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ワンショットワンキル

その名の通り、ワンショット(一発の発射)でワンキル(一人倒す)する技術。又はその動作。

出来るだけ弾の消費が少なく、多くの人数を撃破できる。

特に、遠距離から単発を撃ち込むスナイパーにとっては欠かせない技術である。

最初に行ったのは優先的に倒すべき目標の選定だ。

優先は指揮官。続いて脅威になりそうな装備を持っている対象。

指揮官は中央にいる身なりがいいのだろう、多分。

脅威になりそうなのは短槍を持っている6体。あれは投擲に使える。射程は恐らく40m。

斧を持っているのも気になる。あれも一応投擲できる。それ以外は近接しなければ問題ない。

因みに、目の前にいる生物たちは犬の頭を持った二足歩行の生き物だ。こいつらの事は『犬頭』と呼ぶことにする。やや猫背気味、距離も200m程離れているので正確な身長はわからないが、おおむね人間と同じくらいの背丈だろう。よく見れば小柄な犬頭が何体かいる。子供だろうか?こちらに近づいてこようとしているのを回りに必死に止められているのを見て、何となくだが緊張感をそがれる。

「キュー!キュー!」「キー!キー!」「クー!クー!」

威嚇なのか鳴き声が聞こえる。槍や斧を手にして振っている様は、犬の顔のおかげで逆に可愛く思える。表情はまあ、距離が離れているので良くわからないが。

犬の前足みたいな手で器用に武器や道具を持っているのも可愛らしい。

まあそんなことを思いつつも観察を続けて、身体的特徴から照準するべきは人間と同じスナイパートライアングル(首と両乳首を結んだ三角形。人間ならば致命的部位)にする。自前の毛皮の上にポンチョのように別の毛皮を羽織っているがボディーアーマー的なものを実につけている様子はない。心臓か肺に傷をつければ短時間で継戦能力を奪えるだろう。

状況を考える。

背後は湖。逃げ場はまあ無い。投擲武器が無くなっても投石されるだけで十分脅威だ。湖を泳いで渡るのはあまり選択したくない。

距離は概ね200m。それ以上近寄ってこない理由は不明だ。だが、あの位置に陣取られていては身動きが取れない。

つまり、正面から切り抜けるしかない。

一番気をつけるのは投擲武器。遮蔽物が欲しい。今さっきの犬の死骸がある。これで代用できる。格闘戦になった時は・・・・まあ諦めよう。ランチェスターの方程式的に無理だ。ざっと見ただけで30体はいる。

さて、そこまで一瞬で判断して戦闘体勢を整える。

ダットサイトの照準を200mの位置に合わせる。ダイヤルの小気味良いクリック感が何とも小気味良い。

現在、64式には21発弾が込められている。1体1発で足りたとしても足りない。明らかに足りない。なので、予備弾倉を取り出す。弾が切れた瞬間に一瞬で交換して再装填するためだ。この状態ならば、けん銃を取り出して射撃するよりも早く64式で射撃できる。コンバットリロードというのだが、これなら7秒ほどで再射撃できそうだ。人によってはこれは遅いというだろう。7秒というのは長い。銃撃戦ならば特に。だが、64式の構造上それくらい再装填に時間がかかる。まあ、俺のやり慣れていないのもある。そもそも、64式でコンバットリロード自体が始めてやる。撃ち終わってから空になった弾倉を放り捨てながら再装填するというコンバットリロードという方法は物品愛護と安全基準にうるさい自衛隊には馴染みが浅い。

そして最後に、拾っておいたけん銃の空薬きょうを耳栓代わりに耳に突っ込む。

これ以上、耳鳴りが悪化してはたまらない。

まあ、そんなことを考えてる間に身体は勝手に動いて、犬の死骸に遮蔽物に使えるように近づき、しゃがみ、射撃姿勢をとる。

あとはまあ、優先順位に基づき無力化。投擲武器を持っている対象を無力化したら、英雄的行動をとろうとする対象を無力化して意欲をくじく。願うならば、そうなる前に逃げてくれればありがたい。弾の無駄だし大量殺戮はしたくない。

だが、そんな思いも全て打ち砕いてくれるようなことが起こる。

つい今さっき戦った巨大な犬みたいな生き物が木々をかき分けて現れる。

犬頭達は背後にいる巨体に気が付いていない。

だが、巨大な犬が一声吼えるとようやく気が付いた。

犬頭達は一瞬でパニックになった。一斉に逃げ出そうとする。指揮官が落ち着くように喚くが効果はない。ふむ、犬と犬頭の仲はあまり良くないようだ。

その証拠に犬が一声無くと腰を抜かしたように身動きが取れなくなった犬頭が何体もいた。その中の何体かは子供だと思った小柄な犬頭だ。

その結果を見て満足そうに小柄の犬頭に近づく犬。

だが、その歩みが止まる。

犬はこちらを向いた。

・・・・・・・。ようやく、同属の死骸に気が付いたか。

それを見てから優先順位を変更する。

犬のあの突進力と速度は脅威だ。別に、犬頭を助けようなどと思ったわけではない。まあ、そういうことにしよう。

精密に照準できるように犬の死骸から離れ地面に伏せながら、64式備え付けの2脚を立てる。うつ伏せで寝転がりながら、右手は64式のグリップを、左手はストックの根元を掴む。両足は適度に開き、チークパッドに頬を当て口は半開き。射撃姿勢完了。

それらを終えると深呼吸。8割吸ったところで呼吸を止める。

既に照準は犬の頭。右目の位置にダットサイトの光点は合わさっている。

右手の人差し指は既にトリガーにかかっている。ゆっくりと確実に引き絞る。

撃った。

肩に蹴飛ばされたような反動。土煙。芳しき硝煙の香り。

ダットサイトの越しに見える犬の頭付近でピンク色の煙が見えた。

犬の四肢が力を失ってがくりと崩れ落ちる。

そのまま監視を続ける。ピクリとも動かない。

さて、もう一方の犬頭はというと・・・・。

木々の合間からおっかなびっくり覗いている。

犬が死んだのをようやく認めたのか恐々木々の合間から出てきた。

腰を抜かした犬頭に手を貸したり、小柄な犬頭も親らしき犬頭と抱き合って生を喜ぶ姿はどう見ても人間のそれと変わらなかった。それを見て頬が緩むのを感じる。ちょっとした自己満足。やはり、人型に近い生き物とは戦いたくない。

荷物を拾い、注意がそがれている間に逃げようと思う。

耳から耳栓代わりの空薬きょうを抜く。

犬の死骸をちらりと見る。せっかく銃剣も研いで、貴重な蛋白源を手に入れることが出来ると思ったが仕方がない。今日は木の実でささやかな晩餐だ。

さて、では転進と思ったらまたもや囲まれていた。

ただし、今度は態度が全く異なっている。威嚇とかは無かった。

犬頭はほぼ全員無言で見つめいていた。

ただ、一匹だけ違った。

駆け寄ってくる。

結果的に今さっき助けた小柄な犬頭だ。武器等は持ってない。

尻尾を振り回し、こちらに飛び出してくる。危険は感じない。

危ないので念のために64式から銃剣は取り外して鞘に戻しておく。64式にも安全装置を掛けておいた。そのまま肩から吊るし背中に回す。

ただし、念のためにけん銃のホルスターのロックは外してすぐに引き抜けるようにしておく。

近寄ってくる犬頭は、身長60cm程度で大きめの犬の頭に茶色の短毛、耳は頭頂に2つ立っている。手には肉球付きの4指。足は人間と関節の構造が異なるようで歩き方が異なっていた。

ポンチョのように毛皮をまとい、装飾品は皮ひもで作ったと思わしき首飾り。

そんな犬頭が飛びついてきた。

俺をその小柄な身体で抱きしめてくる。身長が圧倒的に足りないので足までしか届いてない。

左手の手袋を外す。

耳を避けるように頭を撫でる。

・・・・・・・・・・・・・・癖になりそうなほど素晴らしい感触だ。

それをくすぐったそうに気持ち良さそうにしてる犬頭は実に愛らしい。

願わくば、彼らと友好的な立場になりたいものだ。少なくとも戦いたくはない。

そう思い、撫で続けた。

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