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トラップ

目が覚めると周囲は真っ暗闇だった。

腕時計のスイッチを押す。暗闇に慣れた目には文字盤は明るすぎる。

05:24・・・・・この時間ならまだ寝てれるなと思った瞬間に目が覚めた。

もう、点呼とかとは無縁の生活だったのを思い出した。

名残惜しいが、もぞもぞと毛布の中から這い出る。

・・・・・・・・。

寝床から落ちた。

真っ暗闇だったので、一瞬何が起きたのかわからなくてパニックになりかけた。

屋内射撃場なので床が跳弾予防のための土でよかった。コンクリートの打ちっ放しだったら更に痛い目にあっていたことだろう。

呻きつつ、昨日作った寝床の事を思い出す。

地面に直接毛布を置いて寝たら底冷えするに違いないと思い、折りたたみテーブルを二つ使って寝床を作ったのだ。毛布は腐るほどあるので、それをふんだんに使いフカフカのそれはもう素晴らしい寝床が出来た。枕も毛布だ。

ちなみに、高床式寝床にしたのはもう一つ理由がある。

寝ている間に虫や蛇が寝床に潜りこんでくるかもしれないので、その可能性を少しでも減らしたかったのだ。まあ、落ち葉など遮蔽物が一切無い土しかない射撃場内にはあまり入ってくる可能性は無かったが。

それと、もう一つ虫対策をした物がある。靴だ。

編上靴には脱いだ後に、履いていた靴下をそのまま被せておいた。

こうすれば虫が入っていることが無い。クウェート勤務の際にサソリが入ってくる可能性があるので教わった方法だ。まさか、また行うとは思わなかった。

懐中電灯で探して履く。

ああ、それと64式だ。弾帯には装備一式が付いているので、これとリュックで大体準備は完了する。

重たい金属扉を開けて、外へ一歩踏み出す。既に日は昇っていた。

さて、今日は何が出来るだろう。

ああ、その前に、靴紐を結ばないと・・・・。


とりあえず、今の急務はトイレの設置だ。

衛生管理は重要だ。

射撃場から少し離れた位置、一応風下らしいところに穴を掘る。

木の枝で掘ったが物凄く効率が悪い・・・・。射撃場内の資材置き場に草刈用具と共にスコップ等があるかもしれないので後で探しておくことを心に誓う。

それはともかく、限界が近い。

装具類を外すのももどかしい。

ああ、何とか間に合った。

狙撃、監視任務中の狙撃手じゃないのに服の中に漏らすなんてのは悪夢だ。

満ち足りた一瞬を過ごした後に、はたと気が付いた。

紙が無い。

・・・・・・・。

様々な手段が脳内を巡る。

どれもこれも非現実的か衛生的じゃないか、精神衛生上よろしくない物ばかりだ・・・・。

そんな中でもっとも実用的なものというと・・・・。

周囲を見渡す。

アレが適当だ。

しゃがみこんだ格好のまま、ずりずり近寄る。

木から葉っぱを一枚手にとる。手触りは問題ない。毒性が無いかを手を使ってチェックする。うん、かぶれない。

念のために、噛んだり、口内の粘膜で調べてみたが問題なかった。

因みに、この葉は意外に爽やかな風味がした。何かに使えるかもしれない。

ともあれ、トイレの問題は完了した。

装具を手早く身につける。

そこで、ふと思い出したことがある。

そういえば、昨日この周辺にいた犬頭は何処に行ったのだろうか?

・・・・・・・・背後を見る。

興味津々といった感じの犬頭が何体かいた。

いつから見られていたのだろうか・・・・あまり考えたくない。


顔を洗うついでに水分の補充をしようと湖に向かって歩いている。

歩きながら昨日収穫した木の実で朝食だ。

美味いのはいいのだが、流石に飽きがくる。もう少しバリエーションが欲しい。何より、この食生活だと塩が体内から減ってきて体調を崩す可能性が高い。

タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラル、微量元素をバランスよく摂取しなければならない。

狩りか釣りが必要だ。

水を補充したら狩りに必要な情報を色々と調べなければならない。

トラップを仕掛けようとも思ったが、それは断念せざるをえなかった。

その理由は・・・・・。

背後を一瞥する。ゾロゾロと犬頭の一団がついてくる。

・・・・・・・・・・・こいつらがトラップに引っかかる可能性が高いからだ。

トラップというのは効率がいい。

何故ならば、トラップは一度仕掛けてしまえば、それの様子を見に行ったり補修するだけで良いのだ。時間が自由になり、それ以外の作業が出来る。

その反面、対象が無差別だ。一応、仕掛ける位置やサイズ、種類で対象を絞ることが出来る。

スネアトラップ(紐やワイヤで輪を作り、引っかかると締まって捕獲する種類の罠)なら、仕掛ける位置さえ気をつければ二足歩行の生き物ならば無傷で外せるように設置することも出来る。だが、それでも仕掛けないに越したほうがいいだろう。

デッドフォールトラップ(罠にかかると重量物が落ちてくる種類の罠)や、スピアトラップ(罠にかかると槍が刺さる種類の罠)は危険度が高すぎる。

もし俺が仕掛けたトラップによって犬頭が死傷してしまった場合、敵対関係かそれに近い状態になる可能性が高い。それだけは拙い。

こちらのアドバンテージは銃の有無だけだ。

平地等での遠距離戦ならば、多少の数的な優位など無視できる。それが森林等で遭遇戦の場合等は正直勝ち目は薄い。おまけに、既に射撃場の位置も判明しているのだ。篭城してもいいが、食料が尽きれば終わりだ。なので、犬頭が引っかかりそうなトラップは使えない。

そうなるとまあ、俺が知っている罠のほとんどが使用できない。

唯一使えそうなのは鳥用のヌーズスティックトラップ(鳥が止りそうな木に紐で輪を作り、止ると締まって捕獲できる罠)とかだろうか。位置的にもこれならば安心だ。

これは、餌場等を調べておこう。昨日果物を収穫した周囲等が良いかもしれない。鳥の糞が落ちていた辺りが良さそうだ。どのタイプのトラップもそうなのだが、動物の習性を熟知していなければ効果は無い。無駄な位置に仕掛けるのは時間と労力と資材の無駄だ。全ては有限なのだ。

そういえば、魚用にもトラップは使える。

木の枝やツルでカゴを作れば、一定以上のサイズの魚のみが取れるので安心だ。小魚は逃げていくのだ。

ただ、魚用のトラップには根こそぎ捕ってしまうものがあるのであるので注意が必要だ。ダムと網を使うタイプは特に危ない。

一時的な滞在ならともかく、長期間いる可能性が高いのだ。

根こそぎ捕ってしまっては、それ以降魚が手に入らなくなる可能性があるのだ。それは拙い。あくまでもバランスを考えねば。

さて、そんな事を考えている間に湖に辿り着いた。犬頭がちらほら見える。

・・・・・・・・・・昨日見たときよりも明らかに増えている。60はいるようだ・・・・。背後にいる一段と合わせれば70体はいるだろう。

ついでに、昨日見た巨大な犬もほぼ解体されつくされていた。ほとんど骨だけだ。

肉を干したり、皮を水につけたり色々と有効活用されているようだ。

骨も道具に加工されているのも見かけた。随分とエコである。

ふと、良い匂いがした。

肉の焼けるにおいだ。犬焼き肉だろう。

ああ、この匂いは毒だ。長時間いたら切なくなりそうだ。

顔を洗って、うがいをして水分を補充したら退散しよう。

はあ、早く狩りを成功させよう・・・・。

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