想いの果てに
突然の出来事が続いたラズリーは、青年と迫り来る騎士を前に。幼き頃の両親が目に浮かんだ。
「いいかい?ラズリー。天使は善い行いを続ける事で管理者様に認められ、神になれるんだよ。」
「そうよ?ラズリー。日が昇る頃起きて、沈む頃に眠る。それもひとつの善行よ?あなたに暗い夜は似合わないわ。」
「んんん…夜眠るのは良い事なの?」
「ああ!そうさ!」
「お天道様にも見せてあげなさい?あなたのその、綺麗な瞳。」
「うん!わかった!えへへへへ…」
そして剣は振り下ろされる。
「はあああ!!!」
ぼんやりしていた白髪の美少女はその直感と決意に身を委ね、ダイヤモンドのように麗しい黄色い眼を眉でしかめた。
「ふんっ!」
「うぐっ…!」
騎士は突然胸を突かれ、背中が壁に激突した。
「セアンさん!!!なっなんだ!?何が起きたんだ!?いきなりセアンさんが吹っ飛ばされたぞ!?」
石壁に窪みと亀裂ができるほど飛ばされたセアンは、地面に片膝を着きながらも答える。砂利を噛み砕いているような焼けた声はセアンが受けたダメージが大きなものであることを知らしめた。
「だっ…大丈夫です…。」
「セアン・ロンジュ!!!何をしている!!!さあ立て!!!立ってくれ!!!」
「おい…ジジイ!てめぇいくらなんでも!!」
「カイト!落ち着け!モジャモジャが言うのもわかる!あれはただの悪魔じゃない。大罪だ!」
「知るか!そんなこと!!大丈夫ですかセアンさん!」
海音が膝を着いた女騎士に手を差し伸べた頃、二人は互いを見つめ合っていた。
「相田誠人様…」
「マサトでいいよ」
青年はまた、優しく微笑んだ。
「…マサト様。私…ラズリーは…。あなたを信じます。」
「…!」
少女は青年と、口付けを交わした。少女に生えた黒い、鞭のような尻尾はどこか嬉しそうに丸まった。
直後、二人の足元から天に飛び立つエンジンが如く。魔力と思しき黒いオーラが噴き荒れる。
「あああ…終わりだ…この国は…」
国王は前人との落差と目の前の絶望にひれ伏し、ただ。震えていた。
「カイト!マズイぞ!!あの人間、大罪の宿主になりやがった!!」
「だから知るかってそんなの!」
「俺の言うことを聞いてくれ!このままじゃ」
「軋波殿…。」
「セアンさん!しっか…り…」
軋波海音は順風満帆な高校生活を送っていた。成績は優秀。持ち前の運動神経と明るい性格で、いつもクラスの中心にいた。ある日の下校中、突然ここへ連れてこられた。牢屋は冷たかったが、ご飯はあった。不安はあっても希望を捨てなかった。あんまり乗る気じゃ無さそうだけど、歳上の転移仲間も出来た。異世界に来て、初めて出会った美女だった。そんな彼女のボロボロの姿に、初めて見る血だらけの騎士に。海音はやっと。危機を感じた。
「彼を…相田殿を斬ってくれ…。頼む…。」
「セアンさん…。」
血を垂らし、震える騎士の眼光は、国を背負うに相応しい。信念そのものであった。
「カイト!やるしかない!槍を持て!」
「くっ…クソが!」
風に飛ばされ気絶したボスの槍を拾い上げる。
「上に掲げろ!俺に続いて詠唱だ!」
隙の無いコリウスの指示に、迷う暇などあるはずも無かった。
「オーレスラリド・レスルミナル」
右手の紋章が光度を上げ、流れ出るオーラを槍に渦巻く。
同時に。誠人の儀式は終了した。
「レレイド・オータウル!」
渦巻く水の魔力は、振りかざされる槍に裂かれ、斬撃となって放たれる。
そしてマサトは。紋を刻んだその瞳で斬撃を睨み、止めた。
「止められた!?くっそー!リンクが足りないか。カイト!踏ん張れ!!」
「うるせぇガキだな…!やってるっての…!」
カイトは力を込め続けたが、槍は何かに押し返されるように空中で止まっていた。
誠人は身体を振り向かせ、留まる斬撃と海音を見つめ、別れの言葉を口にした。
「海音。元気でな。」
「誠人…!」
槍は地面を斬りつけたが、斬撃から産まれた爆煙が晴れても誠人の姿を見つけることは出来なかった。