EP.43 迷宮上層フルマラソン.5
青い空、白い雲、星屑の様に煌めく砂浜。
ここが迷宮の中だ何て、思えないよね。
どこまでも続く、真っ直ぐな砂浜の両側面に、透き通った海が広がってるの。
普通なら足を止めて、海水浴を楽しむよね?
普通なら……だけど。
『モギュゲエエエエエエ────ッ!!』
レオンちゃんの言葉を借りるなら、エンカウントしました。
「花乃歌っ、もっと速くっ!?」
「桐藤さん! 追い付かれますわよっ!」
「二人共自分で走ってよおおお────っ!」
黒い渦の中へ突入して直ぐ、この光景に目を奪われていたの。
さっちゃんも、レオンちゃんも、勿論私も。
そしたらね、海から突然出て来ました。
何がって?
『モギュゲエエエエエエ────ッ!!』
アレがだよ。
タコさんなのか、イカさんなのか。
赤く丸みを帯びた身体なのに、頭はイカさんで、脚が二十本以上あるの。
しかも、身体がデカい。
十メートルは、有るんじゃ無いかな。
さっちゃんはすかさず、私のリュックに捕まって、レオンちゃんも飛び乗って来て、私はお馬さんの如く走りました。
総重量、約百五十キログラム。
流石の私でも、バランス取りながら走るのは、凄くキツいんです。
「さっちゃんっ! スキルでどうにかならないの!?」
「この周辺には、武器となりそうなモノが御座いませんわ。軟体生物に圧縮は通じませんし、私は無力ですわね!」(キリッ)
「自信満々に言わないでよっ! レオンちゃんっ、どうにかして!」
「花乃歌。やっても良いけど……アイツの耳って何処に有るんだ?」
「耳は無くてもっ、音を拾ってる筈だよ!」
タコさんもイカさんも、音を拾う器官が有るって、昔図鑑で見たんだよ。
「野小沢さんのスキルでも、無理ですわ」
「何でさっちゃん!?」
「あの魔物は、『スクイッドオクトパス』。別名、踊る変態。状態異常耐性が、異常な程に高い魔物ですの」
「イカタコって、見たまんまじゃねえか。踊る変態って……それも見た目だよな」
『モギュゲエエエエエエ────ッ!!』
そうだよね。
二十本もの巨大な脚を、うねうねさせて、ニュルニュルさせて、走って来るんだ。
「踊る変態……間違い無い!」
「花乃歌っ! 止まるな花乃歌っ!」
「全力で走るのよ桐藤さんっ!」
「私のパンチじゃ駄目なのかなっ。このままだとっ、砂浜に足を取られて、転んじゃうよっ」
「桐藤さん。相手は軟体生物……打撃無効持ちですわ」
状態異常耐性高くて、打撃無効持ちで、踊る変態って……無敵なんじゃなかろうか。
私がこんなに、必死に逃げてるのって、八代ママ以来なんだよ。
『モギュゲエエエエエエ────ッ!!』
ぬぅぅぅっ、このままだと追い付かれる。
かと言って、さっちゃんやレオンちゃんを、置いてく訳にはいかないし、荷物を捨てるのも駄目なんだよ。
私のリュックに、二人共しがみ付いているからね。リュックが無いと、体格的に二人を運べないのさ。
「これしか、無いよね」
足を止め────『どうした花乃歌っ!?』
イカタコを睨み────『桐藤さんっ!?』
その大きなお目々に向かって、私の持ちうる限りの力をぶつける。
お顔うにうに……準備良しっ!!
『モギュゲエエエエエエ────ッ!!』
「追って来たら、食べちゃうよっ♪」(ニタァ)
『モッ!? モギュゲッッッ!?』
「脚がいっぱいだから、二十本ぐらい良いよねっ♪」(ニタァ)
『モゲッ!? モモッッッ』
ジリジリと後退し始めたよ。
魔物さんって、人の言葉分かるんだね。
そう言えばリュックの中に、お料理用の包丁が有った様な。
「さっちゃん。リュックの中に、包丁って入ってる? 有るのなら、出して欲しいな」
「……えっ、ええ。御座いますわよ。野小沢さんのリュックにも入ってますから、それをお渡ししますわ」(ごそごそ)
「ボソッ(なぁ華ノ恵…あの魔物、花乃歌の笑顔見て、逃げようとしてんだけど)」
「ボソッ(お黙りなさいな。桐藤さんに失礼でしてよっ)。桐藤さん、コレですわ」
「有難うさっちゃん」
ヒュッヒュンッ────「これなら、あの美味しそうな脚、斬れるかなぁ?」(ニコッ)
『モゲェェェエエエッ!?』
「ムグムグ……イカ焼き? タコ焼き? どっちか分かんないけど、美味しいんだよぉ」
「うん…旨い旨い。なんで私ら、砂浜で魔物食ってんだ?」
「良いお味ですわね。出来ましたら、あの本体の方を、食べてみたかったですわ」
包丁片手に斬りかかろうとしたら、あの踊る変態さんは、海に逃げちゃったの。
その際に、大きな脚を自分で千切って、私に向かって投げつけて来た。
「追い駆けて来ない様、脚を犠牲にするとは……桐藤さんの事を、勝てぬ相手と理解したのでしょうね」
「ムグムグ…食感が癖になる美味しさ。さっちゃん、私は笑顔を向けただけだよ」
「花乃歌。赤と緑の奴。普通に出てたぞ。笑顔で魔物追い払うとか……」
やっぱり笑顔になると、あのオーラが出やすいんだね。
「私のスキルって、意味が分かんないや。ムグムグ、イカタコ焼き美味しいなぁ」




