第10話・消えた子供
「人、多すぎだろ……」
思わず呟く。
イルミネーションで彩られた遊園地。
クリスマス前ってこともあって、どこも人で溢れていた。
「いいじゃんいいじゃん!」
凛は楽しそうに笑う。
「こういうのテンション上がるでしょ!」
「いや、お前だけだろ……」
隣では。
「わぁ……」
花那が、目を輝かせていた。
「すごい……きれい」
その顔は、本当にただの子供みたいだった。
(……普通、だよな)
そう思うのに。
どこか引っかかる。
「ねぇ優希!」
花那が袖を引く。
「ジェットコースター乗ろ!」
「は?無理」
「えー!」
「即答すんなよ!」
凛が笑う。
「ビビってんの?」
「違ぇよ!」
くだらないやり取り。
周りも笑っている。
普通の、日常。
――のはずなのに。
ふと。
視線を感じた。
「……?」
振り返る。
でも。
そこには、誰もいない。
(気のせいか……?)
いや。
違う。
確かに、今。
“見られていた”。
「優希?」
凛の声で我に返る。
「どうしたの?」
「……いや、なんでもねぇ」
気のせいだ。
そう思い込もうとする。
その時。
「ねぇ」
花那が小さく呟いた。
「黒いバラってさ」
一瞬、心臓が跳ねる。
「こういうとこにあったら、変だよね」
「……は?」
思わず聞き返す。
「だってさ」
花那は笑う。
「こんなキラキラした場所に、似合わないもん」
その言葉に、妙な違和感を覚える。
(なんで今、その話……)
「おい、やめろよそういうの」
凛が少しだけ顔をしかめる。
「普通に怖いって」
「えー?」
花那は楽しそうに笑う。
でも。
その目だけは――
やっぱり、笑っていなかった。
その時。
ざわっ、と空気が揺れた。
周りの人の流れが、少しだけ変わる。
「……?」
人混みの奥。
一瞬だけ、見えた。
黒い――
「……っ」
息が止まる。
誰かが立っている。
こちらを見ている。
手に。
何かを持っている。
(……バラ?)
次の瞬間。
人の波に飲まれて、見えなくなった。
「優希?」
「おい、どうした?」
凛の声が遠く感じる。
「……今、誰かいた」
「え?」
「黒い……」
言葉が詰まる。
「……いや、なんでもない」
違う。
見間違いだ。
そう思いたい。
でも。
胸の奥がざわついている。
止まらない。
その時だった。
――ピーーーーッ
突然、園内に音が響く。
「お客様にお知らせします」
アナウンス。
ざわめきが広がる。
「ただいま、園内でお子様が一人、行方不明となっております」
空気が、一気に変わる。
「……は?」
嫌な予感が、現実になる。
「見かけた方は、すぐにスタッフまで――」
アナウンスは続いている。
でも。
もう、耳に入らない。
黒いバラ。
子供。
クリスマス。
全部が、繋がる。
「……やめろよ」
小さく呟く。
まさか。
まさか――
また、ここで起きるのか。




