第4話・嘘の世界
私は、あの時死んだ。
そして、生まれ変わった。
古宮花織として。
二度目の人生を歩いている。
最初は夢だと思っていた。
でも違った。
時間が経っても、この記憶は消えなかった。
前の名前。
前の家。
前の家族。
全部、覚えている。
「花織ちゃんは頭がいいね」
近所のおばさんが笑う。
「また満点かよ、すげぇな」
クラスメイトも驚く。
「理解が早いですね」
先生もそう言った。
当たり前だ。
一度、やったことがあるんだから。
でも。
ある日、私は間違えた。
「私、前世の記憶があるんだよね」
一瞬、空気が止まった。
「……え?」
しまった、と思った時には遅かった。
周りの顔が変わる。
驚き、戸惑い、少しの恐怖。
「うそうそ!冗談だよ!」
慌てて笑ってごまかす。
「びっくりさせないでよー」
なんとか、その場は流れた。
でも、その日から。
私は気をつけるようになった。
この記憶は、知られてはいけない。
これは、私だけのものだから。
でも。
時々思う。
どうして私は、あの時死んだのか。
そして、なぜ今も。
その理由を、覚えていないのか。
そして私は、高校に入学した。
新しい制服。
新しい教室。
新しい人間関係。
全て新鮮だ、あの時は中学生にすらなれなかったから。
「ねぇ、花織ちゃんってさ」
隣の席の女子が話しかけてきた。
「なんか落ち着いてるよね」
「そうかな」
軽く笑って返す。
「うん、なんか大人っぽいっていうかさ」
当たり前だ。
中身は10年も人生を経験してるからな
でも、それは言わない。
「ありがとう」
そう言って、話を流す。
チャイムが鳴る。
授業が始まる。
黒板に書かれる文字。
先生の声。
ふと、窓の外を見る。
誰かと目が合った気がした。
「……?」
でも、そこには誰もいない。
気のせい。
そう思おうとした。
でも違う。
見られていた。
その感覚だけが、はっきりと残っていた。
その時。
廊下の方から、笑い声が聞こえた。
「ははっ、まじかよそれ」
何気なく視線を向ける。
隣のクラスの男子。
一瞬、目が合う。
「……え」
その笑った顔。
知っている。
胸が強くざわつく。
あの顔。
お兄ちゃんに、そっくりだった。
でも、お兄ちゃんは死んだはずなのに。
私は理解していた。
また、殺される。
だから残さないといけない。
このノートを。
優希に。
放課後。
「ねぇ」
「この世界ってね、嘘でできてるの」
「私も嘘でできてるんだよ」
「でもね」
「君だけには嘘をつかない」
彼は不思議そうな顔をしていた。
そのまま別れた。
家に帰る。
静かな部屋。
来る。
そう思った瞬間。
背後で気配が動いた。
振り返る。
黒いバラ。
「……え」
胸に、冷たい感触。
視界が揺れる。
赤が広がる。
黒いバラが床に転がった。
同じだ。
あの時と。
意識が、途切れる。




