MRE
Meals, Rarely Edible(滅多にないメニュー)
目の前には竹の様な植物で作られた器が三つ並んでいる。
汁、主食、飲み物の三つだ。
汁は肉と野菜のごった煮。
汁の量に比べて具が多い。
主食は茶色の見たことが無い穀物のお粥。
飲み物は乳白色の液体。
飲み食いするためだろう、木彫りのスプーンも添えられている。
全員に配食が済んだようだ。
身なりの良い犬頭の一声で食事が始まった。
そして、俺はというと少し悩んでいた。
正直に言おう。
食が合わない、人体に有害な物が含まれていないか不安だったのだ。
更に言えば、故意に毒物が混入されている可能性も否定できなかった。
恐らく杞憂だろう。
だが、わからない。
可能性は減らすべきだ。
荷物の中から箸を取り出す。
その箸で汁の具を一つまみする。
箸の向かう先は隣の果物を食べてる小柄な犬頭。
鼻先に具を突きつけると、犬頭は困惑したのか耳をペタンと伏せさせる。
それにも気にしない風に口元に近づけてやるとおずおずといった感じで食べた。
良くやったといった感じで頭を一撫でしてやる。
伏せていた耳はピンと立ち、尻尾の動きはせわしなくなった。
ふむ、まあ即効性の毒とかは無かったようだ。
引き続き、主食と飲み物を毒見させる。
犬頭は嬉しそうだった。
本当に行動がいちいち犬っぽく見ていて飽きない。
まあ、毒物等については安心なようだ。
そろそろ、俺も一口頂こうと思ったのだが、そのときようやく気がついた。
周囲から見られている。
敵意とかは感じられない。
まあ、よそ者の存在が珍しいのだろう。
汁を一口、口に含む。
薄味だが美味い。
塩がベースに、肉と野菜の味わいが絶品だ。
素材がそのままの素朴だが、繊細な味わいのスープは、昨日から果物しか食べていない俺には刺激的過ぎた。
満足の吐息がこぼれる。
肉は犬肉だろう。
硬いが、前歯で噛み裂き、奥歯で噛み締める度に、肉の濃厚な旨味が染み出してくる。
かなり長い時間、煮込んだはずなのに、ここまで肉の風味が残っているは面白い。
臭みが残っているのも良い。
鳥とも、豚とも、牛とも似ても似つかぬ風味だ。
野菜はヨモギの様な草だった。
これも良い。
口に含むと青臭さ、噛むと若干の苦味、最後は爽やかな後味を残していった。
肉に合う。
むしろ、肉の臭みを抑える為に入れられているのだろう。
食感も良く茹でられて柔らかくなっている物と、若干の歯ごたえが残っている物の二種類がある。
時間差で入れたのだ。
味わいに変化があって、これは面白い。
正直驚いた。
犬頭の味覚は人間に近い。
更に言えば、作った犬頭はかなり料理が上手いに違いない。
そう思ったら、主食のおかゆに手を伸ばさざるを得ない。
スプーンですくい一口。
少し塩が入れられているようだ。
謎の穀物は少し歯ごたえがあり、噛めばプチプチとした感じの食感だ。
唾液と含ませるように口内で何度も噛み締める。
少しの甘みを感じる。
デンプン質のようだ。
ならば、良く噛まなければならない。
おかゆなので流し込むことが出来るのだが、消化に悪い。
何より、食感が楽しいのだ。
良く噛めば、様々な旨味が感じられる。
茶色の見かけのわりに、本当に繊細な味わいだ。
正直、塩は余分に思ったが、これはまあ些細な問題だろう。
最後に飲み物を口に含んだのだが・・・・・・。
これには少し困惑した。
酸味に苦味が混じった飲み物だったのだ。
正直に言うとあまり美味しくない。
川の水で冷やされているのか、冷たいのでこれも非常に気を使って作られているはずなのだが・・・・。
もう一口、口に含んで舌先で口内で味わう。
苦味以外に甘みと慣れ親しんだ風味を見つけた。
・・・・・・・・・これは酒だ。
度数は3パーセント程度だが間違いない。
原料は何だろうか?
正直想像できない。
酒は糖分かデンプン質があれば、何からでも作れるのだ。
それと、この酒は恐らく失敗作ではない。
このような味か、このような味しか作れないのだ。
ならば、少し味わいを変えてみよう。
果物を一つ取り出して銃剣で輪切りにする。
果汁を一絞り。
絞り終わった輪切りを酒の中に沈める。
絞っていない輪切りに切れ込みを入れて、竹の器の飲み口に輪切りを刺しておく。
まるで和風カクテルのように華やかになった。
飲むと苦味を少し感じなくなり、酸味と甘みが合わさって別の飲み物のようだった。
逆に苦味が最後のアクセントになり、渋めの通好みの味わいだ。
乳白色だった色も若干カラフルになり良い感じだ。
これは美味い。
隣の犬頭にも勧める。
一声、何か呟いた。
美味かったらしい。
余った輪切りを周囲に配るように持たせる。
犬頭は驚いたのだろう。
こちらを見てきたが、意図を理解したようだ。
周囲に配り始めた。
周囲から感嘆の声が聞こえる。
ああ、良い事をした。
良い食事には、良い酒がつきものだ。
今回ので犬頭の食生活に若干の潤いが持たされたなら、これに勝る喜びは無い。
少なくとも、一食のお礼は出来たように思う。
少しでも信頼してもらえればいいのだが・・・。