第5話・花と記憶
第5話 花と記憶
ー優希
とりあえず、花那が無事でよかった。
さっきまでの様子が嘘みたいに、今は落ち着いている。
「……なんだったんだよ、さっきの」
ベッドの方を見る。
花那は普通に座っている。
さっきまで、あんなに苦しそうだったのに。
「優希、ジュース欲しい」
何事もなかったかのように言ってくる。
「お、おう。ジュースか。いいぞ」
冷蔵庫を開ける。
「オレンジジュースあるから、それ飲んでいいぞ」
「やったー」
軽い声。
普通の子供みたいな反応。
……でも。
普通、か。
コップにジュースを注ぎながら考える。
あの倒れ方。
あのうなされ方。
そして。
「お兄ちゃん」
あの言葉。
誰のことだよ。
知らないはずなのに。
なぜか、引っかかる。
「優希?」
振り返ると、花那がこちらを見ていた。
じっと。
まるで、何かを確かめるみたいに。
「……なんだよ」
「ううん、なんでもない」
そう言って、笑う。
その顔。
やっぱり、どこか似ている。
妹。
いや、違う。
でも。
似すぎている。
「……それにしても」
小さく呟く。
「お前、何なんだよ」
その瞬間、頭の奥で何かが弾けた。
景色が歪む。
声が遠くなる。
「お兄ちゃんのチャーハン、美味しい!」
知らないはずの声。
でも、懐かしい。
「……風花?」
名前が、勝手に口から出た。
ピンポーン。
インターホンの音。
体が勝手に動く。
「はーい」
ドアを開ける。
そこにいたのは、花を持った誰か。
「これ、プレゼント」
違和感。
次の瞬間。
グサッ。
胸に衝撃。
何が起きたか分からない。
熱い。
視界が揺れる。
刺されたのか。
「お兄ちゃん!!」
風花の声。
来るな。
逃げろ。
そう思うのに、声が出ない。
もう一度。
グサッ。
「……やめろ……」
遅い。
「お兄ちゃん……死なないで……」
その向こうで、誰かが笑う。
「メリークリスマス」
赤と白。
サンタみたいな格好。
気色の悪い顔だった。
気づけば、俺は生まれ変わっていた。
名前も、家族も、記憶も。
全部そのままで。
そして今、優希として生きている。
「……はっ」
気づくと息が荒くなっていた。
「なんだよ……今の」
夢じゃない。
感覚が、残りすぎている。
胸の奥がざわつく。
「……くそ」
考えるのをやめる。
「そろそろ寝るか」
「花那、ちゃんと布団入れよ」
「はーい」
軽い返事。
その声を聞きながら、目を閉じる。
でも。
さっきの光景が、頭から離れない。
そして。
なんで、あいつは花を持ってたんだ。




