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第5話 犯人登場

 男が私達を発見する。左右に動き回っていた目玉が動きを止める。停止する。口角は引くつき、ニタリと気味の悪い笑みとなる。

 男が一歩前に足を踏み出した。反対に私達は一歩下がる。同じ事を三度繰り返した時、

「キャハハハハハハハハハハ!!!!」

 甲高い笑い声を上げ、男が一気に駆けて来た。



「うわっ……!?」

 驚いて思わず固まった。その些細な一瞬の内に、

「あらら」

 と軽く笑って藍川が動いた。数歩右に。

 つまり、真正面に走ってくる男から藍川が避けた状態。男の走っている垂直線上にいるのは私だけ……って、おい!

「うわああっ!!」

 男が振りかざしたナイフを慌てて避ける。上から下へと綺麗に振り下ろされたナイフは、ギリギリ私の左手を掠めた程度で済んだ。


 そのまま右へ倒れ掛かった私は背後にいた藍川に受け止められる。

「大丈夫? 凪ちゃん」

「……自分だけ逃げといて何言ってんだ」

「だって怖いもん」

 語尾にハートマークやら星マークやらが付きそうな口調で言った藍川は、こんな状況でも笑っていた。

 勢いづいたまま地面に突き刺さってしまったナイフを引きずり出して、犯人はゆらりと立っていた。

「凪ちゃん。この人、あれ? 殺人事件の……刺殺犯」

「いや違うでしょ」

「え?」

 あ。しまった。

「っ、いやいや…………いやいやいや」

 私の台詞を聞いていた男が、ギロリと私を睨んで喋る。


「なぁーにが違うっていぃうんだよぉ……?」

 のったりとした、もったりとした、眠そうな喋り方。実際には眠いどころか怒っているようだけど。

「おれがぁ、はんにんじゃぁねえとか、何でお前が否定するんだぁ?」

 鬱陶しい喋り方に少しイラッとする。

「だって……そう、思うんですもん」

「何で」

 『何で』って言われても……。

「……思うだけ、です」

「だから、何で」

「思うからです」

「っだっかっら……! 何でだってきぃてんだろぉがよおおぉぉっ!!!?」

 怒った男の声が耳に障る。五月蝿うるさい。


 ガリガリと自分の頭皮を引っかく男。髪の毛が数本抜けても気にしてないようだ。そして、

「っっっっ…………はああ――――――――――――っぁ、ああぁ――――……ぁぁあぁあああ!!」

 重く長い溜息を付き、駄目な子だとても言いたげに私を睨む。

 男は自分の持っている銀色に輝くナイフを、見せ付けるかのように掲げた。

「お前はほんっとおぉぉうに分かってねえなぁ! ああそうさ、おれが犯人だ」

 …………嘘だな。

「このナイフで何人も刺してきた。血とか内臓とか露出させてよぉ? みぃんな、助けてくださいぃとかほざいて泣きやがって……無様だよなぁおい! な? そこの少年は分かるかよ?」

「いいえ、さっぱり」

 話を振られた藍川は、酷く退屈そうに視線を外して答えた。

 男は露骨に舌打ちをし藍川を睨む。

「まあ、いい。どうせお前らにゃ、おれの美徳なんて分かんねぇんだからよぉ?」

 そしてゆっくりと、ナイフを握り直した。私たちの方に歩み寄る。


「…………」

「…………」

 私はチラリと、横に立っている藍川を見る。

 偶然か、藍川もちょうど私を見ていた。

 藍川を囮にしたら逃げられるかな?

 いや、無理だろうな。

 じゃあやっぱりするしかないか。


 二人同時に小さく溜息を付く。



 ……せっかく出来た、友達なのにな。



「死ぃねえええええぇぇぇぇぇぇえええ!!」

 男がナイフを振り上げた。



























「……え?」








 呆けたような、間抜けな声を出す。




 声を出したのは、私でも藍川でもなく、ナイフを持ったままの目の前の男で。




 男は私と藍川を見ていて。




 正確には、私と藍川の右手を見ていて。




 正確には、右手に握られている物を見ていて。




 私と藍川が、お互いの握っている物に目を向けて。




 それが、赤黒い血が薄っすらこびり付いている包丁で。




 それが、赤黒い血が薄っすらこびり付いている金鎚で。




 お互いに、『人を殺す為の道具』を持っていると理解して。





 そしてお互い、



「「え?」」




 驚いた。

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