第15話・私の記憶
ー花那
あの羽……。
さっき優希が見つけてたやつ。
(やっぱり……)
私も、この体で“移動”した時――
同じように、羽が落ちる。
「……なんで」
小さく呟く。
思い出したくないのに。
体が、覚えてる。
「あっ……これは」
足元に、紙が落ちていた。
折りたたまれているだけの、白い紙。
「手紙……?」
拾い上げる。
嫌な予感がする。
でも、開かずにはいられなかった。
そこに書かれていたのは――
ー2006年12月24日
〇〇県〇〇市〇〇町
間宮家児童殺害事件
・凪
・風花
「……は?」
息が止まる。
なんで。
なんで、こんなものがここにあるの。
「……なにこれ」
ありえない。
こんなの、知られてるはずがない。
「……気持ち悪い」
手が、震える。
そのまま紙を握りしめた。
ー家
「あー食った食った!」
「そうね」
いつも通りの会話。
いつも通りの時間。
でも――
(引っかかる)
頭から離れない。
あの紙。
あの内容。
「……部屋戻るね」
そう言って、立ち上がる。
でも。
向かったのは、部屋じゃない。
ー路地裏
静かな場所。
人の気配がない。
「……久しぶりだね」
小さく呟く。
「烏丸さん」
その瞬間。
空気が、わずかに揺れた。
「……あぁ、久しぶりだな」
低い声が、返ってくる。
姿は見えない。
でも、そこに“いる”。
「復讐はどうするんだ」
「復讐ね」
少しだけ、考える。
「まだ……分からない」
目を伏せる。
「お兄ちゃんを殺した犯人」
「まだ、見つかってないんだよね」
沈黙。
「……わたしも分からん」
烏丸の声。
「ここから動けないからな」
「そっか」
小さく笑う。
「私がこの体を使えるのも」
「烏丸さんのおかげだもんね」
風が、わずかに吹く。
黒い羽が、ひとつ落ちた。
「……あぁ」
短い返事。
「花那」
名前を呼ばれる。
「お前は、強く生きろ」
その言葉に。
ほんの少しだけ、表情が揺れる。
でも。
すぐに、いつもの笑顔に戻る。
「はーい」
軽く返す。
「この体、大事に使うね」
「そうじゃ。くれぐれも事件には気をつけるんじゃぞ」
「わかったよー!じゃあねー」
ヒュッ――
一瞬で、その場から消える。
羽だけを残して。
ー家
静かに戻る。
誰にも気づかれないように。
「……この事件、おかしいことがあるんだよ」
リビングから、声が聞こえる。
(……優希)
足を止める。
少しだけ、扉の隙間から覗く。
「バラなんだけど」
優希の声。
「ここら辺、花屋がないんだよ」
「ここに住んでるから、凛も分かるだろ?」
「そうね」
凛が頷く。
「そもそも黒いバラなんて、売ってるとこ少ないし」
「だよな……」
考え込む優希。
「やっぱりーここに住んでる人じゃないんじゃない?」
(……)
どこかにワープしてるのか?
バラのある場所に。
ズキン、ズキン――
「うっ……」
頭が痛む。
「おい!花那、大丈夫か!」
黒いバラ……。
花畑……?
あれ、人が写ってる。
あの目――光がない。
「うぁーーーーー!!」
――
あれ……。
ここは、家。
戻ってきたのかな。
――お兄ちゃーん!お母さん!早く早く!
――そんなに急がなくても大丈夫だよ、風花ー
「あ……」
あれは。
お兄ちゃんと、私。
お母さんが、久しぶりの休みの時に遊びに行った時の――
記憶。




