第7話・黒く染まるバラ
「優希ー、黒いバラの花言葉知ってる?」
不意に、花那がそう聞いてきた。
その目は――
どこか、光がなかった。
「……」
言葉が出ない。
胸の奥がざわつく。
知っている。
でも――
言いたくなかった。
沈黙を破ったのは、凛だった。
「黒いバラってさ」
軽く腕を組みながら言う。
「“あなたを呪う”とか、“死ぬまで憎み続ける”とかでしょ?」
部屋の空気が、一瞬で冷える。
花那は何も言わない。
ただ、じっとこちらを見ている。
「……優希」
凛が小さく呟く。
「なんでそんな顔してるの?」
その言葉に、肩がわずかに揺れる。
「別に」
短く返す。
「隠し事なんてしてないよ」
自分でもわかる。
今のは――
嘘だ。
「ただ、花織の死がまだ受け入れられてないだけだ」
言いながら、視線を逸らす。
凛は何も言わない。
けれど、その目は明らかに疑っていた。
「ふーん……」
小さく息を吐く。
そして。
「まぁいいけど」
そう言って、ソファに寄りかかる。
その横で。
花那が、ゆっくりと口を開いた。
「ねぇ、優希」
その声は、やけに静かだった。
「その花言葉ってさ」
一瞬、間が空く。
「誰に向けたものだと思う?」
「……は?」
思わず聞き返す。
花那は、くすっと小さく笑った。
でも、その笑い方はどこかおかしかった。
「だってさ」
「誰かが、誰かに渡してるんでしょ?」
黒いバラ。
あの時の光景が、頭に浮かぶ。
「これ、プレゼント」
そして――
血の記憶。
「……やめろ」
無意識に、そう呟いていた。
「え?」
凛が顔を上げる。
「……なんでもねぇ」
強引に話を切る。
これ以上、考えたくなかった。
でも。
花那の視線だけは、ずっとこちらに向けられていた。
まるで――
全部、分かっているみたいに。
その夜。
俺は、一人でノートを開いた。
木下凪。
風花。
そこに並ぶ、自分たちの名前。
そして、端に描かれた――
黒いバラ。
「……これって」
小さく呟く。
もし、この花が。
ただの象徴じゃないとしたら。
「……誰が、誰に向けてるんだよ」
答えは出ない。
でも。
違和感だけが、はっきりと残る。
「……同じだ」
小さく呟く。
黒いバラ。
あの時の花。
花織の現場。
全部――
繋がっている。
「……あいつだ」
喉が、ひどく乾く。
「俺たちを殺したやつと……」
一瞬、言葉が止まる。
でも、もう引き返せなかった。
「同じ犯人だ」




