EP.43 迷宮上層フルマラソン.4
奏地区に出来た、新しい迷宮の出入口。
どんな場所なのかなと、気になってたんだけど、何か作業してる?
「ここが出入口なの?」
「そうですわ。カモフラージュの為に、噴水を作っておりますの」
「噴水? 確かに、ここの雰囲気に合ってるね」
ガーデンとでも言うのかな。
青空の下、綺麗なお花が咲いていて、とても綺麗な広場なのさ。
休憩用の長椅子も設置されてるし、なんだか公園みたいな場所だよね。
「なぁ華ノ恵。あれって貯水槽だよな?」
「ええ、農業プラント用の浄化槽ですわ。地下水を汲み上げて、循環利用していますの」
「凄げぇ設備だな。普通の農業プラントに、あんなん置けないぞ」
「そうなのレオンちゃん?」
「当たり前だろ。水の浄化槽一機で、一体幾らすると思ってんだ?」
「良くご存知ですわね野小沢さん。あちらの浄化槽一機で、大体二億程度ですわ」
「にっ……二億? 高く無い?」
「安いですわよ。一般には販売しておりませんが、売るとしたら、その数倍の価格でしてよ」
「数倍……金銭感覚可笑しくなるよ」
ここに設置されてると言う事は、間違い無く、不思議技術が満載なんだろうなぁ。
「ほら、桐藤さん。行きますわよ」
カチッ──ゴゴゴッ────
「噴水の……裏?」
「確か、ゲームでこんなギミック有ったな」
さっちゃん、絶対ノリノリで作ってるよね。
だって、理事長室なんて秘密基地だよ?
地下に降りるエレベーターとか、天井から棚が出て来たりとか、色々作ってるもん。
「ねぇさっちゃん。地区長の奏さんは、来てないの? 同行したりとかは?」
「奏は通常業務ですわ。迷宮の出入口は、この場所だけでは無いですから」
「んじゃ、私達三人で探索か?」
「そうですわね。日帰りでの探索予定ですが、念の為、こちらを背負って行きますわよ」
登山用のリュックサックだ。
今からキャンプに行くみたいで、少しワクワクしてくるんだよ。
「結構デカいリュックだなっと……重いっ!」
「軽い訳が無いでしょ。水、携帯食料、簡易トイレ、ロープ諸々で、二十キロ御座いますわ」
「二十っっっ、こんなん背負って探索出来かっ!?」
「野小沢さんのリュックは、まだ軽い方ですわ。桐藤さんには、こちらのリュックを持って頂きますの」
レオンちゃんが背負ってるリュックの、二倍の大きさだぁ。イコール、重さも二倍で四十キロって事だよね。
「よいしょっ……軽いと感じる私は、何だろう」
「花乃歌だな。その力の半分でも良いから、分けてほしいぜ」
「準備が整いましたら、行きますわよ。先ずは、黒い渦の発見からですわ」
「あれを探すところからなんだね」
「さっさと見つけて、先に進みたいぜ」
噴水の裏に設置された、秘密の扉。
開くと階段があって、そこから下りていくんだけど、何故かとても磯臭い。
「さっちゃん。この臭いって、なんなの?」
「海の香り……でしょうか。考えたくはありませんが、厄介な迷宮の可能性がありますわね」
「厄介な迷宮?」
「ええ。桐藤さんや野小沢さんは、中層エリアを見た事が有るでしょう」
「思い出させるなよ。パラシュート無しの、スカイダイビングはもう嫌だぞ……」
パラシュート無しの、スカイダイビング?
レオンちゃんも体験したんだね。私は少し、楽しかったんだよ。
「その節はご迷惑をおかけしました」
「もう拉致られるなよな」
「桐藤さんや、野小沢さんが落ちた場所。草原エリア、洞窟エリア、森林エリアの三種類でしたわね」
「うん。草原に落っこちて、ウリ坊ちゃんを追いかけたら、更に落ちたのさ」
大きな猪さんと、犬耳ミノンちゃんに出逢った洞窟なのさ。
そう言えば、土竜さんや大きな蚊の魔石を、ずっと持ったままだよね。
さっちゃんに伝えてないけど……あれはこっそり、保管しておくんだよ。
「迷宮は、そのエリアによって、脅威度が格段に変わりますの。森林エリアですと、厄介なのは蚊ですわね」
「蚊が厄介なのか?」
「そうですわ。想像して下さいまし。西瓜サイズの蚊が、群れで襲って来る様を」
「っっっ、キモいな!?」
「『イートスモーキン』と呼ばれている蚊で、その細くて長い口で獲物を刺し、肉ごと吸い尽くす、厄介な魔物ですわ」
「……出会いたく無い魔物だわ。肉ごと吸うとか、化物過ぎるだろ。なぁ花乃歌?」
「うっ、うん。そうだね、会いたく無いよね!」
既に遭遇してるんです。
私に向かって、あのお口を刺そうとして来たけど、ボキボキ折れて、自滅してました。
しかも……笑顔を向けたら逃げたのさ。
「今探そうとしている、黒い渦。その先の迷宮が、もしも溶岩エリアや、海中エリアだったのなら、今回の調査は終了ですの」
「調査しないの?」
「桐藤さん、少しは考えて下さいまし。溶岩と海中ですわよ? 熱で死ぬか、溺れて死ぬかの二択ですわ」
「ぬぅっ…確かに…」
「魔物とか出て来ないのか? 年一で上がってくんだろ?」
「その様なエリアからは、魔物は来ませんわ。正確には、環境が違い過ぎて、来ても直ぐ自滅しますの」
そうだよね。
海中の魔物さんが、黒い渦を超えて来たとしても、こっちに来た瞬間に、陸だもん。
溶岩エリアの魔物さんからしたら、急に温度が下がって、夏の暑さで凍死?
笑い話にもならない、死に方だよね。
あれは……ずっと階段を下りていたけど、ようやく通路になるのかな?
「ふぅ、階段終わった……何でさ?」
「マジかぁ。良かったな華ノ恵、楽出来て」
「……これは、初めてのパターンですわね」
階段を下りて、直線通路の先に、見えた。
普通に黒い渦が、口を開けてるの。
何の捻りも無く、隠し部屋とかに隠されている訳でも無く、堂々としている。
ゴブさんに遭遇しないし、兎さんも出て来て無いのに、あからさま過ぎるよ。
「さっちゃん、どうするの?」
「……幸い、道具は揃っておりますし、行きますわよ」
「だよなぁ。入って直ぐに襲われるとかだけは、勘弁して欲しいぜ」




