第6話・交差する記憶
「おじゃましまーす」
軽い声とともに、ドアが開いた。
「凛、遅いぞ」
「ごめんねー、ちょっと寄り道してた」
白城凛。
同じ学校のやつで、妙に情報通な女だ。
花織の事件以来、こいつとは関わるようになっていた。
「で、どうなんだよ」
ソファに腰を下ろしながら聞く。
「何か手がかりはあったか?」
凛は少しだけ間を置いてから口を開いた。
「うーんとね」
軽く指を立てる。
「花織が殺された場所にさ」
「黒いバラ、落ちてたらしいよ」
「……は?」
一瞬、思考が止まる。
黒いバラ。
その言葉が頭の奥に引っかかった。
「なんだそれ……」
「さぁ?でも普通じゃないよねー」
凛は軽く笑う。
だが、その目は笑っていなかった。
黒いバラ。
その瞬間、頭の中にある光景がよぎる。
花を持った、あいつ。
「これ、プレゼント」
そして――
グサッ。
「……くそ」
無意識に拳を握る。
「優希?」
「いや、なんでもねぇ」
視線を逸らした、その時だった。
ふと、テーブルの上に目がいく。
「……なんだこれ」
そこには一冊のノートが置かれていた。
さっきまで、なかったはずのものだ。
「それ、なに?」
凛が覗き込む。
「知らねぇ」
手に取る。
妙な違和感と嫌な感覚。
だが――
開かずにはいられなかった。
ページをめくる。
そこに書かれていた文字を見て、息が止まる。
「……なんだ、これ」
凛も覗き込む。
「え、それ……」
声が震えていた。
「20年くらい前の事件じゃん、これ」
「は?」
書かれている内容。
時間。
場所。
事件。
すべてに見覚えがあった。
「……ここ」
喉が乾く。
「俺が前に住んでた場所だ」
うっかり呟いてしまった。
凛はありえないような顔をしている、
「やっぱりなんもない、夢に出できた場所と似てただけ」
「……優希」
凛が低い声で言う。
「夢?夢にしては、冷や汗が止まってないけど」
そして――
ある一文で動きが止まった。
「……っ」
そこに書かれていたのは、自分の名前だった。
木下凪。
そして、もう一つの名前。
風花。
花那の、本当の名前。
「……なんで」
声がかすれる。
こんなもの、誰が。
どうやって。
「優希?」
凛の声が遠くなる。
視界が揺れる。
ノートを握る手が震えていた。
そしてふと、違和感に気づく。
昨日、このノートを見た時――
そこには何も書かれていなかったはずだ。
「……いや」
すぐに首を振る。
違う。
俺はあの時、破れたページに気を取られていた。
その“後ろ”しか見ていなかった。
だから、白紙だと勘違いしていた。
「……そうか」
小さく呟く。
俺が見落としていただけなのか。
それとも――
ノートそのものがおかしいのか。
「ひとつページ破れてるじゃん。」
「おかしい。なぜ、詳しく書いてある」
メディアに取り上げられるような量の情報じゃない
混乱の中で、ただ一つだけ確かなことがあった。
このノートは、花織が書いたノート、花織は何か知ってるのか。
「優希。隠し事してるでしょ?」
おれは、しばらく黙った




