EP.42 根を伸ばすモノ
それは偶然の出来事。
とある少女が落とした、一つの小さな苗木。
その苗木は、自らが産まれ出た地のエネルギーを感じ取り、その地に根を張った。
迷宮の、無限とも思えるエネルギーを糧として、その苗木は短時間で成長し、瞬く間に成木、大木へとその姿を変えてゆく。
迷宮内の魔物達にも、明確なルールが有る。
それは、魔物による階層制限。
強者である魔物は、下層、最下層で、より強い魔物を糧として、成長しようとする為、数が少なく、上層、中層では、弱い魔物から喰われる為に、繁殖能力が高い。
中層、草原エリアの一匹の魔物が、異常を感じ取った。それは、本来ならば下層に生息し、中層に居る筈の無い存在。
いつものお散歩コースを、悠々と進んでいた正にその時、その存在を感じ取り、歩みを止めた。
迷宮を突き抜けんとばかりに、成長し続けるその大木を目にして、少しずつ、少しずつ、相手を刺激しない様に後ずさる。
反対側から、お馬鹿なゴブリン達が、何だ何だと走って来た。
今刺激されると、巻き込まれてしまう。
そう思い、全力で逆方向へ駆け出した。最早それしか、助かる道が無かった。
ゴブリン達の悲鳴が聞こえる。
次は、自分かも知れない。
そう思い、必死に、必死に脚を動かした。
何とか逃げ切る事に成功したが、遠くに見える大木が、ゴブリン達の核をも取り込み、更に大きくなってゆく。
迷宮が────揺れた。
とうとう、中層を抜け、上層に達したのだ。
上層には、質は良く無いが、大量の魔物達が生息している。
意思を持つ魔物として、むざむざ餌をくれてやる訳にはいかない。
下層の魔物が、中層、ましてや上層の魔物を喰らうなど、明確なルール違反である。
下手をすれば、この迷宮を創造された主人とやらに、創り直されてしまう。それは、自らが自らで無くなる事を意味する。
何故下層の魔物が、中層に居るのか。
そんな事を今考えても、実際に居るのだから、どうしようも無い。
万が一下層の魔物が、外界と言われる場所に出てしまったら、どうなるのか想像も出来ない。
どうにかしなければ。
でも、下層の魔物相手では、自分は全くの無力である。
長ですら、抑える事も出来ないだろう。
『お母さん、大っきな木が成ってるの。あれって世界樹?』
『違うわよミノン。あれは……似ているけど、世界樹では無くて魔物さんねぇ』
いつの間にか、背後に獣族が居た。
この中層で、気配を感じられないなんて、正直言って逃げ場が無い。
普通の獣族なら、襲って来たら返り討ちにして、骨まで喰らい尽くすのだが、この二体の獣族には、絶対に勝てない。
本能が、それを告げている。
『あらあら、ボア種が居るわね。今日の晩御飯に、持って帰ろうかしら』
終わった。そう思った。
別に、率先して獣族を襲った事も無く、寧ろ敵対しなければ、道案内までして、帰してやった事もあるのに。
『すんすん…この子、お姉ちゃんの匂いが少しするの。お姉ちゃんのお知り合い?』
『そうなのミノン? すんすん…本当ね。じゃあこの子は駄目ね、他を探しましょうか』
『そうするの! 今日はオークの気分なの!』
『はいはい。それじゃあ下層のオークを、捕まえて帰りましょうか』
『肉厚ジューシー豚カツなの! ミオンも大喜びなの!』
そう言って、獣族の二人は去って行った。
助かった?
何故?
先程あの二人が言っていた、お姉ちゃんとは、一体誰の事なのか。
そう言えば少し前に、奇妙な人間に、追いかけ回された事があった。
異様な雰囲気を身に纏い、ギンギンに血走った目を向けながら、何故か口だけ笑顔を見せて、馬鹿みたいな速さで追って来た。
一度捕まりはしたが、触ってくるばかりで、別に何の害意も感じずに、そのまま解放してくれた。
少し気に入ったので、手助けもしてやった。
あの異様な者なら、もしかしたらあの魔物を、何とかしてくれるのでは無いか。
しかし、あの異様な者が何処に居るのか、検討もつかない。
外界に出るか。
それとも、あの異様な者が、迷宮に来るのを待つか。
答えは決まっている。
外界に出て、この自慢の嗅覚で、あの異様な者を探し出す。
下手をすれば、人間達に狩られてしまうかも知れない。
若しくは捕獲されて、何某らの苦痛を与えられるかも知れない。
でも、このまま待っているだけでは、あの大木の魔物が、外界へ出てしまう。
そうなる前に、何とかしなければ。
『プゴゴッ、プゴ──ッ』
腹に力を込め、走り出す。
出れば二度と戻って来れぬと言われる、外界と呼ばれる世界へ。
こっこのウリ坊はまさかっ!?
なぁんて思いながらも後半に突入です!
感想評価等していただけましたら、禿げ身に染みる感じなので、是非にともお願い致しまするぅ。




