のりである。

 ただ、分厚い雲が増えてきたのもあって、少し肌寒くなってきた。

 そして寒くなってくると、元気になる子が一人。

「むっふっふー。元気全開だぜ!」

 ついでに元気じゃなくなる子も一人。

「っくしゅっ!」

 大きなくしゃみと同時に、ヒナノはずずーっと鼻をすすった。

「ヒナノちゃん、大丈夫ぅ?」

 タマミドリは先頭で震えているヒナノに声をかける。活発な子であるヒナノであるが、寒いのはすごおく苦手なのだ。

 今年の始めに雪の降った日なんかは、囲炉裏の前から一ミリたりとも動こうとしなかったこともある。逆にシャオは雪が降るとやたら元気になるので、相手をしたタマミドリの苦労も十割増しであった。

「タマァ、寒いのにゃ」

「わ、私に言われてもぉ」

 ちょっと考えてみたが、熱いお茶を湯たんぽ代わりにするくらいしか思いつかない。

 と、伝えると、

「そ、それでいいにゃ……」

「いいけど、割っちゃだめだからねぇ」

 タマミドリは、湯呑の中に熱いお茶を出してヒナノに渡す。念のために言っておくが、本体は湯呑の方である。

「はにゃあ……。あったかいにゃあ」

 まさに、地獄に仏とはこのことか。

 ヒナノはタマミドリの方に向き直ると、一礼してまたまた拝み始めたのだった。ありがたやありがたや。

「だらしないぜヒナノ。少しはあたしを見習うんだぜ!」

 これ以上バカになられても困るので、タマミドリとしてはぜひ止めていただきたい。

 ただでさえボケてばかりのシャオなのだ。少しではあるがそのボケをさばいてくれるヒナノまで完全にぼけられては、タマミドリ一人ではツッコミきれない。

「それだけは全力でお断りするのにゃ」

「うん、そうしてぇ」

 心の底からそう願うタマミドリなのであった。

 すると、

「冷たぃ」

 タマミドリの鼻先に、水滴がぴちゃりと当たった。

「雨だにゃ!」

 ヒナノのその言葉を合図にしたかのように、ざざーと雨が降り出した。

「や、ややややばい!」

 寒いだけなら大歓迎なシャオであるが、雨が降ってくるとちょっと違ってくる。

 雨に当たれば溶けてしまうのだ。雪ん子だけに。

「走れ! 走るのだ!」

 その前に、どこに向かって走るのか教えてもらいたい。

 取り乱したシャオは、行き先も決まらないままいきなり走り出した。

「シャオー!」

「シャオちゃん、どこに行くのぉ……!」

 ヒナノとタマミドリも、シャオを追って走り出す。

 雨に濡れるのがよほど嫌らしく、もう無我夢中といった様子だ。なんかもう、点に見えるくらい遠くまで行っている。

「ヒナノちゃん、落とさないで、ね」

「わ、わかってるの、にゃ」

 タマミドリは、湯呑を持ったまま走っているヒナノに声をかけた。

 雨のせいで地面が滑りやすくなっているのだ。本体の湯呑を落とされては、たまったものではない。

「タマァ」

「な、なにぃ?」

 ヒナノに呼ばれて振り向くタマミドリ。

「シャオが見えないのにゃ」

「はぁ、はぁ、えぇっ!?」

 再び前を見ると、シャオの姿がどこにも見えなくなっていた。

 …………いつの間に。

「シャオ―――! どこだにゃ―――! くしゅんっ!?」

「シャオちゃ―――ん!」

 ――どこだにゃ―――、くしゅん、どこだにゃ―――、くしゅん……。

 ――ちゃ―――ん、ちゃ―――ん、ちゃ―――ん、ちゃ―――ん……。

 返ってきたのはシャオ返ことでなく、二人の木霊であった。

 まったく、あの雪ん子めどこに行ったのやら。

「シャオ―――!」

「シャオちゃ―――ん、どこ―――!」

 二回目の呼びかけ。

 すると、

「お―――い、こっちだぜ―――!」

 今度は返ことが返ってきた。

 ヒナノは耳をそばだてて、声のしてきた方向を探す。

「こっちだにゃ」

「うん」

 二人はシャオのもとへと急いだ。

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