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第3話 この街では

 と、そこへ一人の先生がやって来た。

 三十代後半の男性で、入学式なのにジャージ姿。体格は少しガッシリしている。

「――ほらお前ら、早く席着けー」

 先生の声に、全員が急いで自分の席に着く。私も三人に軽く手を振ってから席に着いた。

 全員が着席しているのを一目して確認すると、先生は口を開いた。

「今日からお前らの担任になる熊本くまもとつよしだ。担当教科は体育。俺はびしばしいくからなー。覚悟しとけよ」

 ニヤリと笑って言う熊本先生の言葉に、数人の生徒から「うわ……」などと声が漏れた。体育が苦手なのだろう。私も体育は苦手ではないが、好きというわけでもない。


 その後は熊本先生の指示によって、生徒一人一人の自己紹介をしたり、プリント類を配ったり、先生のお笑い話などで時間が過ぎた。そして最後に先生は、真面目な話をし始めた。

「……皆が知ってる通り、最近この街では殺人事件が起こっている」

 男子も女子も、その言葉に大小様々の反応を返す。無視をした人は一人もいなかった。





 私達の住む街、渚街。東京程の都会ではないがそれなりに発展している。それでいて綺麗な海も有名で、周りには山や森なども存在するので、都会と田舎が適度に混ざったような住みやすい土地だ。人口も大分多く、それなりに平和だった。だが街の一角では麻薬の取引や違法カジノ、ヤクザなどの噂もあったそうで。平和なのか平和じゃないのか、よく分からない。

 そして二年前、


 人が殺された。



 最初に殺されたのはとある女子中学生。左胸を深く刺されて死亡しているのが、ある公園で発見された。

 警察が捜査したが、彼女は学校で別の生徒を虐めていた主犯者である事、彼女は傲慢な性格の為周囲に嫌われていた事などが分かり、容疑者を絞り難くなってしまった。その上、殆ど廃れていた公園だったので、目撃者もおらず。未だに犯人を特定できていない。

 そしてその事件を切っ掛けに次々と人が殺された。


 一週間に四人、かと思えば二ヶ月に一人。死体は最初、刺殺だけだったけれど、そのうち撲殺や飛び降りや絞殺や焼殺や毒殺や変死体として増えて行った。

 二年前からのものもあれば、つい最近現れた殺害方法まで、様々。

 バラバラの期間とバラバラな死因。他の事件で忙しい警察は情報に惑わされ混乱。事件は解決の兆しを見せず、住民は不安に怯える毎日――といった状況だった。





「お前らももう子供じゃねえ。勝手な行動をしたり不審な人物を見つけたりしたら、急いで逃げろ。そして通報しろ。自分の身は自分で守れ」

 近くの席の男子が唾を飲む音が聞こえた。私は真剣に聞いているフリをしながら、必死に欠伸を噛み殺していた。

「今日はもう帰ることになっている。帰り道は気を付けろよ――藍川、帰りの号令を頼む」

 先生は名簿一番の藍川に目をやった。藍川の掛け声で皆が立ち上がり、礼をし、そして教室は賑やかになる。


 鞄にはそのまま物が入っているので、そのまま持つ。さて帰ろうとした時に茜がやって来た。

「凪! 途中まで一緒に帰らない? ――あ、藍川と圭介もっ!」

 鞄を手にしていた二人もやって来て、そして四人で帰ることにした。



 東北の方の桜は四月下旬に開花する。まだ可愛らしい桜の蕾の木々の下、私達四人は広い道を歩いていた。

 明日は何をするんだろうね、早く部活に入りたいな、そんな他愛も無い会話をする中で、一宮がふと呟いた。

「……ちょっと怖かったな。先生の話」

「ああ……殺人の?」

 藍川が尋ねると、一宮はこくりと頷く。

「人殺したりして何が楽しいんだろうねえ。皆分かるー?」

 茜の問いに、

「いやいや、殺したことないし」苦笑いで一宮が、

「どんな質問してるのさ三上さん」純粋に笑いながら藍川が、

「茜は分かるのかな?」ちょっとからかいながら私が言った。


「あははっ! 分かるわけ無いじゃん、怖いし」

 茜が腹を抱えて笑い、続けて言う。

「っていうか、犯人って複数? それとも一人?」


 横断歩道に出て、信号が青に変わるのを待つ。目の前を車が何台も通り過ぎて行った。


「んー……やっぱ複数じゃないか? 死因はバラバラなんだし」

「でも僕は一人だと思うな。たくさん武器持ってるとかさ」

「私も一人だと思う。いっぱい犯人いたら怖いじゃん」

「あたしは犯人、二人ぐらいじゃないかなーと思う」

 一宮と藍川、私と茜。それぞれ自分の意見を主張して雑談する。内容が内容だけに、近くで信号を待っていたおばさんが怪訝な顔をしていたが見なかったフリをした。

 青信号になり道路を渡る。近くに大きな和風の屋敷がある、左右に分かれた道に進んだところで、

「あ、じゃああたし家こっちだから」

「俺もここで分かれるわ。じゃあな」

 茜と一宮が右の道へと歩いて行った。手を振り別れを告げ、


「藍川って家どの辺?」

「本屋近くのマンションだよ」

「あ、じゃあ途中まで一緒だね」

 私は藍川と左の道に歩いて行った。

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