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デビルドッグ

WWⅠ時に敵であるドイツ軍により米海兵隊が名づけられたニックネーム。

無事に湖の湖畔に辿り着いたのだが・・・・色々と限界だった。

小便がしたい。

いや、今までもやろうと思えばいつでも出来たのだが、ついここまで来てしまった。

頭上に木があったので、あまりしたくなかったのだ。アンモニア臭に反応して、木からダニやヒルの類がアイキャンフライしてきたら厄介だったからだ。噛まれたら化膿して病気になる可能性がある。

かといって、湖に放水するのもどうかと思う。煮沸して飲むとは言え湖の水はメインの飲料水になる可能性がある。本当に追い詰められたらどんな意地汚い方法でも生き延びるが、今はこれくらい小さいことでもこだわって生きて行きたい。無駄を楽しむことが人生の醍醐味だろう?

まあ、それはともかく湖から少し離れた場所で放水を開始する。

ああ、素晴らしき開放感と思った瞬間、着弾(?)地点付近から蛇が這い出てくる。

・・・・・・・怒ってる。気持ちはわからんでもないが落ち着け。いや、落ち着いてください。

放水しつつ後ずさりする。開放感などもう無い。

それから十秒位、蛇の追跡から必死に逃げた。人生で最も長い時間だった。精神衛生によろしくない。

些細なことでも命取りになるサバイバル生活は実に過酷だ。


気を取り直し、湖に戻ってきた。

湖畔の岩に腰掛・・・・・もちろん蛇がいないか調べた後でだが、銃とリュックを下ろす。合計15kgの重荷が無くなると、羽が生えたように身体が軽くなったような錯覚を覚える。

小休止をとりつつ湖の周囲を観察する。

湖の大きさは300m四方程度、さほど大きくない。湖の周囲は丈の短い草が多めだ。増水時ここまで水が来るかもしれない。

水は綺麗だ。川の一部が広がって流れが緩やかになっているだけで、実際は湖ではないらしい。大き目の川魚はいないが小魚や小エビの類がいる。

水温は冷たい。暑い日に泳いだらさぞ気持ちがいいだろう。狩して得た獲物の温度を下げるのにも役に立ちそうだ。

64式のみ背負い、荷物を置いたまま湖畔の周辺を少し散歩する。砂地になっている場所は素晴らしいことを教えてくれた。この湖は様々な生き物の水場になっているようだ。

鳥、小型と大型の4つ足の動物の足跡がある。一部の足跡は何度も同じ場所を通っている。巡回ルートがあるようだ。

風下で隠れていれば狩ることが出来るだろう。ただ、どの時刻に水を飲みに来るかは調べないといけない。比較的楽に調べれる。射撃場の屋上でずっと監視していればいいだけだ。それで調べて場所を特定したらルートに罠を仕掛けても良いし、偽装した掩蔽豪を作って潜んでいても良い。

最後に、この湖の上流と下流を調べる。

上流も下流も残念ながら射撃場から離れる方角に向かっていた。この湖が一番近いらしい。

ただ、飲料水を入手するなら湖より上流側のほうが良いので、今回からそこで汲むことにする。湖自体が生物が生きているくらいに綺麗なのだ。ただ、さらに上流で自然死、或いは病死した生き物がいたり寄生虫を持った生き物が排泄行為を行っている可能性はゼロではない。煮沸すれば間違いなく、それらも問題無くなる。手間隙を惜しんで死んでしまっては意味が無い。

この湖は素晴らしい。水分の調達、蛋白質の調達はここで賄えそうだ。あとは、動物から摂取できなさそうな必須栄養素の類は、植物から賄う必要があるが食事にレパートリーが欲しいので色々と試してみるつもりだ。

その他にも、風呂は流石に難しいが水浴びや洗濯もできるだろう。植物を焼いて出来た灰か何かを洗剤に使っていたと聞く。色々と試行錯誤してみるのも面白いだろう。

さて、湖の偵察は大体終った。後は荷物を回収してRTB(Return To Base 基地への帰還を意味)だ。


だが、荷物の場所に戻ると、体長4mに達するような巨大な黒い犬みたいな生き物が荷物を嗅ぎ回っていた。荷物も重要だが、命のほうがもっと重要だ。最悪、荷物を放棄するつもりで、物音を立てないようにゆっくり後ずさりする。前側の足に体重をかけて、後ろ側の足で地面の状態を把握後に後ろに体重を移行するといったやり方だ。それとすっかり忘れていた。64式の安全装置を解除しレ・・・連射に合わせる。腰だめに構えていつでも発砲できるようにする。

50mは離れただろうか、荷物を小突き回すのに飽きたのか、あるいは俺の匂いで気が付いたのか巨大な犬はこちらに視線を送ってきた。動作を全て止める。石のように動かない。

生き物の中には動いている物には敏感だが、動いていない物は一切視界に入らないものがいる。中には色の識別が出来ないものがいるほどだ。

だが、巨大な犬は違うようだ。こちらを認識して近づいて来る。

普通、野生動物は慎重なはずだ。

人間みたいな2足歩行の一見大柄に見える生物には注意を払うか、逃げる。

好奇心が強い生き物でも、すぐには近づいてこない。

それでも近づくならば?餌として認識されているのだろうか?

これ以上近づかれるわけにはいかない。逃げても逆に興奮して追ってくる。追われたら最後、人間の足では一瞬で追いつかれて終わりだ。怯えを見せるわけにはいかない、威嚇で撃つことにする。

腰だめのまま、犬の至近を通過するように指きりで一発だけ撃つことにする。64式は連射速度が低めに抑えられている、連射でもコントロールが容易だ。

右手の人差し指を一瞬だけ動かす。64式が轟音をたて手の中で跳ねる。

銃声と弾が至近を通過した衝撃波音に犬は動きを止める。

こちらは左足を前に、右足を後ろに重心を下へ、左手は上部被筒(じょうぶひとう、ハンドガード上部)を上から押さえて反動に備える。右手はいつでも引き金を引ける。戦う準備は万端だ。

犬とにらみ合いが続く。周囲は静寂に包まれていたのか、ただ単に聞こえなかったのか・・・・。

犬が動いた。早い、向かってくる。

それに対して64式を放つ。アドレナリンの影響だろうか、反動はおろか銃声も聞こえない。

ただ、犬の胸部を中心に着弾するように64式をコントロールする。

数発撃っては引き金から人差し指を離して、また撃つ。

時間の経過がわからない。

64式の弾が切れた。引き金を引いても弾が出ないので気が付く。

犬は目の前に迫っていた。もう、無理だ。犬の自身の血にぬれて真っ赤な口、強大な犬歯に切り裂かれて終わりだろう。

だが、訓練の影響か生存本能だろうか、弾が切れたと思った瞬間に64式から手を離し・・・右手は下へ、左手は心臓の位置へと動いた。

右手が右腰を経由して目的の位置へ、親指がレッグホルスターのロックを解除し、人差し指を除く全指でソレを掴む。右手はそれを引き上げながら徐々に胸の前まで近づく。この段階で安全のために心臓の位置で待機させていた左手も動き出し、右手とソレにランデブーするために動いた。

ソレの名は9mmけん銃。・・・・身体は極度の緊張、興奮状態でも動いてくれた。気が付けば両手に包み込むように、目の前に拳銃を構えていた。

胸部ではライフル弾でも効果なかった。では、もっと非力なけん銃弾で効果が発揮できそうなのはどこか・・・・。

目を狙って撃つ。

逸れた。額の頭骨で弾かれる。反動で跳ね上げられそうな腕を無理やり押さえつける。次の弾も外れた、頬の肉を抉るに留まる。

だが、もう犬は目の前だ。外すのが難しい。ようやく、目に当てる。

目に当たった弾は脳に多少なりともダメージを与えたようだ。

足に力が入らなくなったのか、犬は姿勢を崩す。

だが、勢いは急には殺せない。減速したとはいえ、かなりの速度で犬が突っ込んでくる。

足に力を込め、懸命に回避しようと横に飛ぶ。

避けきれない。右足に衝撃。痛みは感じなかった。

右足の衝撃で身動きがとれず、背中から地面に落ちる。3点式スリングで首から吊っていた64式が胸の上に落ちてきた。5kg近い重さだ。

肺が苦しい。咳き込みたいのを我慢して、吐き気を無視して起き上がる。

9mmけん銃はどこかに吹飛ばされていた。

犬から注意を逸らさずに64式の弾倉を交換して、弾を装填する。続いて、64式に銃剣を着剣する。安全装置も連射から単射に切り替える。

銃口を向けたまま慎重に犬に接近する。

右足が痛む。思うように歩けない。それでも、着実に犬に近づいていった。

驚いたことにまだ、生きていた。呼吸のために胸が上下していた。だが、胸部からは血に混じった泡が出ている。肺に傷がついているのだ。長くは持たない。

もう見えているかも怪しいが、犬は視線をこちらに向けてきた。

その目は痛みからだろうか、涙を流していた。俺の潰した右目は血が混じった赤い涙だ。

致命傷だ。もう、助けることはできない。だが、俺にも出来る唯一のことがある。

Coup de grâce(クー・ド・グラース フランス語。慈悲の一撃)、痛みからの永遠の解放だ。

後頭部に向けて64式を構える。ダットサイトの光点は遠距離用に設定している。少しそれを考えてから照準しなおす。

右手の人差し指をゆっくりと絞る。

銃声とともに肩に反動がきた。

・・・・・・・・・・・・・ようやく戦っている際には聞こえなかった銃声が聞こえた。

耳鳴りが止まらない。

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