第14話・カラスの羽と花びら
あれから、月日が経ち――年も変わった。
「最近、全然事件なくて平和だね!」
凛が伸びをしながら言う。
「あぁ、そうだな」
何気なく返す。
「あ、凛〜そこのパソコン取って」
「はいはい」
何もない日常。
何も起きない日々。
――でも。
どこか、落ち着かない。
「ねぇ、昼から商店街行かない?」
気分を変えるように言う。
「えっ!行く行く!」
凛と花那が同時に答える。
「やったー!」
花那が無邪気に笑う。
……本当に、普通だ。
ー商店街
人で溢れている。
笑い声。
呼び込みの声。
子供のはしゃぐ音。
事件もなく、この街は完全に活気を取り戻していた。
「お寿司食べたいー!」
「いいね!花那ちゃん!」
「けり寿司か、ひま寿司どっちにする?」
「どっちでもいいだろ……」
適当に返す。
その時だった。
「あれ、優希どうしたの?」
凛の声。
「なんか忘れ物?」
「……いや」
違う。
何かが――おかしい。
さっき、すれ違った人。
(……誰だ)
思い出そうとした瞬間。
ゾクッ、と背筋が冷えた。
振り返る。
「……いない」
さっきまで、確かにいたはずなのに。
人混みの中。
どこにもいない。
(なんだ……?)
鼓動が、速くなる。
理由の分からない恐怖。
あの時と、同じ感覚。
「優希?ねぇ、優希?」
凛の声で我に返る。
「あ……ごめん」
「どうしたの?」
「……なんでもない」
無理やり笑う。
でも。
胸の奥のざわつきは、消えない。
その時。
ふと、足元に目がいった。
「……は?」
地面に――
小さな、黒いもの。
しゃがみ込む。
それを拾い上げる。
「優希?」
凛が覗き込む。
それは。
黒いバラの――花びらだった。
「……なんで、ここに」
この商店街に、花屋なんてない。
ましてや、黒いバラなんて――
ありえるはずがない。
その時。
視界の端に、もう一つの“黒”が映る。
「……?」
少し離れた場所。
地面に落ちていたのは――
黒い羽。
カラスのものだ。
風もないのに、わずかに揺れている。
「……なんだよ、これ」
嫌な予感が、さらに強くなる。
バラの花びら。
カラスの羽。
まるで――
何かの“印”みたいに。
「優希、それ……」
凛の声が、少し震えている。
「黒いバラ、だよね」
「あぁ……」
短く返す。
そして、羽を見つめる。
その瞬間。
頭の中で、何かが繋がった。
(……同じだ)
あの時も。
事件現場には、必ずバラの花びらがあった。
そして――
今、目の前にあるのは。
バラの花びらと、カラスの羽。
鳥は飛ぶ時に羽を落とす、移動をしている痕跡なのか、だったらあの人は……
「優希、黒い羽って保護とかの意味があるんだよ。」
「保護……」
今は深く考えないでおこう。
花那の様子が少しおかしい気がする。




